不器用な告白
弁当屋のシャッターがゆっくりと下りる。
最後の客が帰り、店の中が静かになる。
「今日は、ありがとうございました」
美咲が、いつも通りに頭を下げる。
「……ああ」
短く返す。
いつもと同じはずなのに。
胸の奥が、落ち着かない。
(今だろ)
頭の中で、声がする。
(ここで言わなきゃ、また逃げる)
喉が、少し乾く。
「……あのさ」
声を出す。
思ったより、かすれていた。
美咲が顔を上げる。
「はい?」
その目を見た瞬間、言葉が詰まる。
(……違う)
(こんな言い方じゃ——)
一度、視線を外す。
呼吸を整える。
逃げるな。
もう一度、向き直る。
「……うまく言えないんだけど」
正直に、そう言う。
取り繕うのは、やめた。
「一緒にいると……その」
言葉が続かない。
もどかしさが、胸に溜まる。
「……楽で」
やっと出た言葉が、それだった。
自分でも、情けないと思う。
「なんか……落ち着くっていうか」
目を逸らす。
ちゃんと伝えたいのに、うまくできない。
それでも。
「……もっと、一緒にいたい」
そこだけは、はっきりと言う。
沈黙。
長く感じる時間。
逃げたくなる。
でも、動かないで待つ。
美咲は、少し驚いたように目を見開いて——
それから、ゆっくりと表情をやわらげる。
「……私も」
小さく、答える。
その一言で、胸の奥がほどける。
「一緒にいると、安心します」
言葉が、静かに重なる。
派手なやり取りはない。
約束も、特別な言葉もない。
ただただ。
お互いに、少しだけ近づく。
それだけ。
「……じゃあ」
勇が、言葉を探す。
「これからも……その」
また詰まる。
美咲が、少しだけ笑う。
「はい」
先に、うなずく。
それで、十分だった。
夜風が、静かに流れる。
店の明かりが、やわらかくふたりを照らす。
特別じゃない夜。
確かに、何かが始まった。




