仕事の流れ
営業先からの帰り道。
手帳を閉じる。
今日の予定は、すべて終わっていた。
空は、よく晴れている。
(……終わったな)
小さく息を吐く。
足取りが、軽い。
会社に戻る。
デスクに資料を置く。
「田中」
呼ばれる。
顔を上げると、課長が立っていた。
「今回の件、よくやったな」
一瞬、言葉が出ない。
「……ありがとうございます」
「先方も満足してた。対応も丁寧だったってな」
短い評価。
でも、それで十分だった。
「この調子で頼むぞ」
「ああ」
課長はそれだけ言って、戻っていく。
席に座る。
手元の書類を見る。
ちゃんと、やれている。
前とは違う。
雑に済ませることも、適当に流すこともない。
ひとつずつ、積み上げている。
その結果が、返ってきている。
(……悪くない)
ふと、思う。
周りの声が聞こえる。
笑い声。
雑談。
仕事のやり取り。
その中に、自分もいる。
浮いていない。
取り残されてもいない。
ただ、そこにいる。
それが、妙にしっくりくる。
昼休み。
「田中、今日も調子いいな」
同僚が笑いながら言う。
「まあな」
軽く返す。
前なら、こういう会話もどこか他人事だった。
でも今は。
ちゃんと、繋がっている感覚がある。
仕事をして、話して、笑う。
それだけのこと。
それだけのはずなのに。
どこか、満たされていた。
帰り道。
空が、少しだけ赤く染まっている。
足を止める。
風が、やわらかい。
(……こんな日があるんだな)
昔の自分では、考えられなかった。
焦りもない。
追われる感覚もない。
ただ、今日が終わる。
それだけ。
胸の奥に、静かなものが残る。
誰に向けるでもなく。
「……ありがとな」
小さく、呟く。
神に向けてか。
それとも——
この時間そのものに対してか。
わからない。
ただ。
今、この場所にいること。
それだけで、十分だった。




