表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり直しの終わりに  作者: カンヌワルト
第2章1995年
12/43

仕事の流れ

 営業先からの帰り道。

 手帳を閉じる。


 今日の予定は、すべて終わっていた。

 空は、よく晴れている。

(……終わったな)

 小さく息を吐く。


 足取りが、軽い。

 会社に戻る。

 デスクに資料を置く。


「田中」

 呼ばれる。

 顔を上げると、課長が立っていた。

「今回の件、よくやったな」


 一瞬、言葉が出ない。

「……ありがとうございます」

「先方も満足してた。対応も丁寧だったってな」

 短い評価。


 でも、それで十分だった。

「この調子で頼むぞ」

「ああ」

 課長はそれだけ言って、戻っていく。


 席に座る。

 手元の書類を見る。


 ちゃんと、やれている。

 前とは違う。

 雑に済ませることも、適当に流すこともない。


 ひとつずつ、積み上げている。

 その結果が、返ってきている。


(……悪くない)

 ふと、思う。


 周りの声が聞こえる。

 笑い声。

 雑談。


 仕事のやり取り。

 その中に、自分もいる。


 浮いていない。

 取り残されてもいない。

 ただ、そこにいる。

 それが、妙にしっくりくる。




 昼休み。

「田中、今日も調子いいな」

 同僚が笑いながら言う。

「まあな」

 軽く返す。


 前なら、こういう会話もどこか他人事だった。


 でも今は。

 ちゃんと、繋がっている感覚がある。

 仕事をして、話して、笑う。

 それだけのこと。

 それだけのはずなのに。

 どこか、満たされていた。




 帰り道。

 空が、少しだけ赤く染まっている。

 足を止める。

 風が、やわらかい。

(……こんな日があるんだな)

 昔の自分では、考えられなかった。

 焦りもない。

 追われる感覚もない。

 ただ、今日が終わる。


 それだけ。

 胸の奥に、静かなものが残る。

 誰に向けるでもなく。

「……ありがとな」

 小さく、呟く。

 神に向けてか。


 それとも——

 この時間そのものに対してか。

 わからない。


 ただ。

 今、この場所にいること。

 それだけで、十分だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ