第六章 如月会長
悠也とアヤメは、謎の白衣の男の出現による混乱と、暴走した適合体の脅威を振り切り、最深部へと通じる唯一の通路にたどり着いた。
そこには、二重のセキュリティドアに守られた、重厚なエレベーターの入口があった。
エレベーターは、島の核、ナノマシン・コアの制御室がある「最下層」に直結している。
「ここです。このエレベーターで一気に最下層へ降ります」アヤメは、隠し持っていた特殊な認証カードを壁のリーダーにかざした。
エレベーターのドアが開く。二人が乗り込もうとした、その瞬間
背後の通路から、重々しい足音が響き渡った。
通路の角から現れたのは、五人の完全武装した警備員たちだ。彼らは悠也たちを完璧な射線で捉え、その中心には、黒いスーツを纏った島の支配者、如月会長が、威厳をもって立っていた。
「エレベーターに手をかけるな」
如月会長の声は、静かでありながら、地下の警報音すら打ち消すほどの冷徹な圧力を帯びていた。
「アヤメ。貴様、ここで一体何をしている?」
如月会長は、悠也の隣に立つアヤメを冷たく見つめ、すぐに悠也へと視線を移した。
「そして、その男は……」
如月会長の目が、悠也の顔と、彼がポケットを握りしめている仕草を交互に捉える。
「まさか……貴様……七瀬賢人の、息子か」
如月会長は確信をもって呟いた。その声には、長年の厄介事がついに目の前に現れたことへの、歓喜にも似た感情が滲んでいた。
「探したぞ、小僧。貴様が持っている、あの愚かな博士の最終鍵をな。手間をかけさせおって」
悠也は、ポケットの中の写真を握りしめ、覚悟を決めた。
「会長!やめてください!私たちは兵器ではない!」アヤメが叫んだ。
「黙れ、作り物の人形風情が!」如月会長は一喝した。「貴様は最高の兵器のコアだ。その制御を奪い返すために、貴様の父親が残した鍵が必要なのだ。警備員!二人を拘束しろ!その鍵は、最下層のコア制御室でこそ真価を発揮する。連れて行くぞ!」
警備員たちが一斉に銃口を向け、悠也とアヤメに襲いかかった。
悠也は抵抗を試みたが、完全武装のプロフェッショナルには敵わない。腕を捻り上げられ、ポケットから写真が奪い取られる。アヤメもまた、無力に両腕を拘束された。
如月会長は、奪い取った写真を一瞥し、満足げに笑った。
「五年の歳月を経て、鍵は揃った。これで、ナノマシンは完全に私のものとなる。さあ、エレベーターに乗せろ。制御不能の適合体どもが、私を煩わせる前に、最後の作業を完了させる」
警備員たちに挟まれ、悠也とアヤメはエレベーターへと押し込まれた。如月会長は最後に乗り込むと、悠也を射抜くような視線で睨みつけた。
「さあ、愚かな七瀬の息子よ。最下層へ行こう。お前の父の失敗と、私の勝利の瞬間を見るがいい」
エレベーターは重い駆動音と共に、地下の最深部、ルナ・コア島の心臓部へと下降を始めた。警報音と激しい揺れが、二人の絶望的な旅路を告げていた。




