第四章 異変
父の願いを叶える為主人公は更なる闇に足を踏み入れる
悠也は、父の死の真相を知った衝撃を抑え込み、アヤメが指し示した「最終鍵」の計画を聞き終えた。
アヤメは、父が残した暗号めいた数列(写真の裏の文字)は、ナノマシンの恒久的な停止コードを生成するための初期パラメータであること、そしてそのコードを入力する唯一の場所が、セントラルタワーの最下層にある「コア制御室」であることを説明した。
悠也はポケットの写真を取り出し、再び暗号を凝視した。
「わかった。そのコア制御室まで、どうやって行くんだ?ここからさらに下だろう」
「はい。この研究ブロックの下に、さらに厳重な区画があります。通常のルートは五年前の破壊で使えない。私が知っている裏の通路を使います」
アヤメはそう言って、破壊されたコンソールから立ち上がった。二人は、崩壊した研究エリア「AREA C-7」を後にし、静かに来た道を戻り始めた。
その時、けたたましい警報音が、地下の静寂を切り裂いた。
ウォン!ウォン!ウォン!
赤色灯が激しく点滅し、悠也の顔とアヤメの顔を交互に照らす。
地下全体が激しい振動に包まれた。
「何だ!?」
「まずい!セキュリティが私たちに気づいた……まさか!」
アヤメの顔が、恐怖に青ざめた。
二人が辿り着いた、資材搬入口へと続く通路の扉が、轟音と共に分厚い金属板で封鎖された。
「出口が……ロックされた!」悠也は金属板を叩くが、びくともしない。
警報のスピーカーから、無機質な緊急放送が響き渡った。
「緊急事態発生 コア区画レベルB、研究体隔離失敗。プロトタイプ脱走。全警備員は、直ちに地下最深層へ向かい、研究体を再隔離せよ。繰り返す、研究体隔離失敗!」
悠也はアヤメを振り返った。「研究体?まさか……」
アヤメは戦慄した面持ちで、セントラルタワーの中心部、つまり研究ブロックのさらに下を指差した。
「ディーペスト…私を真似て作られた兵器です。如月会長が、私が暴走した直後、地下の厳重なカプセルに移し、再度起動のための準備を進めていたプロトタイプたち。彼らが、目覚めてしまった」
アヤメの警告を裏付けるように、二人が身を潜める通路の上部を、重く、速い足音が通り過ぎていくのが聞こえた。
悠也が、通路の角から覗き込むと、その光景に息を飲んだ。
黒い戦闘服に身を包み、全身を分厚い防弾プレートで覆った完全武装の警備員たちが、二列縦隊で、地下のさらに下へと続く階段を猛然と駆け下りていくのが見えた。彼らの持つライフルは、通常の警備用ではなく、高周波を放つ特殊な兵器だ。
「警備員が、皆、最深部に向かっている。これは、私たちを追っているのではない……彼らは、暴走した適合体を追っているんだ」
アヤメは、崩壊した研究所の映像を見た時以上の絶望的な表情を浮かべた。
「資材搬入口の出口は、もう開きません。私たちに残された出口は一つだけ。コア区画の最下層に、ナノマシンの分解作用から逃れるための緊急脱出装置が備え付けられています。五年前、博士が設計した、深海への射出カプセルです」
悠也は、ポケットの中の写真を握りしめた。状況は最悪だ。出口は閉ざされ、逃げ場はない。しかも、暴走したナノマシン適合体と、彼らを追う完全武装の警備員たちが、同じ地下空間に満ち始めている。
「コア制御室と、脱出装置は、同じ最下層にあるんだな?」悠也は冷静に問い返した。
「……はい」
悠也は、決断した。
「行くぞ、アヤメ。出口がないのなら、出口がある場所まで行くしかない。父さんの残した『鍵』は、その脱出装置の傍で使う」
二人は、暴走した適合体と武装警備隊の渦巻く地下迷宮の、さらに深い闇の中へと、足を踏み入れた。




