第二章 インターン
インターン先へ向かった主人公は父の事を知る少女と出会う
バスは、居住区画にあるインターン生専用の宿泊施設クレセント・アークに到着した。
悠也が割り当てられた部屋は、必要最低限の広さしかなかった。
彼は誰とも目を合わせず、すぐにドアに鍵をかけた。
悠也はスーツケースを開け、荷解きを始めた。そして、父が最後に使っていた年代物のノートパソコンを取り出す。ルナ・コア島のインフラは全てがネットワーク化されている。
悠也は自作のステルスプログラムを起動し、如月テクノロジーズのローカルネットワークへのアクセスを試みた。
目的は、父がかつて研究員として使っていた内部認証システムだ。
彼は、父の古い写真の裏にメモされていた、暗号めいた数列を入力する。
『4-LUNA-C-724-ORP-X』
彼の指がキーボードを叩くたびに、緊張が走る。
数秒の沈黙。ノートパソコンの画面に、エラーコードが表示された。
[ACCESS DENIED]:認証コードが無効です。
悠也は歯を食いしばった。五年の月日は長すぎた。父の残した旧システムへのアクセスは、既に強固な最新セキュリティによって完全に遮断されている。
「くそっ……」
彼は諦めずに何度も試みたが、結果は同じだった。
頼みの綱だったデジタルな「鍵」は、役に立たなかった。悠也は、この島で、自らの足で手がかりを探すしかないと、決意を新たにした。
彼は、父の写真をポケットの奥深くに隠した。
翌朝、悠也はインターンシップ先の研究棟、エリアR-5へと向かった。
「エネルギー効率化推進チーム」のラボには、既に十数人のインターン生が集まっていた。
指導員が挨拶を終えると、新たな補助員を紹介した。
「……そして、こちらが、本日から君たちの研究をサポートしてくれる補助員だ。
如月所長の秘書室から特別に派遣された、アヤメさんだ」
指導員に促され、一人の少女が、ラボの入り口に立った。
彼女は、他のインターン生とは明らかに雰囲気が異なっていた。薄手のオフホワイトのワンピース姿。長い髪。何よりも印象的だったのは、その透き通るような、それでいてどこか遠くを見つめているような瞳だった。
アヤメは、軽く会釈をし、ラボの隅の席へと歩き始めた。その時、彼女の瞳が、ふいに悠也の顔で止まった。
その瞬間、彼女の顔色が一変した。
驚愕。そして、信じがたいものを見たかのような確信。彼女の瞳は、悠也の顔に強く固定された。
その視線は、周囲の喧騒が遠のくほどの異様な静けさを放っていた。
指導員が悠也に作業指示を出すと、アヤメはハッとしたように視線を外し、指定された席に静かに座った。
午後のシミュレーション作業中。ラボの喧騒が続く中、アヤメは再び静かに悠也のデスクへと歩み寄ってきた。
悠也は警戒したが、アヤメは周囲に悟られないよう、極めて小さな声で囁いた。
「あなたは……七瀬博士の息子さんですか?」
悠也は、心臓を鷲掴みにされたように動揺した。
「……そうだとしたら?」
アヤメは、切迫した表情で、悠也の目を見つめた。
「やっぱり……あなたに、伝えたいことがあります。私を信じてください。もし博士の事を知りたいなら、今夜必ず来てください」
彼女は、さらに声をひそめ、早口になった。
「今夜0時。セントラルタワーの裏手にある、資材搬入口エリアC-0に来てください。そこは警備が手薄です。私があそこから、あなたを地下へと案内します」
悠也が返答する間もなく、アヤメは「それでは」とだけ告げ、足早にラボを後にした。彼女の背中は、まるで何かから逃げるかのように焦燥していた。
悠也は、動揺を悟られないようシミュレーション画面に視線を戻したが、その胸中は激しく波立っていた。システムアクセスは失敗したが、代わりに、生きた手がかり、アヤメが現れた。
彼の運命は、この夜、ルナ・コア島の闇の奥へと進むことによって、大きく動き出すことになる。




