即堕ち
ローズ様との地獄のラヴィーナブートキャンプを終えてはや1週間。
2日目からまさかのヴィスナ様まで参戦されて、本当に本当に死ぬかと思った。
ラヴィーナ領私兵団統括と団長直々に鍛練をつけてくれるだなんて、本当はすっごいことなんだよ?
でもね、うん、なんていったらいいんだろ。
死ぬかと思った!!!!ひゃっほい!
3日目、ラヴィーナ領からノーデンに戻るとき、ヴィスナ様がめっちゃ泣き腫らした顔で『まだお嫁に行かないでねぇぇぇぇぇ!!!』と言われたときはちょっと引いた。
彼ピッピもいないのに結婚…?と思ったけど、何だか閣下の顔が浮かんで恥ずかしくなった。
『まぁまぁ!琥珀ちゃんには思い人がいるのね!』
とローズ様に言われて更に恥ずかしくなった。
閣下とはそんなんじゃないからぁ!
その、お慕いはしていますけども!
あくまで私の一方通行の感情だから!
リリィちゃんはすごいニヤニヤしてたね。
助け船くらい出さないか君は!!!
「でね、おじいちゃん、おばあちゃん。私明日出撃するんだよ、夜の支配者倒しに行ってくる。」
奇しくも出撃前夜の今日が2人の命日だった。
2人が死ぬ前の日をいまでも覚えている。
いつものように、行ってくるからねって私の頭を撫でて出ていった2人の背中を覚えている。
3日後、冷たくなった2人を覚えている。
私が此方の世界に来ての思い出にはいつもおじいちゃんとおばあちゃんがいた。
そして名前は忘れちゃったけど、熊みたいなおじさんと、ライオンみたいなお兄さんが居たっけ。
あと何故かダンケさんは毎回この2人と来てたな。
おじいちゃんとおばあちゃんが出ていったあの3日間、不安で泣きわめく私をこの3人がずっと抱き締めてくれたのを、覚えている。
私は2人の正式な養子ではなかったらしく(便宜上ラングレーを名乗っております)、2人の遺体を本来なら入れない皇室の霊廟に連れていってくれたのもこの3人だった。
今思うとほんとダンケさんたちって何者だったんだろ…こわ。
そして、身寄りが無くなった私は一時期エヴァンゲーリウム公爵家に引き取られた。
おじいちゃんとおばあちゃんは救国の英雄だった。
3度の全方位スタンピードを止め、5度の外敵進攻を食い止め、疫病蔓延を最小限に止め、戦争を回避しまくりと英雄譚を挙げたらキリがないほどすごいのだ!
ラングレー男爵を名乗って居たけど、本来ならエヴァンゲーリウム公爵だったんだって。
そんな2人の残した孤児。
さぞ扱いに困ったであろう。
毎日毎日、なんか叱られた気がするけど覚えてないんだよなぁ。
その頃は悲しくて、何もかもどうでも良くて、世界が灰色に見えたね。
ほとんど覚えてないけど、酷く背中が痛かったのを覚えている。
あれ何だったんだろ?
そしてダンケさんに連れられてエヴァンゲーリウムを離れ、学園の寮に入った。
前まではギリギリ貴族コースだったけど、一般人コースに編入した。
リリィちゃんや南方の友ことフランメちゃんとは離れてしまったけど、なんとか卒業してここにいる。
私はエヴァンゲーリウム公爵家の墓地に入れない。だって平民だしね。
だから毎年2人が死んだサレスの方向に向かって白い花を手向けるのだ。
今年はノーデンからお送りしておりますぅ。
自室でやってもよかったんだけどね、現在住居棟屋上に来ております。
誰もいなくて、1人で2人にぼそぼそ喋りかけても大丈夫なのだ。
「…それでね、…それでね…うぅ…ひっく…なんでしんじゃったの…?」
ずっとずっと疑問だった。
どうしてあんなにも強かった2人が死んでしまったのか。
確かにあれは強い。
でも2人なら倒せたんじゃないのか。
そうしたらまだ私は2人と一緒に皇都にいたんじゃないか。
そう思えば思うほど涙が出てくる。
なんで、どうして、私を1人にしたの?
膝に顔を埋め、下唇を噛み、静かに泣く。
「ラングレー、さむくないか?」
「…?かっか?」
「うん、俺だ。」
体操座りで建物の淵ギリギリにいる私を、暖かな体が包み込む。
ほぁあ…すごい安心するけどさぁ…。
「あの閣下…近いです。」
「うん?」
私の腹に両腕を回しさらに抱き寄せる閣下、すごいいい匂いがしますね!
そして私の匂いを嗅がないでくださいぃ!
「閣下…!」
「んー?ラングレーはいい匂いだな。」
閣下は、どこからか白い花を出して私の手向けた花に追加していく。
え、ちょっと多くない?
「今日は2人の命日だな。」
「え、あの、この花が誰への手向けか解るのですか…?」
「解るさ。この国の大英雄で俺達の恩人だぞ?なんならラングレーのことも随分前から知ってる。」
「随分前から…そうなんですね。」
「うん。5年くらい前。」
「5年、5年ですかー。うーん、術式創るのにはまってましたね!」
「うん、その術式に俺達は助けられてるんだ。」
「本当ですか?えー…どの術式ですか?」
「秘密。あぁ、でも今度見てくれないか?」
「はい、畏まりました。」
「うん。2人きりのときに、な?」
「…見るだけですよね…?」
「はははー。どうだろうなぁー。」
「閣下!もう!えっち!」
「ぐっときた。ラングレーもう一度。」
「えぇ…?」
不意に会話が途切れて、沈黙が降りる。
でも気まずい雰囲気ではなく、何処かふわついた沈黙だった。
「なぁラングレー。」
「はい閣下。」
「2人の死因については、恐らくだが箝口令が出された可能性が高い。皇族である俺すらも知られていない。」
「それは…」
「多分、だが。俺の父、皇帝陛下ならば知っている。だが俺がいくら聞いても、問いただしても父は知らぬ存ぜぬ絶対言わないっつースタンスを崩さなくてな。」
「皇帝陛下が?」
「うん。そこで、だラングレー。」
「お、嫌な予感。」
こういうときの勘って当たるから嫌なんだよぁ!!!
「今回のスタンピードでの活躍によっては、皇帝直々の叙勲が有る。そして最も活躍した者には皇帝陛下へ直接望みがいえる。」
「閣下もしや!?」
「うん。1番活躍すれば、2人について知れるぞ?ついでに階級特進も有る。」
「あー!!!魅力的ー!!!!」
階級があがるとですね!
貰えるんだよ!特別給与がね!
あとお給料もアップしますよ!やったね!
「ははっ!そうだろ?なぁラングレー。頑張れるか?」
「ですが今回のスタンピードは全方位からなんですよね?」
「うん。」
「各々の砦の猛者達よりも武勲をあげろと…?」
砦があるのはここだけではないし、他の砦にもめちゃめちゃ強い人はごまんといる。
例えば、サレスの副総司令。
ここで言う中将と同じ立場の方なんだけど、大型竜種を拳1つで、1発で沈めたらしい。
大型竜種は小さくても観光バスくらいの大きさはあるのにね!
「うん。」
「わー無理ー。」
「そんなことないさ。」
そうして閣下はゆったりと、言葉を紡ぐ。
私に言い聞かせるように、私の脳に解らせるように。
「なぁ?やれるだろ?俺の琥珀は。」
「あへぇ…やらせていただきますぅ…」




