暗躍する男達
「ふぅ…あー…琥珀ほんっとに可愛いわ。」
琥珀を前にすると、術式がどんどん開いていく。
この身に在りしは愛情深き獣の呪い。
1匹を番とし、その一生をかけ愛する獣。
開いてはいけない術式は開かず、愛する本能のみ開いていく。
獣の本能故に愛しているのではないか?と己を疑ったこともあるが、本能だろうが自己だろうが理性だろうが知ったことか。
この気持ちは、思いは俺自身が琥珀に対して持ったものだ。
あの子がほしくてほしくてたまらないんだ。
「よぉ坊。とんでもねー顔してんな。」
「ダンケか。仕方ないだろ?あれは俺の番だから。」
「は?こっちの許可もとらずに番にしないでもらえますぅ?書類上の身元引き受けはこっちですけどぉ?ん?やんのかおい?」
「めんどくせー…」
ノーデン北限砦食肉加工部隊隊長ダンケ。
粗野な見た目からは想像出来ないが、こいつの料理の腕前は皇城料理人を凌ぐ。
その腕前で琥珀の胃袋を掴んだ男だ許さない。
「で?食肉加工部隊は全員皇都への避難指示が出ているはずだが?」
「はん。白々しいこって。ほらよ、調査書だ。」
「うん、ありがとう。」
そして皇族直属の諜報部隊に所属している。
因みにこれは皇族のみ知っている事なので、琥珀は知らない。
多分、料理の上手なおにーさんくらいしか思ってはいない。
「しっかしなぁ?坊がそこまでするとはなぁ?あーんな純粋な娘に皇族仕込みの口説き方なんかしちゃってぇ?おーおー必死なこって。」
「うっせーな。しゃーねーだろうが、父が俺のお願いを断った方がわりーんだよ。」
俺が父に願ったのは琥珀・ラングレーの白狼部隊への編成許諾だ。
通常の部隊編成ならば許諾など要らないが、一応これでも皇族だ。
自分の部隊に編成するのであれば、身元調査が行われる。
琥珀にはダンケがついているから余裕で調査が通ると思っていた。
『実益のない平民故に武勲を上げてから。』
「俺が琥珀の身元引き受け人だからって調査に手は抜かないぞ?」
流石にイラッとした。
だが運の良いことに、お手軽武勲上げセットがあるじゃないか。
琥珀の1番知りたいであろう事を餌にするように、琥珀を焚き付けた。
すまん琥珀。許してくれ、どうしても俺はお前が欲しい。
「あーもう琥珀に何かあったら俺クーデター起こしそう。」
「ははー冗談だよな?自分から焚き付けたくせに?クーデターとか?嘘だよな?ん?」
「くそがっ…。」
内心この有能だがとんでもなく性格のひねくれ曲がった影を、証拠も残らず消してやろうかと思ったがやめた。
なんとなく、だが琥珀が悲しむかなと。
名前も年齢も全て嘘で作り上げたような男だが、琥珀を微力ながら守っているのは本当だしな。
ま、微力なんだがな。
術式鑑定書を、改めて見て頭痛に襲われる。
よくもまぁ、まだ少女だったであろう琥珀にここまでの術式を刻もうと思ったものだ。
「あー…うん。なんとなくだが、あの術式を見たときからそうだとは思っていたがなぁ。」
「身元引き受け人だってのに今まで気付いてやれなかったのは、本当に申し訳なかったと思う。あいつが上手く魔法を使えないのを、じーさんとばーさんが死んだ悲しみのせいにしていたのは此方の落ち度だ。お前たちが気付いてくれて良かったぜ。」
「気付けるわけがないぞこれは。大元の術式の中に隠蔽、透過、遮断の術式が組み込まれていた。並みの魔法使いなら一生気付けない代物だったからな。」
「まっ、あいつは並みの魔法使いじゃねーからな。自力で透過の術式を解除した痕跡があった。」
「恐らく無意識でやったのだろうな。」
「本当に規格外だな…自力で、しかも無意識であの術式を解除しやがったのかよ。」
「それよりも、だ。父は、この件について何と?」
「『そろそろ潰そうと思っていたから丁度良い』だと。俺も気に食わなかったんだよなー、たいして魔法も術式も使えないくせに威張ってるだけなんだから。」
父が丁度良いと言った、のなら堂々と潰しても良いと同義だ。
だが今はスタンピードを乗り切ることが先決だ。
「んじゃ、俺は皇都にでも帰るかね。」
「あぁ、お祖父様によろしく。」
「あ?ばれてたか。」
「ふー…。」
ダンケにもらった調査書には、琥珀の背中にあった術式の詳細とどこの誰が刻んだのかが書いてあった。
大きく分けて三家、どれも皇族に昔から使えている名家であった。
だがどの家も昨今目立った功績や優秀な人材を排出出来なくなり、没落寸前であったと聞く。
しかしここ数年で名誉挽回の如く、功績をあげている。
それも不自然な程に全て魔法に関することだった。
「さてどうしたものか。」
まさか三家だとは想定外だ。
ある程度目星を付けていた家全部だってのも頭痛の種だし、父はまとめて俺に押し付ける気満々だし。
めんどくせーが全ては琥珀の為だ、ヤル気しかない。
あー琥珀、さっき別れたばかりなのに会いたい抱き締めたい。
ん?そこの曲がり角から嫌な匂いがする。
「まぁ閣下。お疲れ様でございます。」
「あぁ。」
ヴィオレッタ・リューグナー。
中央の耄碌爺どもがこぞって送り込んでくる婚約者候補の1人で、俺の回りをうろちょろしているハイエナ女。
実力もたいして無いくせに、威張りちらかす白狼部隊の恥。
金で買った地位はうまいか?安心しろ、もうすぐ人事異動がかかるからな?さっさと中央に戻れ、さもなくば死ね。
「お疲れでしたら、このわたくしが癒して差し上げますわ。」
「いらん。」
「つれないお方。良いじゃありませんか、わたくしたちは将来夫婦になるのですよ?」
「はぁ?」
俺の嫁は琥珀・ラングレーですけど?
「わたくしがあなた様の婚約者ですものね?」
そう言って腕を組んでくる女。
あー無理無理鳥肌止まらん。
「触るな。」
「えっ?」
「触るな、と言ったんだ。皇族である俺に気安く触るな。あと婚約した覚えもない、故に貴様は他人だ。去れ。」
「ヒッ!も、もうしわ、け」
「…邪魔だ、どけ。」
俺達皇族には魔眼が発現する。
時を止めるとか、ものを燃やすとかそんや便利な魔眼ではなく、他人に威圧をかけるだとか、暫く動けないようにするものとか。
それを使って俺はこの女に、威圧をかけた。
ほんのすこーし威圧しただけでこれだぜ?
本当に白狼部隊から今すぐ出ていけ?
「閣下が、振り向いてくれないのは、全て全てあの落ちこぼれのせいね…!最近調子が良いからって舐めないで欲しいわね?」




