リリィの追憶または春色の死神
ぼんやり空を見ていたら眠たくなってきた。
ちょっとだけ、ちょっとだけねよ…スヤァ…
「ん?おやまぁ、可愛いことだ。」
『うぉん。』
「あぁ、ベス。見ていてくれたのか。そうだな、このままでは風邪を引いてしまう。よっこいせっと、おや軽いな。ローズちゃんに相談してウェイトも増やさねばな。」
『きゅーん。』
「よしよし。ベスにはとれたて新鮮ホーンディアーをやろう。さぁ、かえろう。」
「ローズ様ぁ…かんべんしてください…」
「おやおや、琥珀ちゃんは夢に見るほどしごかれたみたいだねぇ。」
『うぉん!!!』
「ふっんぬぅぅぅぅぅぅ…!!!!」
「お嬢様!いいです順調です!」
「はぁああああ…!!!」
「いいですよ!」
「いくわよ!!!」
「お任せください!結界は張りました!」
「ふぅー…はぁあ!!!!」
「!!!!やりました!お嬢様!」
「えぇ、私にかかればこんなの朝飯前よ!」
「えぇ、えぇ!お湯が適温で沸いております…!」
ラヴィーナ辺境伯令嬢である私は完璧である。
マナーやセンス、貴族たるものこれくらいは完璧でなくては。
ノーデン砦白狼部隊攻撃先鋒所属の私は不完全ある。
魔力操作ができないのだ、軍人たるものそれくらいできねば。
私は加減が苦手。
従兄殿や中将にも言われているが、保有魔力が多いとは言え1発1発に籠める魔力量がおかしいのだそう。
自分じゃわからないんだけどね。
広範囲殲滅魔法は派手で好き。
あー!魔法使ってるー!って感じがして好き。
でも周りはそうじゃなかった。
普段の学校生活では、辺境伯の名前だけ見てすり寄ってくるのに魔法演習となると離れていく。
暴発に巻き込まれたくないって、死にたくないって。
確かに何度も暴発したし、死にかけた。
お父さんやお母さんには沢山迷惑をかけた。
ラヴィーナ領だって、私の暴発のせいでめちゃめちゃになってしまった(演習地だから大丈夫なんだけどね)。
そうして、自然と1人で演習するようになった。
寂しくはない、けど悲しかった。
そんなときだった。
季節外れの転入生。
ラングレー男爵令嬢 琥珀・ラングレー。
夜の帳の髪と、蜂蜜みたいな瞳の可愛い女の子。
『はじめまして。』
だなんて、はにかんで笑う可愛い可愛い琥珀。
そうして余り者同士で組まれた琥珀との初めての演習。
そこで私は魔法を暴発させた。
今じゃ考えられないけど、琥珀が嫌いだったから。
きっとこの子もまわりのみんなと一緒で、私の事を遠巻きに見るようになるんだって勝手に思ってた。
そうしたら何だかイライラして、うっかり魔力を籠めすぎた。
それもかなりの量。
いやー、死ぬかと思ったよ。
実際学園まるごと焼き尽くす魔力量だったからね。
でも死ななかった。
何故かって?琥珀が暴発する前に魔法を結界に閉じ込めたから。
琥珀の結界内で爆裂し、四方を舐めるようにうねる炎と雷。
それを見ていたまわりは何時ものごとくヒソヒソ後ろ指を指す。
あー…やってしまった、と脱力して地面にへたりこみ項垂れる。
暴発が終わり結界を解いた琥珀が私の側に来て、手を握る。
『あなたの魔法すっごいね!!!炎と雷なんてかっこいい!!!ねぇ!今の魔法なんて言うの!?すごいすごい!…あ、ごめんなさい、つい興奮しちゃって…!あれ!ラヴィーナ様!?泣いて、うそ怪我しました!?大丈夫ですか!?医務室ぅぅぅぅ!!!!』
私の魔法を閉じ込めたあなたの方がすごいのに。
みんなを助けたあなたの方がかっこいいのに。
この魔法に名前などなく、私の感情のままだと言うのに。
美しい琥珀色の瞳をキラキラさせて、そんな事言われたから、私の中の何かが弾けた。
そしてそれは涙として外に出た。
その後琥珀は『ラヴィーナ様を医務室に連れていきます!』と私を横抱きにして医務室まで運んでくれた。
『待っててくださいね!すぐつきますからね!』
だなんて言うから、可笑しくてつい笑っちゃった。
大丈夫、どこも痛くないの。でも心が痛いの。
嬉しくて、楽しくて、温かくて痛いくらいなの。
いきなり笑だした私を見て琥珀ったら顔面蒼白だったわね。
伏せた瞳を開き、追憶を終える。
あれから必死で魔力操作を練習した、それはもう血反吐吐く位には。
そして何時も横には琥珀が居てくれた。
あーあと我が家との確執深い南方の辺境伯令嬢もいたわね。
まぁその話は追々、ね☆
「あらぁ?琥珀ちゃんは?」
「あ、お母さん。琥珀はまだ帰ってないよ?」
「あらやだ。あのこったら野原で寝てるのかしら。心配だわ、ちょっと見に行って来るわ。」
「お母さんまた限界まで鍛練したでしょ。私も行く。」
「おや、その必要はないよ。」
「お父さん!お帰り!」
「ただいま僕の美しい花達。ほら琥珀ちゃんならここに。」
ヴィスナ・ヴァイス・ラヴィーナ。
新緑を閉じ込めた瞳の柔和な男。
しかしその実、このラヴィーナ領で1番強い。
お母さんより強いのがこのお父さん。
春の風のように柔らかな容貌から想像出来ない位にはえげつない戦法を好むことから別名、春色の死神。
「まぁ!琥珀ちゃんったら眉間がシワシワじゃない。えいえい☆」
琥珀の眉間を指でグイグイするお母さん。
「ちょっとお母さん、私もやる。」
「いいなー、僕もやりたい!」
「「お父さんは抱っこしてて」」
「ひゃい。」
お母さんは相変わらず眉間をグイグイしているので、私は柔らかい頬をプニプニする。
「うーん…やめ、ベスゥ…おしり…」
「おやおや、琥珀ちゃんはベスと追いかけっこをしている夢をみているのかい?」
「やだ、琥珀ちゃんったら可愛いわ。」
「当たり前じゃない?」
ラヴィーナ家は琥珀を溺愛している。
まぁ、色々あったからさ。溺愛せざる終えないってやつ。
「琥珀ちゃん、3日と言わずずっと居たらいいのに。」
「そうだね、リリィと姉妹になるよう養子に迎えよう!」
「いいねそれ。多分従兄殿が狙ってるから、今のうちに琥珀の後ろ盾に「待って待って、リリィ待って。」ん?」
「従兄って坊やの事ね?」
「うん、ラインハルト兄さん。」
「まぁまぁまぁまぁ!!!!!これは早急に養子に迎えなくては!!!」
「僕の娘たちはお嫁にあげません!せめて僕を倒してから!」




