デッドが死を選べるわんぱく欲張り鍛練セット
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!しぬ、しんじゃうよぉおおおおおおお!!!!!」
「おーっほっほっほ!!!ニンゲンこれしきで死ぬほど柔でなくてよ!さぁもっと走って避けて死になさい!!」
「いま!いましねっていった!」
現在私は迫り来る鞭を避けに避け、全力で走り回っている。
迫り来る鞭の威力は、ちょっと大きめの切り株さえ木っ端微塵にするほど。
死ぬ、あたったら絶対死ぬやつ!
このいきなりデットオアデットになったのは、そう理由がちゃんとある。
あれは、3時間前のことさ!
「琥珀!帰るわよ!」
「なんて???」
琥珀・ラングレー上等兵、本日の業務は報告書制作ばりに自室にて書き物をしているとリリィちゃんが来ました。
扉をもっと優しく扱って欲しいなぁ、と思いつつリリィちゃんの可愛さに全て許す私である。
「だーかーらー。家に帰るわよー!」
「なんで???」
夜の支配者との邂逅から1週間。
あれからスタンピードも本格化してきた。
それにともない、このノーデン砦は現在フル稼働なうである。
具体的に言うと、全員出撃である。
事務方を除いての全員出撃。
そして一句一言漏らさず報告書の制作義務付き。
方々から上がってくる報告書によると、どうもやつは攻撃戦線で爆笑しながら、しかも高速で飛び回っているらしい。
まじやべーやつじゃん…こわ…
「もうすぐスタンピードでしょ?あれよあれ、死ぬ前に親の顔見とけよ休暇。」
「まぁなんて物騒。」
「あと琥珀、強くなりたいっていってたよねー☆」
「そうだね!強くなりたい!!!」
「お母さんに頼んでおいたよ☆」
「死」
リリィちゃんの本名は、リリィ・ヴァイス・ラヴィーナ辺境伯令嬢。
リリィちゃんは辺境伯令嬢なのだ。
そう、辺境伯。
皇帝がおわす皇都から非常に遠いかつ、国境に近い故に私兵を持つことを許された貴族、それが辺境の伯爵。
現在の当主はローズ・ヴァイス・ラヴィーナ様。
つまり、リリィちゃんのお母様だ。
「お母さん、かなり気合い入ってたよ☆」
「死」
「閣下から3日の休暇もぎ取ってきた☆」
「我死後遺灰海撒懇願。」
「まぁそんなに喜ぶなって。」
「いや、死ぬからぁ!!!」
辺境伯の当主は私兵達のトップでもある。
トップが弱くちゃ話にならないよね?
そう、リリィちゃんのお母様、ローズ様はおじいちゃんとおばあちゃんの1番弟子であったお方。
うん、剣術、魔術、体術全て達人の域に達しているお方。
そして、私に戦い方を教えてくださった方だ。
あとめちゃめちゃにスパルタ。
一寸先は三途の川ってくらいスパルタ。
闇などない、有るのは死のみってね!
「んまぁ!坊やの手紙に書いてあった通りね?ほらほら琥珀ちゃん、攻撃は一方向から来るものではなくてよ!おーっほっほっほ!!!」
そして現在、ローズ様に鍛え直されている。
これ3日の内に死んじゃうよぉ?
「しぬ、しぬ!かすった、しぬ。」
「戦場ではハプニングも付き物ね。ベス!良いと言うまで琥珀ちゃんを追いかけなさい。あのキュートなお尻に噛みついても構わないわ!」
『うぉん!!!』
「ベスだけはかんべんしてください!!!」
ラヴィーナ家の愛犬エリザベス。
名前は可愛いでしょ?
魔獣ケルベロスをニンゲンが飼えるように、何世代もかけ品種改良かれた犬である。
その最大の特徴は無限のスタミナと噛みつきだ。
ケルベロスは自分が守ると認定したものを害されたとき、地獄の果てまで追いかけ噛み殺すと言われている。
故にベスもまた、守ると認定したラヴィーナ家の皆様の言うことは良く聞く。
私?エサ係だと思われてるよ!
「ベスやめて、むり、尻だけはかんべんしてください!!!」
『うぉーん!!!!』
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」
「よし、ベス!辞め!」
『うぉん!!!』
「よーしよし、いいこね。ハウス。」
『うぉん!!!うぉーん!!!!』
「琥珀ちゃん、生きてるかしら?」
「…(無言で手を挙げる。)」
「生きているわね。よし、本日の鍛練終了よ。及第点ってとこかしらね。」
「…(無言で手を下げる。)」
「防衛術式の多重展開、忘れないようにね?さぁ、夕飯にしましょうか。」
「…ぁぃ。」
この地獄の鍛練を始めるに当たって、閣下からローズ様宛に手紙を預かった。
私の総評と短い私信のかかれた手紙だ。
先週、夜の支配者と邂逅したあの戦闘。
あれを閣下は見ていたそう。(視力やばくない???)
私に限らず、閣下と共に戦場に立てば、閣下は公平に総評を下す。
『ラングレーは魔法の発動スピード、展開、構成どれをとっても満点だ。だが、防衛術式の展開が1ヶ所のみだった所が気になる。あと自分が移動するたび防衛術式を張り直していたな?その時間が命取りになることもある。防衛術式の多重展開はできるか?うん、できるなら多重展開をしてさらに術式を自分と共に動かせるとなお良いな。』
ラヴィーナ家は皇家と縁繋がりだ。
ローズ様の姉、カミーリア様は第3皇妃として嫁がれた。
第3皇妃様は閣下のお母様である。
そしてローズ様にとって閣下は甥っ子になる。
だから短いながらも閣下からの私信を受け取ったローズ様はとても、とても嬉しそうだった。
そうだね、簡単には会えないけど家族だもんね。
血の繋がりのある家族だもんね。
いいな。いいな、さみしいな。
くたくたに疲れて、暫く立てそうにない。
ごろりと仰向けになり、空を見る。
日本の空とは少し違う、紫になっていく空を見つめる。
広い空の下で1人になるとよく分かる。
私の心には大きな穴がぽっかり空いている。
おじいちゃんもおばあちゃんも優しかった。
リリィちゃんを含めたラヴィーナ家の皆様も優しかった。
南の友も優しかった。
ダンケさんもあんなだけど優しかった。
でも優しさだけでは覆い隠せないほど、寂しいこの穴は大きかった。
出撃すれば、忙しく働けば、死ぬ気で鍛練すれば、この穴は忘れることが出来た。
あぁ、だけど気が抜けるとこんなにもぽっかりとしている。
寂しい寂しい、帰りたい。
「おかあさん、おとうさん」
もう顔もおもいだせないや。




