ママじゃないゾ
「うん、ラングレー無事か?無事だな?よし、こっちにおいで。」
閣下が口に咥えていた根っこをぺっと吐き出しながら、ニコニコしながら腕を広げている。
しかも爽やかな笑顔ではなく、ほんのすこし闇?が混ざっている気がするのだ。
つまり、とってもイイ笑顔ってとこ。
逆さになった視界を戻すためごろりと起き上がる。
そして速やかに閣下の元へ駆ける。
「うん、いいこ。死にたくなかったら俺に捕まっていろ。」
「んぐぅっ!?」
物騒な物言いと同時に閣下の左腕に抱き上げられ、森の中を疾走する。
閣下の肩越しに後ろを見れば、森の暗殺者、サイレントキラー、黒の死こと黒曜大猫が音もなくこちらに突進してきた。
「ひえっ…もしかして私が蹴り飛ばしたのって…」
「うん、あいつ。すまんラングレー、シスから連絡は来ていたんだが如何せんあいつを相手にしてしてな。まさかこちらに飛んでくるとは思わず受け止められなかった。」
「も、申し訳ありません…閣下、来ます!防音障壁展開!!!!」
「助かる!」
『ーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
黒曜大猫は鳴かない。
厳密には鳴いているには鳴いているが、高音の為聞き取れないのです。
しかもこの鳴き声、ニンゲンの脳をや鼓膜を破壊することも可能なのでまともに聞くと暫く動けない、または死にます。
対策?鳴くときに口が左右に裂けて大きな口を開けるので、すかさず防音障壁を展開することです。
普段はめちゃくちゃ高い『キャーン』という声で鳴いてます、可愛いです。
「うん、やはりラングレーはすごいな。よし、俺も1つ良いところを見せなくてはな。口閉じておけ。」
そう言うと閣下はいきなり宙返りをした。
高く高く飛んで、眼下には勢いを殺しきれなかった黒曜大猫が大木に激突していた。
「爆ぜろ。」
いつの間にか構えていた銃身で仕留める。
閣下が撃ち抜いた弾丸は真後ろから脳髄を捉えていた。
そしてポンと軽い音とともに黒曜大猫がその巨体を横たえた。
「芯から凍って逝け。」
銃身を解いた右手を横に薙ぐと黒曜大猫はその身を凍てつかせ、キラキラと粒子になり大気に溶けていった。
「黒曜大猫をあんな簡単に…閣下凄いであっちかい。」
あまりの早業に昂っていたけど、そう!
いまの私は閣下に、その、だっこ!されているのです!
故にいつもよりその美貌が近い、むりむり近すぎる、えっ閣下の肌きめ細かすぎない?髭はえてる?睫毛まで銀に黒が混じってるのえっちすぎない?
「うん、凄いだろ。だが、ラングレーも良くやった。支援感謝する。」
「はぃ、ありが、とうございますぅ…。」
「俺の命での斥候任務とは言え、無茶をさせたな。すまなかった。」
「大丈夫です、その、丈夫さだけは同期随一だと自負していますので。」
閣下全然離してくれない、けどこの腕のなかは暖かくて安心する。
まぁ閣下の顔、直視できないけどね!
「うん、でも大きな怪我が無くて本当に良かった。あぁでもここ、かすり傷がある。」
「ポーションじゃかすり傷は治らないですからね。戻ったら回復魔法で治しておきます。」
「うん、俺が治すよ。」
そう言って閣下は私の額にちゅうをした。
そして目尻、頬、こめかみ、鼻先と顔中にちゅうをされる、と同時に回復魔法を掛けられた。
むりむりむり、しぬ、なんだこれ、しぬ。
「あ、の、閣下もうだいじょぶですから…」
あまりの恥ずかしさに顔を両手で覆う。
こんな真っ赤な顔、見せられないヨ!
「本当にラングレーは可愛いな。肌が白いから赤くなるの、すぐにわかる。そら、耳まで真っ赤だぞ?」
無防備な左耳を噛んで舐められる、とすごくゾワゾワするぅ…なんだこれえっちすぎ…だめなやつ。
「…っあ。み、みみは駄目ですよ!」
素早い動きで耳を防御する。
顔より耳だ、耳責めは本当にすけべがすぎる。
「はぁっ、その顔そそる…そんな真っ赤な顔で睨んでも、可愛いだけだぞ?」
唇と唇との距離が残り数㎝になったところで、上空から罵声が響いてきた。
『オラァ!万年発情変態皇子!さっさとラングレー連れて戻れや!こちとら魔力が限界なんだよ!!!』
『流石の従兄殿でもそれ以上同意なしで続けるなら殺害も視野にいれなきゃないけないかなぁ?』
「…チッ!!しゃーねな。いくぞラングレー。」
「はひぃ…」
「続きはまた、な?さて、飛ばすから口閉じて俺に捕まって?うん、よしいくぞ。」
「閣下そろそろおろしてくださいぃいいいいいい!?」
「はっはー!攻撃戦線範囲内だからなー!上官と共に居ないと処罰だぞー!」
抱き抱える必要は!?
てか閣下の飛行術式の速度えぐいな!?
「シスー。戻ったぞー。」
「遅い!」
あれにぶっ飛ばされたときの倍の速度で戻ってきた。
うっぷ、ちょっとよったわ。視界がグラグラしゅるぅ…。
「被害は?」
「負傷4人、そんで俺が魔力切れだ。」
「対象は?」
「夜の支配者だが、ありゃまだ幼体だな。学習中ってやつだ。」
「勝算は?」
「初っぱなからラングレーにやられっぱなしだったからな。3年前のあの個体ほどではないにしろ強いぞ。ラングレーとハルトが万全なら五分五分ってとこだが…ラングレー酔ってないか?」
「どうも中将…ぉぇっ。」
「うん、無理だな。」
「どうする?こっちは負傷、ガス欠、飛行術式酔いだ。」
少し、酔いが良くなってきたところでそれを見る。
拘束術式により身動きがとれなくなっている所に、二層の収縮魔法。
そして一番上からリリィちゃんによる広範囲攻撃魔法が絶え間なく撃ち込まれている。
本来なら広範囲に攻撃する魔法が収縮魔法により、一点にその威力が集まって凄いことになっている。
『ガッ、イタ、ガッ、イタ』
「消えろ!くらえっ!!死ねぇ!!!」
『イタイ、イタイ、ア!タスケテタスケテ!ママァァァァァァァァァァ!!!!!!!』
理解不明な事を喚きながらそれが拘束を引きちぎり、突進してきた。
ので、応戦する。
即座に銃身を展開し、撃つ。
イメージは先ほどの閣下の弾丸。
「私はママじゃない!!!」
『イヤ、シッテルケド。アーモウヤダ!カエル!カエル!カエル!カエル!カエル!カエル!カエル!バイバイマタアソボ!ア~ーーー、あ、あ、あ。またあったらつぎはころす』




