出発前の少しの感謝
「うむ、よし。」
爽やかな朝とは言いがたいが、私の朝は早い。
先日晴れて昇進を果たした私の現在の肩書きは
『ノーデン北限砦総司令付き補佐官』
と、なんとも仰々しいものだ。
詰まるところ、中将につぐ閣下の副官だ。
閣下、閣下。
そう、閣下の様子がおかしいのだ。
先日なんて、その、は、鼻先に、ちゅー、されたし、すれ違う度整いすぎて鋭利な容貌をトロトロに溶かして笑いかけてくるし。
全くもって心臓に悪いし、閣下が私の事を好き、みたいに勘違いするから控えて欲しい。
え?やめて欲しいんじゃないかって?
君はイケメンに微笑まれたくないの?
私は微笑まれたい!代償はでかいけどネ!
「よし、がんばるぞ。」
昇進し閣下の補佐官になったとて、私の部屋は相変わらず吹き溜まりの角部屋だ。
いつ移動しても良いように、少ない荷物は纏めてあるけど…いつになるのかな。
リリィちゃんに聞いたところによると、どうやらリリィちゃんと中将と閣下で揉めているらしい。
何について揉めているのかと問えば、ものすごい笑顔を向けられたので黙った。
さて、本日の私の業務は単独行動による斥候だ。
なんと夜の支配者の痕跡探しだ、気合いがはいる。
単独行動が出きるのは軍曹以上だが、特例での単独行動が認められるのは上等兵からなのです。
隊服を着こんで、武器保管所にむかう。
どうやらスタンピードの予兆が有るらしく、普段ゆるーい住居棟だってご覧の通り、朝なのにピリピリしている。
この張詰めた緊張感をものともしないのが、リューグナー嬢である。
『なんであんたなんかが!わたくしより昇進が早いのよ!』
と、サンドバッグフルコースを頂きました。
が!最近どうにも調子が良くて!
満足したリューグナー嬢が去ったあと、直ぐに回復魔法を使って事なきを得ました。
回復魔法ってスゲー。
ま、スタンピードなんかは年に何回もあるのでここまではピリピリしません。
ではなぜこんなにもピリピリしているのかですが。
そう、こちらの張り紙にあります。
この住居棟にでかでかと張り出された、宰相様による直筆の警告文だ。
長々と書いてあるけど要約すると
『もー!あんたたちってば!不正はダメだっていってるでしょう!まったく、こんなこと本来なら罰則ものよ!?今回はまぁ、許してあげる。か、勘違いしないでよね!これはあんたのとこの総司令が今回だけはって言うからだからね!!もー!次はないからな?覚悟しとけよ?』
心当たりの有るものはこの張り紙を見て顔を真っ青にするもの、または真っ赤にするものと様々な反応でした。
たまたま居合わせたエドガー軍曹は真っ赤にしていましたね!
腹いせに殴ろうとしたんでしょうが、避けてやりましたよ!
「上等兵琥珀・ラングレー。特例単独行動につき持ち出します。」
「はーい、よいバーサーカーライフを。あ、ちょいまち!」
「はい?」
「君でしょ?ここの不正持ち出しについて閣下に進言したの。」
「え?」
書類上でなら、だけど。
待って管理人さん知ってたの…?
「今時君だけだよ?私達に向かって所属に名前に使用用途をハキハキ告げるの。私達は平民、しかも階級も低い。そんな私達にいちいちお貴族様が挨拶するとでも?」
「しないんですか?」
「しないね。それに平民だから貴族には逆らえなかった。持ち出された弾丸や武器が不正に売られたり、取引されたり。知ってはいたけど、どうしようもならなかった。だって持ち出された弾丸や武器の数は申請通りだったしね。証拠とも言えるものもなかったし…そんなんだから不正の温床になっちゃったんだけどね。」
「そんな…」
「でもね、この間閣下と中将が揃ってここにきたんだ。武器持ち出し記録はあるかって。中央監査室にまとめて全て送る、すまなかったって。赴任して一度足りともここに来なかったことを詫びるって。驚いて聞いたんだよ、どうして不正とわかったんですか?てね。」
「はぁ。」
「俺には優秀な副官がいるから。ってね。そしたら君が昇進したって聞いたからさ…もしかしてって思ったけどそうだったんだね。ありがとう。」
そう言って管理人さんはにっこり笑った。
そんなの、感謝される謂れはない。
だって戦場に立てば階級はあれど、皆国を守る壁になるのだ。
そして魔獣を倒す私達を支えてくれているのは、管理人さんを筆頭に後方支援の方々だ。
何時だってどんなときだって。
ここの武器たちは完璧に手入れ調整がしてあるし、弾丸は必要数以上に揃っている。
私達が戦場で戦って帰って来られるのは、この人たちのお陰なのに。
「いいえ、私達が戦えるのはあなた方があってのこと。私達こそ感謝しなくてはいけないのに…。私もあの書類を見るまで知りませんでした。あなた方が大切にしてくれた武器なのに…」
「真面目だねぇ…あ、武器と言えばそうだった!これ、預かってたんだよー。いやー!やりますねぇ!」
「へぁ?」
そう言って管理人さんが差し出したのは小さな刀の持ち手と、遠距離狙撃銃の持ち手だった。
両方とも銀の透かし彫りに、薄い青色の魔石が嵌め込まれている。
持った感じ、魔力伝達率が高い。あまりにも高い。
すごいこれ…めっちゃ高そう…。
「うわぁ…綺麗。誰からですか?」
「閣下。」
「あわわ…」
「独占欲まるだしだね…さぁ行っておいで。」
「はっ!琥珀・ラングレー、出撃します!」




