理性とは殴るために有るのです
「従兄殿!これを見てくれ!」
「うん?どうしたリリィちゃん。」
「リリィ…ちゃん…?は?」
ラングレーが採寸されている応接室から、紙片手に鬼の形相で戻ってきたリリィちゃん。
「ラングレーは?」
「いま着替えてる。おい、想像するなよ。とにかくこれだよこれ!」
「うん?写し紙?これがどうかしたのか?」
「いいからみて!」
乱暴に手渡された写し紙には術式が写してあった。
「妨害、魔力連結、転送、変わり身…違法術式ばかりだな。リリィちゃん、処罰されたいのか?」
「おいおい、違うだろうが。問題は誰に施されたかだろ?」
「おい、まさか。」
「今採寸してたら、琥珀の背中にこれがあった。こんなの、施されて、無事であるはずないよ…。実際、琥珀は何度か背中に傷を転送されてる。ねぇ犯人探しは後でもいいから、今すぐ琥珀の背中から消してあげて!お願い!!!」
リリィちゃんが言い終わる前には、体が動いていた。
犯人は絶対に殺すとして、今はラングレーだ。
こんな違法術式が施された状態で、どれだけ過ごしてきたのかはわからない。
だが、逆に考えればこれだけ施されたのに普通以上に魔法が使えるラングレーは天才だ。
「おい、ハルトストップ!」
「放せや!!」
「今!ラングレーは!着替えてる!途中!だろうが!!!」
「一石二鳥じゃねーか!?放せシス!」
「それはちょっと従兄でも許さないよ☆」
シスに羽交い締めにされ、リリィちゃんに後ろ髪引っ張られても、それでも応接室に手を伸ばす。
放せ放せ放せ!
あの子が、あの子に傷なんて、許されない、駄目だ、許さない!!!!
「琥珀・ラングレー上等兵!へへっ、只今採寸が終了いたしました!ん?閣下新しい遊びですか?」
「え、かわい…罪じゃん…」
応接室から姿を見せたラングレーは、前髪が大変可愛い事になっていた。
真っ黒い前髪は目の上で切り揃えられ、名前の通りの両の琥珀がトロリと熔けて、困り眉で笑う。
「あの、リリィちゃんに切ってもらったんですけど…その、えっと…似合います?」
「琥珀可愛い、やっぱり私琥珀の目が好きだよ☆」
「おー、いーんじゃね?お前結構綺麗な顔してんなぁ。」
「うん、うん。全部可愛いね?」
「かわ、そ、そうですか。えへ…そっか、ふへへ。」
は?ラングレー可愛すぎでは?
リリィちゃんに目で
『よくやった。』
と伝えれば
『給料上乗せで』
と返ってきた。札束でいいですか?
「あの、ダンケさんから紅蓮牛のカツサンド預かってますので食べますか?」
「たべる!」
「おい術式!」「従兄殿!?」
「解除なんて食いながら出きる。」
「じゃあお茶入れますね。」
「うん、給湯室はこっち。」
ラングレーをエスコートしつつ、背中に触る。
いや、薄くないか…?大丈夫か?食べてるか?
術式解析…いや、剥ぎ取りにするか。
証拠にもなるし。
右手からラングレーに魔力を流す。
術式の下にゆっくり丁寧に、均一に流す。
普通ならそのまま剥がすけども、ラングレーに痛い思いなんてさせない絶対だ。
「んぅ…閣下?あの背中がなんだ…」
「うん、リリィちゃんから聞いた。背中怪我したんだって?今傷痕治してるから、不快だったらごめんね。」
「そんな…ありがとうございます。全然不快じゃないです。むしろ気持ちいいです。」
「うん、よかった。あ、これが茶葉でコップはそこ。」
「はい、じゃあお湯わかしますね。」
「うん、俺甘いのがいい。」
「じゃあ閣下の蜂蜜つかいましょう!」
均一に流し終えたら、自分の中の魔力で術式を覆い剥がす。
そして厳重に加護と回復魔法を掛けまくる。
凍結封印し、ボックスに仕舞う。
あとはゆっくり全て検分して殺すだけ。
「うん、終わった。痛くない?」
「はい!とっても気持ち良かったです!」
気持ち良かった…ふむ、悪くない。
お湯はまだ沸かない。
ラングレーの細い腰を見ていたら、なんだかゾクゾクしてきた。
するりと腰を抱き寄せ、髪の匂いを嗅ぐ。
あー…いい匂い。
「ひゃあ!か、閣下!あの!」
「んー…ラングレーは本当にいい匂いだな…。」
石鹸の匂いに僅かに混ざる甘い匂い。
ギラギラした匂いではなく、ふわふわと香るずっと嗅いでいたくなる匂いだ。
「うぅ…あっ…かっかぁ…」
滑らかな象牙の肌が美しい薔薇色に染まっている。
耳からうなじまで真っ赤だ。
その真っ赤な耳に口を寄せ、出来るだけ甘く低く囁く。
「本当に可愛い、俺だけのラングレー。」
「ふわぁ…」
「ふふ、ほら湯が沸いたぞ。」
「うぅ…あの、すごい恥ずかしいです…」
「うん、ごめんね。俺ラングレーにだけ意地悪だから、こんなこともしちゃう。」
「え?」
こちらを見上げたラングレーの鼻先にキスを落とす。
「あぁ、顔真っ赤だね?」
「きゅう…」
「あーあ腰抜かしちゃって、本当に可愛いね?」




