理性と本能 レディファイッ!
やっと一手、まだ先は長い。
もう我慢はしない。
俺の本能が、皇族の獣の本能がどんどん開いていく。
大英雄によって施された、獣の封印がどんどん開いていくのがわかる。
逃がすな、逃がすな。
「逃がさない。」
「ハルト、開けすぎだ。閉めろ。」
「うん、でもラングレー見てるとどんどん開いていくんだよな。」
「緩んできたか?一度見てもらうか?」
「いやいい。それよりもに父上に報告しとこう。本当に欲しい子が見つかったってな。」
「ラングレーがここ所属になってくれたら、まじで助かる。迅速に手配する。」
「よろしくシス。」
さて、俺達皇族には秘密がある。
遠い昔、俺達の御先祖様がとある呪いを受けた。
それはこの北限のそのまた向こう、凍てつく海を渡り、凍える山脈を越えた所にある亡国のとある魔女の呪いだ。
この国は滅ぶべくして滅んだ。
そして国が滅ぶとき、魔女はこう言った。
『なぜ、獣の良さがわからない?』
『なぜ、獣とわかり会わない?』
御先祖様はこう答えた。
理性を、思考を、本能を奪われた獣は最早獣などではない。
獣とは賢く、雄大に、自由で有るべきだ。
それを奪われた獣なぞ、肉塊に等しい、と。
『ならば、獣になれ』
『獣に成りて、自由であれ!!!』
『憎い憎い憎い!私の獣を殺したお前達が憎い!』
『人の身から理性のない野蛮な獣に成り下がれ!』
最初は軽いものだった。
ちょっと鳥っぽい顔になるとか、猫のように気まぐれだとか。
しかし世代を重ねる毎に呪いは進行していった。
魔女1人の命を代償にした呪いだ、そうそう軽いものではなかったのだ。
獣の容貌の1部を持って産まれるものや、獣そのもので産まれるものに、成長していくにつれ精神が獣になるもの。
そんな呪いのため、一時期皇族は滅亡の危機に晒された。
しかしその危機に待ったをかけたのは宮廷魔術師たちだった。
魔術師たちはその呪いを縛り付け、表に出ないよう、皇族がその身に押し込める封印を施した。
結果は大成功、呪いに打ち勝った!
…なんという上手い話などなく、その縛りの封印すらも魔女の呪いは蝕んで行く。
蝕まれ、緩み、進行していった呪いを受けて産まれたのが俺達兄弟姉妹だ。
末っ子の俺が産まれたとき、回りのものは絶望した。
なんせ獣の姿で産まれたらしい、絶望したくもなるだろう。
結果俺達兄弟の母親は自殺した。
獣を産んだ現実に耐えられなくなり、俺を産んで3日で首をつった。
宮廷魔術師たちはこぞって縛りの封印を施した、しかしそれも1週間と持たず毎週封印を施された。
大英雄と呼ばれるジョンじいさんと、クロエばあさんも掛けてくれたが、それも1ヶ月と持たなかった。
封印の激痛に泣きわめく俺達を見て、父上は焦燥に駆られた。
自分の末の子ですらこうなのに、その次の世代はどうなるのだ、と。
成長するにつれ、俺達の呪いの進行は加速していった。
1週間から5日、3日、1日ごとに封印が施された。
最初は痛くて、苦しかった封印もこの頃になると何も感じなくなった。
俺達から笑顔は消え、毎日毎日この身の獣に怯える日々。
そんな生活に終止符を打ったのは、ジョンじいさんと、クロエばあさんだった。
『さぁ、これで痛いのはおしまいよ。』
『すまない、待たせたね。』
驚くことに2人はずっと新しい封印を製作していたのだ。
ただ最後の仕上げが中々うまくいかず困っていた、しかしとある子からヒントをもらい書き上げたのだと、この封印術式はほぼあの子が考えたものなんだと。
この肌に直接書き込むことで最大限に発揮される封印術式。
まだ魔術に対して未熟だった俺達にも解るほどに、緻密に全て計算され尚かつ誰でも使える万能の術式。
獣を抑えるのではなく、その力を自らの物とし、獣の特徴を最大限に活用出きるように書き込まれた術式を見て本当に驚いた。
そして2人にこっそり聞いた。
『この術式は誰が作ったの?』
2人はこう答えた。
『ラインハルトには教えておこう。私達の一番弟子で、一等可愛い娘だよ。』
エヴァンゲーリウム魔法公爵。
現在はラングレー男爵。
だからあの夜、ラングレーに会えたのは奇跡なのだ。
正直、最初は疑ったさ。
ああ、こいつも俺の身分や顔しか見てないのだと。
とりあえず何か渡せばそれなりに取り計らってくれると思っているのだろうと。
だが実際どうだ?
見返りも求めず、自分だって疲れているのににこやかに温かい食事を提供してくれた。
無償の愛というのかな。ものすごく嬉しかった、暖かった!
顔を合わせれば『こんにちは閣下』と笑ってくれる!
嗚呼、愛しい愛しい愛しい!!
そんな子が考えた術式がこの身に刻まれていると思うだけで。
「正直、興奮する。」
「お?なんだ?発情期か?」
「うーん…ラングレーに対しては常時発情してる。」
「おっと、ただの変態だったか。」




