閣下、閣下?
「うぅ…寒い。しっかし今日は冷えるなぁ。」
そうだな、ホットミルクでも飲もう。
私が老夫婦に拾われたのも、ちょうどこんな寒い冬の夜。
冷えに冷えきった指先が痛いと目を開ければ、雪に埋もれ行く我が肢体が見えた。
うそっ、雪積もりすぎ!?と慌てて起き上がれば、目に飛び込んでくるのは見慣れた雪と、見慣れない町並みだった。
ヨーロッパとかにありそうな、煉瓦の家しかない。
我が家は築三十八年木造家屋だ。
と、なると倒れてから何処かに移動した?
じゃあどうやって?ここはどこ?生きてた。よかった。
起き上がるために地面についた手が小さい。
心なしか服もだぼついている。
何故、何、どうして。
不安な感情がぐるぐる渦巻いて、泣き出してしまった。
ポロポロと涙が溢れる。
あれ、わたしおとななのにとまらない。
「おやまぁ、大丈夫かい?」
「そんなに泣いたらその美しい琥珀が溶けてしまうよ?さぁ泣かないで。ホットミルクを入れてあげよう。」
そうして私はジョン・ラングレーとクロエ・ラングレー夫妻に拾ってもらったのだ。
あのときクロエおばあちゃんにいれてもらったホットミルクの味、忘れられないなぁ。
クロエおばあちゃんのホットミルクは蜂蜜たっぷりの甘い飲み物。
砦の住居スペース共同キッチンの冷蔵庫から、共同使用のミルクを取り出しカップに注ぐ。
温度操作の魔法を掛けながらカップのミルクを混ぜる。
まぁ私は猫舌なので、ややぬるめまで温めたらそこにたっぷり、好きなだけ蜂蜜を入れる。
本当はラム酒とか入れたいんだけど、ここにはお酒置けないからね、軍務規定だよ。
温かなホットミルクを飲みながら、キッチンの窓から外を見る。
「うわぁー積もってんなぁ…」
こりゃ明日は除雪からかなぁ。
憂鬱ー、などと考えていてら誰かが入ってきた。
「あぁ、人が居たのか。」
黒色混じりの銀髪と、鋭い薄氷の瞳の美丈夫。
「はっ!琥珀・ラングレーです。今年度よりノーデン北限防衛砦に配属に成りました。元帥閣下、任務ご苦労様であります。」
何で元帥閣下がこんなところに。
まぁ砦の共同キッチンだしな?
「あぁ、ラインハルト・カスパーだ。コハク・ラングレー…あぁ、あの。」
「えぇ。"落ちこぼれ"の琥珀です。」
そう、私は落ちこぼれ。
世界に落とされた落ちこぼれであり、学校でも落ちこぼれ。
成績も実技も悪くはなかったはず、何だけどなぁ。
「では閣下、御前失礼いたします。」
「あぁ。」
カップをシンクに置き水につける。
今日は寒いから明日洗うね…。
シャリッ
あー、閣下リンゴたべてるー。
シャリッ
あれ、ここにリンゴあったかしら。
シャリッ
あれー?リンゴにしては細長い…?
ゴックン…シャリッ
閣下食ってんのジャガイモじゃね!?
しかも生!?いや、閣下に限ってそれは無い。
無いよな?
「あの、閣下。僭越ながら今、お召し上がりになられているものは…?」
「んー?ジャガイモだが?」
「閣下ジャガイモは生では食べませんよ!?」
「そうなのか?腹が減ってな。何でもいいから食べたい。」
「いや、食堂行けばいいじゃないですか?」
「この時間食堂は閉まっているだろ?わざわざ俺の為だけに開けさせるのも忍びなくてな。」
次の言葉に私は肝が冷えた。
いやむしろ凍ったね。
「まぁ何度もこのまま食べているが、ダメなのか?」
「皇族が何言ってるの…?えっこわ。閣下、ジャガイモは回収させていただきます。」
よく見たら閣下、弱冠草臥れている。
多分、さっきまで戦線に行っていたんだろう。
「閣下、僭越ながら私が軽食をご用意いたします。ので閣下は大湯に浸かって下さいませ。」
「あー…いいのか?お前明日出撃だろ?」
「閣下がジャガイモを生で食べるよりは大丈夫ですから…!」




