晴天、洗濯日和
湯上がりに濡れた髪と、シャツから覗く鎖骨に色気。
ふわりと香るは清涼感のある石鹸。
そして私だけを見つめる薄氷の瞳は柔く、近く。
『もう痛くないか?』
ぽっ
ぽっぽぽぽぽ
あの事を思い出すだけで真っ赤になる始末。
もう数日もたつのに夢にまで見てしまう。
むにむにと緩む頬をどうすればいいのだろうか。
「はぁ…閣下かっこいい…」
本日晴天、洗濯日和也。
落ちこぼれの休日の朝は早い。
まだ日が昇らぬうちにやることがあるのだ。
今日から2日に渡る休日を言い渡されだが、落ちこぼれにはやることがある。
それは洗濯である!
それもただの洗濯ではない、大量のシーツを1人で洗わなければならないのである!
昨日、私は救護隊にいた。
戦線に出る救護隊ではなく、この砦で負傷者を治療する常駐救護隊で任務に励んでいた、のだが。
落ちこぼれの治療など受けたくないと、落ちこぼれなんかに治されたくないと多数の人に言われまして。
斯くして救護も出来ない落ちこぼれは、医務室のベットシーツ洗濯を任されたのだ。
「おー…落ちてる。」
医務室のシーツは真っ白。
対してニンゲンの血液は真っ赤。
医務室とは怪我人が来るところで、必然的にシーツは真っ赤に染まるのです。
特に昨日のように激しい戦闘があった日には特に。
昨日の夜、医務室のシーツを全て回収し水を張ったたらいにぶちこんで(水洗い済み)おいたのがこちらになりまーす。
ぬるま湯で洗うのがおすすめだよ!
たらいの水を1度すべて抜き、また新たにきれいな水を張る。
そこへアルカリ性漂白剤を入れて水流を操作してぐるぐる回す。
また水を変えて今度は粉洗剤をいれてまたぐるぐる回す、人力洗濯機!
ぎゅーっと水を絞って、風魔法で宙に浮かせ乾かしていく。
自然乾燥が好ましいんだけどね…目を離すと何故だか汚れてるんだよね…。
乾いたらきっちり畳んでお仕舞い。
これをあと24×3枚のたらいをやらなければならないのである!憂鬱!
「ふー…あっつい…」
ノーデンは北に在れど夏は夏。
日が昇り始めれば気温も上がり、日も照る。
暑いのは苦手だから早々に終わらせたかったのだが、まだもう少しかかりそう。
額から垂れる汗を拭ったその時だった。
「おーいラングレー。」
「はい?」
名前を呼ばれた、けど回りに誰もいない。
えっ?
「こっちだラングレー。」
「閣下!中将!おはようございます。」
「うん、おはよう。」
私の頭の少し上から、閣下が飛行の術式を解除して降りてきた。
まって、降りてきたってまて、やだわたしめっちゃ汗かいてる!!!
「あん?ラングレーお前今日非番じゃねーの?」
「ひわっあの、はい、非番です。」
「なんで洗濯してんだ?」
やや草臥れた風の中将もこっちに降りてきた。
まってやだ私臭くない!?大丈夫!?
「はい!この洗濯が終了次第非番に入ります!」
「うん、成る程なぁ…舐められたものだな、なぁシス?」
「あぁ、ホント糞ほど腸が煮えくり返るってもんだ。」
「あ、はい、申し訳無いです、やっぱり臭いですよね私。」
今の私の格好は支給のズボンと着古したシャツ、対して閣下と中将は真っ黒の軍服を隙なく纏っていらっしゃる。
それに沢山汗をかいているから、多分臭う。
今の私は存在自体が不快の塊みたいな物だ。
やだ、こんなの閣下に嫌われる。
…嫌われる?え?好かれてもないのに?
「うん?ラングレーは臭くないぞ?現にほら…石鹸とラングレーの甘い匂いがする。」
俯く私の首筋に鼻を寄せ、閣下がすんっと、私を嗅ぐ。え、まって匂い嗅がれて、えっ?
「あ、あの閣下?」
「んー…いー香り…。石鹸は支給の?」
「えっ、あっはい。」
「うん、俺も同じ何だけど。ラングレーの体臭か?良い香りがするー…。俺の好きな匂いだ。」
「おいハルト、こんなところで盛るな。」
「うん、狼の本能だな。」
「ここぞとばかりに狼を出すな!」
耳元で、ゆったりと、低くそれでいて甘い声で囁くように、かっこいい人に匂い嗅がれて、正気保てるやついる?
私は無理だったね!
「きゅう。」
「ふふ、腰抜けたのかラングレー。」
「お前のせいだよラインハルト。」




