遠いんじゃあ~~
『特別棟の5階執務室に居る奴に届けてこい』
『まぁ食べないとは思うが一応な』
『あとこのワゴンに繋がったこの手錠、外そうとすると…ははっ』
『あ、あとな。無いとは思う、が!伝えとくぜ…』
特殊部隊及び特殊部隊執務棟
それがこの場所の名前であーる
ノーデン砦は大きく別けて5つの棟から成り立つのであーる
まず食堂とか、談話室とかがある中央棟
訓練施設や図書館がある訓練棟
防具や武器などの管理を請け負う管理棟
角部屋は争奪戦になる住居棟
そしてここ、通称特別棟
約200から180人の一般兵が住んでいる住居棟に比べて、この特別棟は特殊部隊所属の方々しか住むことは出来ない。
5つの棟は殆ど同じ大きさなので、特別棟では角部屋争奪戦は起こらないらしい。
凄い。
「えっと…たしか5階だったよねー…?てかははってなに?怖すぎでしょ!?」
銀色サービスワゴンの持ち手から、私の左手首にガッチリとはめられた手錠。
鎖の長さは極短く、10㎝にも満たない。
大変不自由だが、右手は自由なので。
「5階は遠いよなぁ。冷めるよなぁ。一応結界と保温魔法とか、かけとこ。」
出来たてアチアチの料理には保温魔法を。
キンキンに冷えたシャンパンには保冷魔法を。
サービスワゴンを被うように時間がゆっくり流れる結界を張る。
これで美味しい料理を、美味しいまま提供できる。うーむ、我ながら素晴らしい…。
現在いるのは特別棟1階。
たしか移動転移陣が棟の右端にあったはず。
この特別棟は特殊部隊が常駐する。
つまりこの砦の最大戦力がここには居るわけで。
私達の敵は何も魔獣だけじゃない。
同盟を組んでいない敵国だとか、特殊部隊には貴族が多いから敵対する家からの刺客だとか。
そういった諸々、今まで侵入された試しは無いけれどもしも、の時のため入り口は中央棟の特別棟直結移動転移陣のみ。
そして上下階移動の為の移動転移陣は右端に3ヶ所のみとなっている。
特別棟1階には諸雑務を請け負う一般書記が勤めている。
故にこの1階は二等兵から将校に至るまで、この砦に勤めているものなら誰でも入れるのだ。
有給休暇申請もここで手続きするよー。
『やだ、あれみて。』
『なになに、あら。落ちこぼれじゃない。』
『まだどこにも配属になってないんでしょ?』
『エドガー軍曹から入隊拒絶されたらしいぞ?』
『恥ずかしい』
『落ちこぼれ』
『落ちこぼれ』
『落ちこぼれのラングレー』
いつもの事だ。
落ちこぼれのラングレー。
何をやっても人並みに出来ない落ちこぼれ。
何をしても、どこにいても、後ろ指をさされる。
1度でいいから、たった1度でいいから。
『よくやった、さすがラングレーだ』って。
言われて、みたいな…
「んっと…5階っと。」
移動転移陣に乗り5階まで昇れるように、魔力を込める。
これは所謂エレベーターみないなもので、電力の代わりに自分の魔力をつかうのだ。
壁に彫り込まれた術式スクロールを下から上になぞりあげることで、階層を決められる。
ーーー3階にて停止しますーーー
音もなく上昇していた陣がゆっくりと停止する。
転落防止結界が解除され、美しい女性が優雅に入ってくる。
「あらぁ?誰かと思ったら落ちこぼれラングレーじゃなぁい?」
「…お疲れ様です。ヴィオレッタ・リューグナー様。」
「あんたの詰まってない頭でも、わたくしのことは覚えられるのねぇ?」
ヴィオレッタ・リューグナー伯爵令嬢。
閣下以下この砦の重役方の婚約者候補にして、私をサンドバッグだと思っている方だ。
ものすごく、嫌いだ。
すごく嫌な人だけど、才能は本当にある。
から、白狼部隊にも入れるのだ。




