暗い森と時の止まった平原
――セージとヴィクトール視点―――
「ふむ、試練か。わからなくもないが、それも今は1つの推測に過ぎない。だがその案も保留しとこう。何か試練らしきことがあったら連絡してくれ…」
ヴィクトールが通信機で会話を続けている間にセージはあたりを観察していた。
一面が雪で白く染まり、木は地下の植樹されたものとは同じものとは思えないほど立派だった。
本でしか見たことのない雪を己の肉眼で確かめることができ、セージは密かに喜んでいた。図解などよりも圧倒的に美しい。
(百聞は一見にしかず、ね)
「リーダー、ほかの人たちは無事なの?ヨナさんとクレマンさんが連絡つかないって聞こえたけど大丈夫かな…」
「残念だが今はどうすることもできない。彼女らが応答できないのは何かあったのだと思うが、生憎オーパーツも彼女らが所持しているから見つけることは難しいだろう」
「彼女…?」
「あぁ、話してなかったね。ヨナの知識量には毎度驚かされるが、彼は実は「彼女」なんだ。オーパーツの力を借りて才能開花をさせたはいいものの、かわりに自分の姿を失ってしまい、いまはあの姿で過ごしている」
地図を取り出すヴィクトールも見つめたまま、セージはそれを聞き驚くよりも先に悩むという感情が湧き出た。
もちろんヨナにとっては気の毒なことだったろうが、オーパーツは良い面だけではなく悪い面もある、というのが今回の転移とヨナの「変身」でわかってしまった。
それに、オーパーツを集めるという任務を任されている探検隊にとってその事実は見逃しがたい難問である。
回収できたにせよ、自分や隊員に害があっては地下から脱出するという王国の目的もご破綻になる。
「リーダー、このあとはどうしましょうか」
「まずは日除けの薬を飲もうか。そのあとのことは今考えているから少し待ってくれ」
2人でそれぞれの薬を飲むが、ヴィクトールは飲んだあとも3分ほど熟考した。
セージが声をかけると地図を取り出し
「すまない、いろいろ考えすぎたな。結論としてはここよりも暖を取れる場所に移動しよう。ここは地下よりも気温が低い。雪も積もるぐらいだから、君の言うとおり北半球の森のどこかで間違いないだろう。あとは持ち物をなくしていないかの確認をしたらすぐに出発したほうがいいかもね」
「でもリーダー、どこに向かったら温度が上がるとか、わかるんですか?」
ここの位置は正確にはわからないがおそらくここらへんだろう、といいながら地図を指さした。
ユーラシア大陸のかなり北にいるらしい。
大陸の中央よりも上にいるのなら、夜はもっと寒くなるに違いない。
もちろん、700年の間に気候や温度も変化した可能性もあるため一概には言えないが。
「ではリーダーはこのまま南に行くのですか?ですがその道で行くとここの山脈に当たりませんか?」
「そうだな。だが、南と言えども結果的に皆と合流するためには再びピサの斜塔かエレベーターにたどり着かなければならない。そうすると、南か、西に向かって移動する必要があるからそこは追々決めていかなければいけなくなるね。だからとりあえず少し南に行って、寒さをしのげるところに行こう」
リーダーの意見に賛成して、セージはリュックを背負った。
荷物の整理が苦手な兄にかわり、少し多めに食料などの必要物資を持ってきてしまったためセージにとってかなりの重量だったが、その様子を見たヴィクトールが荷物を半分程持ったために早く移動することができた。
雪は朝に積もった様子で、足元を取られることもなく進むことができた―――
少し歩くと平原が見えてきた。
雪もあまり積もっておらず、日光を万面に浴びる青々とした中くらいの草が生い茂っていていた。
目測で大体数十メートルのところにある平原は鬱蒼とした森とは別世界のごとく輝いて見えめいた。
「リーダー、今日はあの広地で野宿するのはどうでしょうか。見通しもよく、もし隊員が近くに来たらすぐに知らせることができます」
「そうだな、セージの言うとおり今日はここを野営地としよう。ではあと少し頑張ろうか」
そうして2人で枝葉を避けつつ平原へ向かっていたが、目には見えているのになぜかたどり着くことができなかった。
最初は歩みが遅いのかと2人してペースを速めたが、一向に近づいてこない目的地に疑念が生じ足を止めた。
「…リーダー、別な場所を通って行くのはどうでしょうか」
「そうだな。オーパーツが付近にあって付近に影響している可能性もある。1度別の場所から攻めよう」
こうして遠回りをし、200メートルほど離れたところにあった凍った小川にそって向かったが、やはり到達することはできなかった。
「おかしいです、こんなに歩いても着けないなんて。あそこの平原に何か違和感は感じますか?」
不安になったセージがヴィクトールに問いかける。
聞かれたヴィクトールは黙ったまま望遠鏡を取り出し平原を覗いたが、少し顔を青くしてレンズから目を離した。
「リーダー?何か見えたんですか?」
「…いや、何も見えなかった。だがおかしいことを一つ見つけた」
「何を見つけたんですか…?」
「ーー風が吹いてない。草が揺れていないんだ」
草が揺れていない…?
セージが自分の望遠鏡を取り出し、草原を見る。
丸い視界の中見えたのは、キラキラと輝くような青さを持った草だった。
風が吹いているいないにかかわらず、草は時が止まったかのように静止していたのである。
「嘘、ありえない…」
「どのような影響があるにせよ、あそこには向かわないほうが良いのだろう。あそこをみてご覧」
ヴィクトールに指さされた場所を覗いたセージは背筋が凍るような思いをした。
1羽のオレンジ色の綺麗な小鳥が枝にとまっていた。
だが、生命力があるその姿も美しい飴細工のごとくピクリとも動かなかったのである。
「あの平原に入った者は動けなくなってしまうのかも知れない。あそこへ侵入ができないのは誰かの力で入れないようになっているからかも知れないな」
「ではどうしましょうか。道を戻りますか?」
「そうしよう。ここらへんには高い山はないし温度さえ気をつければどうにかなるだろう。野宿なんてどこでもできるさ」
来た道を戻り、再び西へ向かう。
道中で獣と遭遇するかとセージは大変心配したが、妙なことに森の中へいけば行くほど生気がなくなっていく気がした。
ヴィクトールも同じく妙な感覚を覚えていたが、セージを心配させないためにも広い空き地を探していた。
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太陽が傾き森がいっそう黒黒と変化していくなか歩くのはかなり勇気のいることだった。
2人は地下の明かり1つないところにも行ったことがあるため暗いことは気にしていないのだが、慣れのない場所での行動には一挙手一投足に緊張が走る。
「…セージ、見えてきたぞ。あそこは広く白くなっているから雪が溜まっているのだろう。今夜はあそこで野宿をしよう」
すでに寒くてしょうがなかったセージはヴィクトールに続き、リュックを下ろしながら前に進んだが、突如リーダーの動きが鈍り、足を止めた。
「リーダー、どうかされましたか?」
手で制止させられたまま、ヴィクトールの指差す方を見る。
闇のなかでぼんやりとシルエットが見えた。
(小屋…?最近まで使ってた人がいるのだろうか)
セージが不思議がっていると、ヴィクトールがそうじゃない、と小屋の下の方を指さした。
目をやると、小屋は一本の柱でささえられているようで、驚異的なバランス力のもと建っているようだった。
リーダーが少し後ずさりした時にパッと明かりがさした。
煌々とオレンジ色の炎が照ったのは小屋につり下げられているカンテラだった。
なぜついたのかと考えようとしたが、小屋の一本足を見て目が釘付けになる。
足は木でできた柱だと勘違いしていたが、大きな鳥の足だった。
「おやおや、探し回ったらわしの家に直々に来るとは。中々見上げた勇気ヨの」
セージは声に心臓が止まるほど驚き後ろを振り返ると、目をギラギラと光らせた老婆が彼女を見下ろしていた。
思ったことをそのまま書くって難しいですね…( ՞⌓°⎞




