第12話 通信機の破損と奇襲する影
最初に起き上がったのはクレマンだった。
この精神科医はヴィクトールがブレナ達のところへ走っていったため軽く休憩を取ろうとしたのだが、塔が動き出したためにその休憩もできなかったのである。
目が覚めたら名前も知りやしない木や草だらけの斜面に横になっていたのだ。
見渡すと近くの木にはヨナが引っかかっていて、その木の根元にはバッグとエレヴニティスが転がっていた。
―――クレマンの目線―――
急いでヨナを枝から引き下ろして呼吸を確認し、生きていることを確かめる。
ヨナを寝かせてエレヴニティスの方を見ると、ガシャガシャと歯車が回転していて傷1つ無さそうだった。
「ぐっ…」
「気分はどうですか?急に起き上がらなくて大丈夫ですよ」
「ここは…?」
「ピサの斜塔のオーパーツで問題が起こり、転移が起きたようです。ですが今はもう大丈夫ですよ」
ヨナが現状に慣れるまで少し待ってからクレマンは状況説明をした。
クレマンが喋り終えると沈黙が訪れ、周りの鬱蒼とした景色がもっと黒くなったような気がした。
「…転移といったよね。こんなことが起こるとリーダーは予測していたと思う…?」
「それはないと思います。私が見た時はリーダーは君たちのほうへ走っていって何かを確認して慌てていたでしょう?」
「…確かにね。えっと、私たちが呼んだ理由は今説明しよう。まずブレナがエレヴニティスの反応はあったかと聞いてきたんだ。そしてカバンから取り出してみたら新しく文字が刻まれていてそれをリーダーに伝えたんだ。内容はラテン語で、
"Turrim cum attigeris, ipsa cognoscet num alienus sis"とあった。塔に辿り着いたものは塔自体が侵入者かどうか判断するということを書いているらしい」
「なるほど。今のエレヴニティスはどのような状態なんでしょうか?」
「斜塔のオーパーツの影響かもしれないけど勝手に起動したあたり、少し混乱しているのかもね」
彼女の頭脳は恐ろしいほど情報を蓄えることができる。
地下の情報も地上の情報も、1度見聞きすればほぼ忘れることはない。
地下で彼女の担当医も務めたことのあるクレマンからすると、ヨナは1人の患者であったのと同時に稀有な才能をオーパーツから引き出された人物でもあった。
だがその力と引き換えにもともとあった姿はなくなり、ストレスを過多に受けると「どこかで見たが分からない人物」というようなぼんやりとした存在に変化するようになってしまった。
(ヨナは今の状況をどう捉えるのだろう。彼女は今の状況を芳しく思っていないに違いない。隊員になったときでさえ地上に出るのをためらっていたぐらいなのに頼れるのは自分のような力の弱い人物だ、不安になるだろう)
「ヨナ、リーダー達は別な場所にいるかもしれませんから、通信機で連絡を取ってみましょう。なにかわかるかもしれないですしね」
「そうだな…やってみよう、通信機はどこへ?」
リュックは近くになかったため斜塔に置いてけぼりになってしまったに違いない。
だがヨナの持つ通信機はどうだろうか。
ヨナのバッグを開けるが、中に通信機は入ってなかった。
(彼女はマイク部分が壊れないようにバッグに入れる以外の方法はとらない。だが、通信機がないとするならばバッグ丸ごとなければおかしいのではないか)
そう思った時、ヨナが袖を引っ張った。
「ヨナ、どうかしましたか?」
「ん、あれ…」
ヨナの指差す方を見ると、木々の中に小さな窪地があり、そこに通信機の残骸が落ちていた。
アンテナは折れ、中身の盤も飛び出しているため簡単には修理ができない。
取ろうと窪地に入ろうとした時、ヨナが手を軽く立て動きをとめるように指示をした。
「…なんで、通信機だけが外に飛び出て壊れていると思う?」
「なんでって…それは斜塔のオーパーツの影響じゃないのか?」
「オーパーツのことだからよくわからないけど、考えてほしい。僕はどのようにしてこの土地に来ていた?バッグはどのように置いてあった?」
ヨナは木に引っかかり、バッグはエレヴニティスと一緒に木の根元に落ちていた。
自分には何も違和感が感じられない。
だが彼女は何か感じ取っている。
それはいったい何だ…?
「全部確証のない話だし、オーパーツとなると尚更だけど、そもそもの話僕は木に引っかかりクレマン先生は地べたに寝転がってた。それだけなら飛ばされたときの座標が違っただけ、の話で済むんだけど、バッグもエレヴニティスも木の根元、通信機だけが取り出されて壊されている。
よく見て。上から圧力をかけたあとに真ん中から割ったような傷が見えない?」
そんなことを言われても自分にはわからない。
正直な話、オーパーツも地上のこともまったく知らないし手助けになるかすらわからない。
「そしてこれも推論になっちゃうけど、最初に僕が倒れていた場所から窪地まで6メートルくらい。そんなに移動すると思う?先生のリュックは先生の真横に置いてあったから、転移は正確みたいだよね。
だけどこちらはそうじゃないっていう話」
「では誰かが持ち出した、と言いたいんですか?」
「ん、そう。僕の中ではそう思ってるよ」
突飛な話だ、と最初は思った。
だが、人の心に寄り添った者の経験よりもここは知識豊富な者の考えに従ったほうが良いだろう。
例え代償で手に入れた力だとしても。
「わかりました。ではここからどうしましょうか?通信機は…」
「誰か見張ってると思う、たぶん。でも視線とかは感じないかも」
「では1度荷物を取りに戻りましょうか。他になくなってるものがないかだけ確認して、計画を立てましょう」
▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー▼ー
―――ブレナの視点―――
「ズ…なるほどぉ、通信機が繋がらなぃ?そりゃどういうこっちゃ」
「…そのままの意味で、通信ができないって意味じゃない。こんな時にもルカシュはふざけてるのね」
「…こんな時にも、っていうけどねぇ、俺もふざけてるわけじゃないのよ。リーダーも何か言ってくれや」
「ズズ…言い合いをしている場合ではないぞ2人共。今はクレマン達の反応が出るまで待つというのは非効率だ。彼らが応答できるまでチャンネルは空けたまま、探検に戻るぞ」
「リーダー、このままオーパーツを探すお積もりですか?」
別に2人だけで冒険を続けるというのは不安ではないが、過去にクレマンに世話になったことがある。
彼は、決められたことをするのが苦手な自分をサポートくれた上に退屈気味だった地下生活から本でしか知らない世界へと連れ出してくれたうちの一人だ。
それだけでも、彼には感謝しきれないうえに、見捨てるなどとんでも無い。例え方法が無かったとしても。
「ズ…ブレナ、気持ちはよくわかるがこの場合どうしようもない。例えチャンネルに彼らが参加できても、誰も簡単に合流することはできない。今は探索を続けながら応答を待つしかない」
確かに彼はクレマンの無事を心配しているが、実際に彼らは今どこにいるのだろうか…
「…エレヴニティスはヨナが持っていたから今はオーパーツの在り処は探れないね。でももしかしたら…」
「ズ…フィルムスさん、方法があるの?」
セージがフィルムスに問いかける。
しばし黙ったあとに、副リーダーは答えた。
「…記憶が曖昧になってしまいますが、確かピサの斜塔は『ドゥオモ広場』に建てられています。そしてオーパーツの影響力が強く形がほぼそのままのこっていた斜塔の付近で1番崩れていない場所がありました」
その場所とどのような関係があるのだろう。
確かドゥオモ広場は『奇跡の広場』と呼ばれていた。
今、クレマン達を除き命が無事が確認されたことが奇跡のようなものだが。
「ドゥオモ広場には回廊があったとされています。
広場の北側に『墓所回廊』があるらしいのですが、かつて中世の人々にとっては『死と向き合い、来世の審判に備える場所』だったと言い伝えがあります。
ここからは解釈の問題ですが、私は中世の死生観について
『現世は試練である』と考えられていたのではないかと思います。」
どういうことなんだ?
生きていた時代でも「死を忘れるな(メメント・モリ)」を貫いていたのは知っているが、フィルムスがなぜそのことを話す意味が汲み取れない。
「…要するに、これが『試練』ではないのでしょうか」
「ズズ…ふむ、試練か。わからなくもないが、それも今は1つの推測に過ぎない。だがその案も保留しとこう。何か試練らしきことがあったら連絡してくれ」
―――再びクレマン視点に戻る―――
どういうことだ。
何者かに掴まれているが何も見えない。
ヨナも驚いたようにこちらを見ているが、彼女自身も掴まれているのだろうか。
ギリリと足首が締め付けられ、口にも嫌な冷たさの煙のような手がまとまり付いてきた。
ヨナの動きがギクシャクしてきている…
目を押さえられてしまった
――何も見えない
―――見えないがこのままでは殺される、動かねば…
――――動かなければいけない…
―――――動く…
――――――
クレマン・コルディーとヨナ・アルカイノはこうして連れ去られたのである
なんだか締まらない書き方ばっかりしているのでもっと文章力上げられるように練習します。
やっぱり思った情景を文字に出すって難しいですねぇ…




