第10話 想定外の出来事
「―――ピサの斜塔、ですね?」
ヴィクトールの問いかけに俺は答えた。
隊員たちの反応は、なるほど、といった顔の者もいれば
なんじゃそりゃ、というような顔をしている者もいた。
「うん、どうやら同じ意見のようだな。
フィルムスも僕もそれで間違いないと思う。まぁ間違っていたとしても確かめようがないから、1番可能性が高そうなやつに頼るしかないね」
もし違っていたとしても、昔は人が賑わうほど有名な場所だったのだろうから、その景色を見る価値は十分にある。
「それでは皆さん、荷造りを済ませたらすぐに出発しましょうか…」
フィルムスが皆に告げ、テントを畳み始めた。
そして、2ヶ月にも及ぶ大移動が始まったのである。
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旅の途中でも多くの発見があった。
もともとは海だった砂漠を抜け、少しばかり木々が生えている草地に来た時、数匹の虫が飛んでいるのを見かけた。
虫好きなのか、斥候のレオナールが「少し見ていきたい」とい言いそこで一夜を明かしたこともあったし、弱いものの微かに震える様なエネルギーを蓄えているオーパーツも何度か発見した。
「リーダー、こちらのオーパーツは何だと思います?」
「おそらくハーモニカじゃないかな?
地下のものよりもコンパクトだが、文献に載っていたのと見た目がそっくりだからね。
普通のものだとすぐに錆びて駄目になってしまうが、オーパーツとなったおかげで形を保ったまま今に至るようだね」
ハーモニカを自分のカバンにしまおうとしたクリスが少し迷ってからリーダーに「持っていてください」と渡す。
ヴィクトールは少し驚いた表情を見せたがニコリと笑い丁寧にリュックへしまった。
そうこうしている間にイタリア半島にたどり着き、ピサを目指すこととなる。
だが旅はそう簡単ではなかった。
地図には簡単にしか記載されていなかったが、イタリアには大きな山脈があった。
山越えをする際には岩場の足場が悪い道なき道を、冷たい山風を凌ぎながら歩き、手先足先が冷えて感覚がなくなるまでぶっ通しで脚を動かした。
途中、天候により見通しが悪かったり体調を崩したりで何回も足をとめる羽目になったが努力の甲斐もあり、
ようやく山脈を抜けピサの街へと着いたのである。
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「たいちょぉ、よぉやく着いたねぇ。もうヘトヘトだよぉ」
「ルカシュ、ようやく着いたという喜びで緩んでしまうのは分かるが、寄りかかってくるのはやめてくれないか」
「でも丸一日歩き通したんだしぃ、いいじゃないすかァ」
道だったと思われる場所を発見し、旧ピサ市に着いた。
隊員もだいぶ疲れ切っている。
体力に自信があり過酷な環境になれているであろう体力バカのマテオとレオナール、ヴィクトール、フィルムスを除き全員がバテバテといった感じだ。
「ここがピサ旧市街ですか…もう壁の名残のようなものしかのこってませんが、さぞ美しい景観だったんでしょうね」
「ふむ、確かに落ちている瓦の彩色や質感を見るに、かなり素晴らしかっただろうな」
いつもの調子を崩さないヴィクトールとフィルムスが早くも調べ始める。
だが、立っているのもやっとという風に棒にすがりついているシャルロッテが質問した。
「あのぉ…リーダー…なんでぇ、まだ建…物が…残っ…」
「む、気づかなくてすまなかった。
おそらくオーパーツがピサの街全域に影響を及ぼしていて、そのおかげで最低限の形は守っているのではないかな?おそらく近づけば近づくほど元の街並みがそのまま遺っていると思うぞ」
それを聞いて他の隊員も「もう少しで終わるなら…」といったふうに立って歩き出し、ピサの斜塔があるとされる広場へ向かった。
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「ふむ、これがピサの斜塔か…思っていたよりも小さいな…」
それでは造った人に失礼では?と思ったが確かに文献にあるような絵とはまったく違っていた。
実際にはその図の半分程は地中に埋まっていたのである。
周囲には溜まった土が積み重なり、誰かが埋めたかのようだった。
「いやはや、想定してたよりも面倒くさいことになりそうだが、発掘作業は我々の探検の醍醐味だな!」
――流石リーダー、こんだけ歩いてもまだ疲れないのか…
「リーダー、嬉しそうなところ申し訳ありませんが、みなさん疲れていらっしゃると思うので、体力にまだ余裕のある方だけ先に調べられるのはどうでしょうか?」
このありがたいコンラートの申し出のお陰で、疲れ果てた隊員まで土掘りや塔に登るという重労働をせずに済んだ。
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休憩となったのは自分とセージ、ヨナだけだった。
コンラートもシャルロッテも、本物の地上時代の建築物を見ると子供のようにはしゃいで発掘に参加していた。
てっきりヨナも参加するかと思い込んでいたが体力が限界を迎えていたらしい。隣のベンチで眠り込んでしまった。
「兄さんは行かなくていいの?疲れているのは分かるけど、オーパーツがどこにあるか分からなくてみんな苦労しているみたいよ?」
「まぁまだそんなに急かなくていいんじゃないかな」
確かにまだオーパーツは見つかっていない。
先程もフィルムスがやってきて、まだオーパーツが見つからないということと、地下にあるのかもしれないから内部の土を外に出してみる作業を行なっている、とのことを伝えてきた。
一番上の階にある鐘が探し物ではないか、と睨んでいたがどうやら違ったらしい。
鐘は鐘として機能をしているらしく、特に違和感はなかったとのことだ。
「…土を掘っているのは地下だけにしたいなぁ…」
いつの間にか起き上がっていたヨナが独り言を言っている。
確かにそうだ。掘るばかりでは地下の採掘場と同じだ。
宝石のありそうな場所を中心に周りを掘り、泥や岩の欠片を積み上げていく…積み上げていく?
視線を戻して斜塔を見ると、斜塔の埋まっている縁にはこんもりとした山ができていた。
おかしい。
地盤沈下で沈んだとしても、縁の周りにだけ模様のように土砂は積み上がっていくことはない。
――まさかここにあるオーパーツというのは…
あり得ない話だと思いながらも、アンティキティラ装置に変化はないかヨナに尋ねる。
「ヨナ、エレヴニティスに新しく反応は?」
「…え、エレヴニティス、ですか?い、今出します…」
オドオドしたように返事をし、バッグを漁る。
なんだかエレヴニティスの使用方法を唱えたときとはまるでトーンも喋り方も別人みたいだ。
「はい、どうぞ。今開きます…ってあ、あれ?もう空いてるし文字が浮き出てる。た、たいちょー!」
なんか声にも違和感を感じるがこんな感じだったけ?
ヴィクトールがこちらに走ってくるのを見ながらヨナに疑念が傾く。
違う、そこじゃない。今危惧すべきはオーパーツだ、!
「何かあったのかい、ヨナ」
「エレヴニティスが勝手に開いてたのと新しい文字が出てきたの。ちょっと読んでみるね。
"Turrim cum attigeris, ipsa cognoscet num alienus sis…"
――急に旧ラテン語、かな?意味は…」
「"たどり着いた者を塔が侵入者かどうか見極める"、といった感じのニュアンスか?」
とヴィクトールが眉をひそめる。
「それはまずいな、私たちはどちらかというと侵入者だ。今すぐ皆に伝えなくては…!」
ヴィクトールが斜塔の方を振り向き、声を上げようとした時。
鐘が鳴った。
誰も居ないはずの、最上階で鐘が鳴っていた。
"ゴーォォォ・・・ン" "ゴーォォォ・・・ン"
繰り返し大気を震わせ、鐘は7回鳴った。
「…何か被害が出る前に、1度撤退しよう。みんなにも直接声をかけてくる」
ヴィクトールが走って斜塔に向かい、ヨナも不安そうに体を揺らしていた。
「兄さん、私も行ってくる。たぶん地下にいる隊員さん達は出るのに時間がかかるだろうから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前はここにいろ。俺が見てくるから!」
「そんなこと言ってられないでしょ、何があるかわからないんだし!何かあったあとじゃ全部遅いのよ!」
「でも、セージに何かあったら…」
何かあったら、と言いかけたが言葉が出てこなかった。
生憎、言葉が出てきてたとしても地面を揺るがすような振動と音が丁度襲ってきたため聞こえなかっただろう。
見ると、斜めの塔は回転していた。
いや、『回転しながら地面から迫り上がって』きていた。
「わかった、この斜塔にオーパーツが隠されているんじゃない、この『ピサの斜塔』自体がオーパーツになってるんだ!」
それから地響きに負けないようにセージに叫ぶ。
「今すぐここから離れるんだ!斜塔が倒れたとしても被害を受けないところくらいまで!」
セージが何か言い返すのに口をパクパクしているのは見えたが、轟音で何も聞こえなかった。
セージは兄に聞こえなかったのを理解すると、諦めたような表情をしてヨナの方へ走っていった。
リーダー達は大丈夫だろうか。
斜塔は既に6階分も地上に出ていて、残り2階分だった。
中に閉じ込められてはいなさそうだが、安全は保証されないだろう。音が弱まったタイミングで近づく。
近くま行くと、塔の鐘のあたりから声が響いてきた。
「ブレナ!こっちは大丈夫だ!塔はネジのように回転しているだけで、特に倒れるようなこともない!オーパーツのお陰で斜めのまま耐えられているようだ!」
オーパーツは塔自体だと思うがなぁ…
そんなことより今は助けに行くことが優先か。
だがそう思った矢先、斜塔の動きが止まった。
顔をのぞかせたリーダーも、唐突に止まった塔に驚いてすっこんだらしい。
回るスピードは案外速かったが、7階まで出てきて止まっている。
8階まであるはずなのに、なぜだ。
"ゴオオオォォ・・・ォン" "ゴオオオォォ・・・ォン"
再び大きな鐘の音が響き渡る。
なんだか様子がおかしい気がする。
3回、4回と数が増えていくたびにどんどん音が大きくなり、周りが明るくなっていく…
明るくなる原因を探ると、鐘のある8階のあたりがどんどん光輝き、眩しくなってきていた。
「…リーダーっ!皆さんっ!頭を伏せてください!」
何かが起こるという直感で叫び、妹の方を振り返る。
50メートル程遠くに、ヨナと妹の身を寄せ合う姿が見えた。
――妹にそんなにくっつかないでくれ…
そうヨナに思ったところで7度目の鐘が鳴り響き、視界が全て光に奪われた。
そして、真っ暗になり何も感じなくなった。
いやーようやく10話到達、デス!
なんだか文をまとめるの苦手でござい。他の上手に書いてらっしゃる方々が羨ましいぃ―…
寒い日が続いていますので、皆様体調に気をつけてお過ごしください!




