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第一話:出会い

「おい!」


どこか優しさの中に、わずかな厳しさを含んだ声が聞こえた。


「この人、本当に生きてるの?」


今度はもう一人の、少し高く澄んだ声がすぐ近くから聞こえる。


「もしもーし!」


誰かがしつこいほどに俺の肩を揺さぶった。


全身を覆う倦怠感に抗いながら、俺は重く張り付いた瞼をゆっくりと開いた。


鬱蒼と茂る木々の葉の隙間から差し込む眩しい陽光が、容赦なく目に突き刺さる。


視界が滲む。


ぼやけた景色の向こうに、俺を覗き込む二つの人影が見えた。


何度か素早く瞬きを繰り返し、ようやく視界に輪郭が戻る。


俺の目の前には二人の若い少女が立っていた。


一人は雪のように真っ白な髪。


もう一人は濃い紫色の髪。


二人とも深いフード付きのマントを身に纏い、興味深そうに俺を見下ろしている。


そしてなぜか、二人とも頬が赤く染まっていた。


「あなた、誰?」


二人は同時にそう尋ねた。


「それに、どうしてこんなところにいるの?」


紫髪の少女が付け加える。


彼女の声はもう一人よりも少し厳しかった。


もし自分が誰で、どうしてここにいるのか分かっていたなら、俺は素直に答えただろう。


だが問題は――俺自身にも何一つ分からないということだ。


「分からない」


俺は周囲を見回しながら答えた。


身体の下には柔らかな草が広がっている。


背中をくすぐるような感触が妙に心地良い。


周囲には大きな木々がそびえ立ち、青々とした茂みが生い茂っていた。


紫髪の少女は眉をひそめる。


白髪の少女は困惑したような表情を浮かべた。


まるで俺の言葉が信じられないものだったかのように。


だが、おそらく実際そうなのだろう。


こんな返答をする人間など、そうそういるものではない。


「分からないって……どういう意味?」


紫髪の少女が問い返した。


「文字通りの意味だ」


俺は地面に手をつきながら身体を起こした。


すると二人は警戒するように一歩後ろへ下がる。


少女たちは顔を見合わせたあと、小声で何やら話し始めた。


時折こちらをちらりと見ながら。


俺はただ黙って彼女たちを見ていた。


もしこのまま彼女たちが俺を置いて行ってしまえば、一人で生き延びられる可能性は限りなくゼロに近い。


少なくとも、そう思えた。


やがて相談が終わったのか、白髪の少女が再び口を開く。


「家はあるの? その……寝たり、ご飯を食べたりする場所」


「分からない」


俺は正直に答えた。


白髪の少女は少し首を傾げる。


その目には同情の色が浮かんでいた。


「私たち、あなたを引き取ってくれそうな場所を知ってるの。もちろん、ただじゃないけど……でも、この森に一人で残るよりはずっといいと思う」


魅力的な提案だった。


特に今の俺にとっては。


ただ、「ただじゃない」という部分だけが少し気になった。


森の中で裸同然の男から何を取るつもりなのだろう。


考えられるのは労働くらいだ。


だが、それでも一人で残るよりは遥かにマシだ。


「分かった」


そう答えながら立ち上がる。


その瞬間になってようやく、二人の頬が赤く染まっていた理由に気付いた。


俺は何も着ていなかった。


完全な裸だった。


紫髪の少女は自分のマントを脱ぎ、それを俺に差し出す。


「これを羽織って。裸で突っ立ってられると困るから」


少女のマントは俺には小さすぎた。


肩から羽織ることはできそうになかったため、袖を腰の辺りで結び、生地を前へ垂らす形にする。


少なくとも、道中ずっと彼女たちを困らせることはなくなるだろう。


少女たちが日差しに照らされた草原の方へ歩き始めたので、俺もその後を追った。


前方は森の中よりずっと明るく、陰鬱な木々の影も徐々に消えていく。


やがて森を抜けると、目の前に景色が広がった。


なだらかな緑の起伏。


短い草に覆われた小さな丘のような地形。


そこかしこに咲く小さな花々。


足元の草は驚くほど柔らかく、まるで空気の上を歩いているような感覚だった。


今見ている景色や、この感覚を何かと比べてみたい。


そう思った。


だが残念ながら比較するための記憶がない。


「自分の名前くらいは覚えてるの?」


紫髪の少女が厳しい視線を向けてくる。


俺は少し考える。


だが何も出てこない。


目覚める以前の記憶が本当に何一つない。


自分の名前すら。


「いや」


紫髪の少女の目が大きく見開かれた。


驚愕。


そして次の瞬間には苛立ちへ変わる。


「つまり、自分の名前も覚えてない。自分が誰かも分からない。そしてどうしてここにいたのかも分からない。そういうこと?」


「そうだ」


「何か一つでも覚えてないの?」


「本当に何も」


少女は苛立たしげに息を吐き、顔を背けた。


「なんだか怪しすぎるわ。そう思わない、アスタ?」


「うーん……私はそんなに変だとは思わないけどなぁ。頭をぶつけて記憶を失ったのかもしれないし」


白髪の少女――アスタは少し心配そうに俺を見た。


「ダリアン様に判断してもらえばいいでしょ」


紫髪の少女は鼻を鳴らし、姿勢を正した。


どうやら俺に関わりたくないらしい。


まあ、俺でもそう思う。


記憶喪失で正体不明の男など面倒事の塊だ。


それにしても。


さっき彼女が口にした「ダリアン様」という人物は誰なのだろう。


おそらく俺たちが向かっている場所の責任者か何かだろう。


そういえば、その場所についてまだ何も聞いていなかった。


「ところで、どこへ向かってるんだ?」


「宮殿だよ」


アスタが答えた。


「宮殿?」


「人を育てる場所なの。主に騎士や他の奉仕職に就くための教育施設かな。三つの棟に分かれていて、そこで生活しながら訓練するんだよ」


三つの棟。


強さによる区分だろうか。


それとも職種ごとだろうか。


気になった俺は尋ねる。


「どうして三つなんだ?」


「えっとね」


アスタは少し考えながら指を折る。


「将来、立派な騎士になりたい人は第一棟」


彼女は小さな段差を軽く飛び越えながら続けた。


「第二棟は普通の戦士になりたい人向けかな。強い剣士とか傭兵とか」


そして少し言葉を選ぶように間を置く。


「第三棟は……ダリアン様直属の騎士。それから使用人や働く人たちのための場所」


「なるほど」


俺は頷く。


早くその宮殿を見てみたい。


どれほど大きなものなのだろうか。


想像するだけで少し楽しみだった。


「それで、その隣の子の名前は?」


俺はずっと黙ったまま歩いている紫髪の少女の背中を見ながら尋ねた。


「ロクサーヌだよ!」


アスタが明るく答える。


しかし当のロクサーヌ本人からは何の反応も返ってこなかった。


振り向きもしない。


声も出さない。


本当に反応がない。


だが、不思議とその名前は彼女に似合っている気がした。


ロクサーヌ。


どこか厳しく、硬く、威圧感のある響き。


ここまでの短いやり取りだけでも、彼女は十分にそういう性格を見せていた。


それに対してアスタ。


こちらはまるで正反対だ。


優しくて、柔らかくて、どこか無邪気な響きがある。


実際、彼女の性格ともよく合っていた。


もし俺にも名前があるなら、どんな名前なのだろう。


例えば――


ふと、一つの名前が頭に浮かぶ。


ユリアン。


平凡な響きだ。


だが嫌いじゃない。


もっとも、今はそんなことに大した意味はない。


名前なんて、結局は他人が呼びやすくするための目印に過ぎない。


それよりも俺が気になっていたのは自分自身の身体だった。


ここまで歩いてきたというのに、空腹も喉の渇きも感じない。


疲労すらない。


呼吸も乱れていない。


まるで長時間倒れていた人間ではなく、ついさっき普通に目を覚ましたばかりのようだった。


もし仮に俺があの森で五日間ほど倒れていたのだとしたら、それはあまりにも不自然だ。


少なくとも、立ち上がった時に膝が一度も鳴らなかったのはおかしい。


「もう少しだよ! あの丘を越えれば着くから!」


アスタが前方の高台を指差した。


目の前にはかなり大きな丘がそびえている。


だが実際に登ってみると、見た目ほど苦労はしなかった。


そして頂上へ辿り着いた瞬間。


俺は足を止めた。


目の前に巨大な鉄門が現れたのだ。


その向こうに広がっていた光景に、思わず息を呑む。


――これが宮殿か。


あまりにも巨大だった。


どこまで続いているのか分からない。


宮殿の外壁は左右へ延々と伸びており、その果てを視認することすらできない。


まるで一つの都市そのものだった。


アスタとロクサーヌは慣れた様子で門を開け始める。


俺も二人の後を追って敷地内へ足を踏み入れた。


門の両脇には二人の男が立っていた。


沼地のような深緑色の制服。


肩には金色の肩章。


胸元には金色の徽章が取り付けられている。


その徽章には二本の剣が交差する紋章が描かれていた。


「遅れないで」


ロクサーヌが冷たく言う。


俺たちは綺麗に刈り込まれた植え込みの間を進み、巨大な扉へ向かう。


扉の前には二本の白い柱。


その下には真っ赤な絨毯が敷かれていた。


近くで見ると、この宮殿はさらに巨大に感じる。


ロクサーヌが扉を押し開く。


俺はその後に続いて中へ入った。


内部にも赤い絨毯が真っ直ぐ伸びている。


遥か先には、今入ってきたものとよく似た巨大な扉が見えた。


その向こうにも、さらに巨大な広間があるように思える。


俺たちは途中で右へ曲がった。


そこには二階、三階、四階へ続く大きな階段があった。


階段を上りながら気付く。


どうやら目的地は四階らしい。


廊下を歩いている間、俺は辺りを観察した。


まず何より、この廊下は異様に長い。


右側には扉がずらりと並んでいる。


おそらく学生か職員の部屋だろう。


これまで見た限りでは、下層階には教室や執務室のような場所があり、上階になるほど個人部屋が増えているようだった。


扉と扉の間には細長い照明が取り付けられている。


左側の窓際には、小さな丸テーブルが一定間隔で置かれていた。


気付けば俺たちは一枚の扉の前で立ち止まっていた。


扉にはこう書かれている。


『ダリアン』


「おい」


ドアノブを握ったままロクサーヌが俺を呼ぶ。


「中に入ったら、ダリアン様に礼をしなさい。分かった?」


言われたこと自体は理解できた。


だが理由は分からない。


ダリアンという人物は王か何かだろうか。


まあ、余計な問題を起こしたくはない。


頭を下げるくらいなら簡単だ。


「分かった」


俺が答えると同時にロクサーヌは扉を開いた。


俺たちは三人揃って部屋の中へ入る。


そこは執務室だった。


机の向こうには一人の男が座っている。


顎には無精髭。


背後には大きな窓が二つ。


左右には大きな棚があり、そこには彫像や高級そうな食器が並べられていた。


男は机の上で手を組みながら書類を読んでいる。


アスタとロクサーヌが頭を下げた。


俺も慌ててそれに倣う。


「こんにちは、ダリアン様」


二人は声を揃えて言った。


俺はちらりとロクサーヌを見る。


彼女は目を閉じたまま深く頭を下げていた。


左手は胸の上。


その姿勢からは忠誠心のようなものが感じられる。


アスタも全く同じだった。


どうしてそこまで敬意を払うのだろう。


命を救われたのか。


それとも引き取ってもらった恩があるのか。


そんなことを考えていると、ダリアンが軽く咳払いをした。


二人は身体を起こす。


俺もそれに合わせて顔を上げた。


「やあ、二人とも」


ダリアンは穏やかに微笑む。


そして俺へ視線を向けた。


「それで、その少年は誰だい?」


少女たちは一瞬言葉を探すように顔を見合わせた。


やがてロクサーヌが口を開く。


「宮殿へ戻る途中で見つけました。暗黒の森の出口付近で草の上に倒れていたんです。しかも全裸でした」


彼女は事務的な口調で続ける。


「本人は自分が誰なのか分からず、どうしてそこにいたのかも覚えていません」


「記憶喪失なんです」


アスタが補足する。


「放っておけなくて……だから、もしここで引き取ってもらえないかなって」


ダリアンは黙って顎に手を添えた。


そして俺を頭の先から足の先まで観察する。


まるで品定めでもするかのように。


やがて彼は口を開いた。


「まあ、一人くらい労働力が増えても困らないな」


その瞬間。


アスタの顔がぱっと明るくなった。


今にも飛び跳ねそうなくらい嬉しそうだ。


だが次の言葉で、その表情は凍り付く。


「ただし問題がある」


ダリアンは続けた。


「空いている部屋が女性用フロアにしか残っていないんだ」


「ということは……ここには置けないってことですか?」


アスタが少し寂しそうに尋ねた。


ダリアンは腕を組み、しばらく考え込む。


「いや、それ自体は問題じゃない」


彼は目を細めた。


「労働者用の女性フロアに入れることはできるだろう。あそこにいるのは皆大人の女性だ。事情を説明すれば理解してくれるはずだ」


その言葉を聞いた瞬間、アスタの顔は再び明るくなった。


しかし、その喜びも長くは続かなかった。


「ただし」


ダリアンが続ける。


アスタの表情が再び固まった。


「条件が二つある」


室内の空気が少し張り詰める。


「一つ目」


ダリアンは人差し指を立てた。


「彼には宮殿の仕事を手伝ってもらう。具体的には清掃係だ」


まあ、その程度なら予想の範囲内だ。


森の中で拾われた身としてはむしろ好条件に思える。


だがダリアンはさらに続けた。


「二つ目」


今度は二本目の指を立てる。


「彼には君たちの騎士になってもらう」


その言葉を聞いた瞬間。


アスタとロクサーヌの表情が揃って固まった。


俺自身も正直驚いていた。


騎士?


いきなり?


「なっ……!?」


最初に反応したのはロクサーヌだった。


「ど、どういう意味ですか!?」


彼女は思わず声を荒げる。


「騎士って……本当にその騎士ですか!?」


「そのままの意味だよ、ロクサーヌ」


ダリアンは落ち着いた様子で答えた。


「何か問題でも?」


「問題だらけです!」


ロクサーヌは一歩前へ出た。


「この人は戦い方も知らないんですよ!? 剣の握り方だって分からないはずです!」


勢いは止まらない。


「それどころか、自分が誰なのかすら分からないんです!」


彼女は俺を指差した。


「そもそも全部怪しすぎます!」


ダリアンは黙って聞いている。


「森の中で全裸で倒れていたんですよ!? 怪我一つなく!」


ロクサーヌはさらに続ける。


「そこへ偶然女二人が通りかかって、住む場所を用意すると言ったら、あっさりついてくる!」


彼女の言いたいことは分かる。


俺でも怪しいと思う。


むしろ反論できない。


「もしかしたら変質者かもしれないじゃないですか!」


ロクサーヌは机を叩きそうな勢いだった。


「あるいは間者かもしれません!」


部屋の中が静まり返る。


俺はダリアンを見る。


怒るだろうかと思った。


しかし彼の反応は違った。


目を少し見開いている。


驚いているようだった。


どうやらロクサーヌがここまで感情を露わにするのは珍しいらしい。


今まで見てきた彼女は冷静で厳しい少女だった。


少なくとも、こんなふうに感情的になる人間には見えなかった。


「ロクサーヌ」


ダリアンが静かに口を開く。


「君が心配していることは理解している」


その声は穏やかだった。


「だが、誰かを正式な騎士として認める前に、我々が十分な調査を行うことは知っているだろう?」


ロクサーヌは言葉を失う。


ダリアンは続けた。


「彼はすぐに騎士になるわけではない」


「まず宮殿で訓練を受ける」


「そして私自身が、君たちを守るだけの力と人格を持っていると判断した時に初めて騎士として認める」


そこで彼は少し首を傾げた。


「それとも、私を信用できないか?」


ロクサーヌははっとしたように顔を上げた。


「い、いえ!」


すぐに頭を下げる。


「申し訳ありません……」


その視線は床へ落ちた。


どうやら言い過ぎたと思ったらしい。


「それでいい」


ダリアンは小さく微笑んだ。


そして今度は俺へ視線を向ける。


「さて」


彼は肘を机につきながら言った。


「君はどう思う?」


俺は少し考える。


正直、気に入った提案とは言い難い。


清掃係はともかく、騎士になるなど考えたこともない。


だが拒否できる立場でもない。


確かに断ることはできる。


しかし困るのは俺だけだ。


ダリアンなら代わりの労働者を見つけることも、騎士候補を探すことも簡単だろう。


だが俺には何もない。


住む場所も。


記憶も。


頼れる相手も。


アスタとロクサーヌに出会えたのは運が良かっただけだ。


もし彼女たちと出会わなければ、今頃俺は森の中で死んでいたかもしれない。


あるいは獣に食い散らかされていたかもしれない。


それに。


もしここに残れば、自分の記憶を取り戻す方法を探せるかもしれない。


ダリアンなら何か知っている可能性もある。


そう考えると答えは決まっていた。


「条件は受けます」


アスタがほっとしたような表情を浮かべる。


だが俺は続けた。


「ただし、俺にも条件があります」


その瞬間。


アスタとロクサーヌが同時にこちらを見た。


驚いた顔だった。


どうやら俺が条件を出すとは思っていなかったらしい。


「条件?」


ダリアンが興味深そうに聞き返す。


「何かな?」


俺は迷わず答えた。


「記憶を取り戻す手伝いをしてください」


部屋が静かになる。


だが、その沈黙はほんの数秒だった。


ダリアンは笑った。


まるでその程度のことは簡単だと言わんばかりに。


「いいだろう」


彼は頷く。


「協力しよう」


アスタの顔がさらに明るくなる。


「ただし」


ダリアンは少しだけ口元を吊り上げた。


「君が彼女たちの騎士になる準備を整えてからだ」


俺は頷いた。


それくらいなら構わない。


「ところで」


ダリアンは再び尋ねる。


「君の名前は?」


名前。


確かに俺は自分の名前を知らない。


だがここへ来る途中から、一つの言葉だけが妙に頭から離れなかった。


なぜか分からない。


理由も思い出せない。


だが、その響きだけは自然に受け入れられた。


俺は口を開く。


「ユリアン」


ダリアンは頷いた。


「ユリアンか」


どこか満足そうだった。


「いい名前だ」


そしてロクサーヌへ視線を向ける。


「ロクサーヌ」


「はい」


「彼にまともな服を用意してやってくれ」


ロクサーヌの眉がわずかに動く。


「それから部屋を案内して、軽く宮殿の説明も頼む」


「……分かりました」


少し不満そうではあったが、今回は反論しなかった。


「仕事の内容も説明してやってくれ」


「承知しました」


話は終わったらしい。


俺たちはダリアンの執務室を後にした。


扉が閉まる。


その直後――


バタン!


ロクサーヌがやや乱暴に扉を閉めた。


そして振り返りもせずに言う。


「行くわよ」


相変わらずぶっきらぼうな口調だった。


俺はその後を追う。


歩き出す直前、最後にアスタと目が合った。


すると彼女は満面の笑みを浮かべながら手を振る。


「またね、ユリアン!」


明るい声が廊下に響いた。


「そのうちきっと会えるから!」


その笑顔を見ながら、俺はロクサーヌの後を追って歩き出した。


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