第6話 異世界ケータリング、出動! 2
いよいよ、仁奈の能力が判明?の回です。
目の前に出現したものに仁奈は自分の目を疑った。
可愛らしいローズピンクの色合いとは反対に、重厚な金属の塊はタイヤも大きい。キッチンカーによく似ているが、それにしては大きいのだ。
「大きい……! よく見るキャンピングカーよりずっと大きい」
仁奈は以前、キャンピングカーの情報を集めていたことがある。
キャンピングカーには元となる車があり、それを基準にサイズなどを選んでいくのだ。少人数用に小ぶりで使いやすいもの、複数人用だが比較的扱いやすいもの、需要によって種類も様々だ。
そのなかで仁奈にとっては縁遠いと思ったのがこのサイズのキャンピングカーである。乗車人数やサイズ感はもちろん、その価格がまず仁奈には手が出ない。
そんな車が今、なぜか異世界にあるのだ。
「キャン……なんですか?」
「あ、えっと……大きくて寝泊りできる車……かな? でも、能力はキャンピングカーじゃないよね。じゃあ、これはケータリングカー、になるのかな」
この説明では十分とは言えないが、仁奈もまだ目の前で起きた出来事を整理できていないのだ。
「と、とりあえず、色々と確認してみます!」
「な……! ちょっと待て! まだ安全性がわからないだろう!」
走り出す仁奈をオスカーが止めるが、彼女はケータリングカーへと向かってしまう。
おまけになぜかそれに続くように、キースもロビンも走り出すではないか。
「待て……! あぁ、もう!」
仕方なく、オスカーも彼らの元へと走っていく。
そんな4人に続くように、大型犬もしっぽを振って追いかけるのだった。
「凄い! キッチンが二口コンロです! オーブンレンジ、それに冷蔵庫まで!」
「ソファー、ソファーもふわふわですね。僕達の研究室の椅子とは大違いです」
歓喜の声を上げる仁奈、ロビンも物珍しそうに辺りをきょろきょろ見回す。そんな二人を前に、オスカーは乗車せずに車内を覗きこむ。
未知の力を前にオスカーは慎重になっているのだろう。眉間には深い皺が寄る。
「お、おい。乗って大丈夫なのか?」
「うーん、多分平気ですよ」
「多分ってなんだ、多分って!」
これが地の口調なのだろう。先程までとは違う言葉遣いになるオスカーが、ぐらりと体のバランスを崩す。車が動きだしているのだ、それも上に向かって。
「え、キースさんって運転できるんですか⁉」
いつの間にか運転席にはキースが座っている。右ハンドルなのは日本式なのだろうかと、どうでもいいことを思う仁奈にキースが首を振る。
「いや、私はここに座っただけだよ」
そう言ってキースは手の平をひらひらと振ってみせる。なんとキースはハンドルすら握っていない。しかし、何らかの力によって大型車は動き出しているのだ。
「というか、浮かんでますよ! 凄い……これだけの大きさの物を浮かび上がらせるには膨大な魔力が必要なはず。それなのに、今ニーナ様は魔術を使っていません。これはきっと、ニーナ様の御力であると同時にニーナ様より独立した能力なんです!」
魔術師としての初めて見た能力に興奮しているのだろう。ロビンが早口でそう言うと、目を輝かせる。
自分の力だと言われた仁奈だが、まだ実感が沸かない。
先程、誰かに呼ばれたと感じた仁奈は、初めて能力を発揮した。
突如得たこの能力をどう扱えるかも未知数なのだ。
「――すまない……助けてくれないか」
その呼び声に仁奈はハッとする。そう、仁奈は誰かに救いを求められていたではないか。声の主を探そうと仁奈は辺りを見回す。
「あぁ! 大変です!」
ロビンの大声で乗車口を見ると、なにか指のようなものが見える。
そこで仁奈はもう一つ大事なことに気付く。
そう、先程まではオスカーが車の外にいたのだ。
「いやー! オスカーさん! どうしよう、持ち上げられるかな!?」
「ふ、二人で頑張ればきっと――」
視線を合わせ、互いに頷く仁奈とロビンだが、オスカーの慌てた声が響く。
「いや、魔法だ! ロビンは魔術師だろう!」
「わふっ!」
「あ、そうでした!」
ロビンが小さな杖を振ると、オスカーがふわりと浮かび上がり、車内へと体がどさりと落ちる。
青ざめた顔のオスカーが「助かった……」と呟いた。
運転席のキースがご機嫌なようで白い歯を見せて笑う。
「いいねぇ! 私はここ数年で一番充実した時間を過ごしているよ。で、ニーナ。これからどうするんだい?」
自分に起こったことに驚き、戸惑っていた仁奈だがその眼差しに強い意志が宿る。
先程、聞こえていた誰かの声は仁奈に助けを求めていたのだ。
仁奈にもまだ自分の力がどんなものかはわからない。それでも誰かが必要としているのならそれに応じたい――仁奈はそう思うのだ。
「助けを求めている人がいるんです……! そこへ、そこへ行きましょう!」
「いいよ、でもどうやって?」
キースの質問は当然のものだ。今、この車は誰も運転をしていないにもかかわらず、動き出している。
そして、仁奈は助けを求める人物がどこにいるかはわからないのだ。
「えーっと、ちょっと運転席見せてください!」
仁奈だけではなく、ロビンやオスカーもそっと運転席を覗き込む。
車の運転をしたことがない4人にはさっぱりわからない機器が並ぶが、そのなかで仁奈の目を引くスイッチがある。
ピカピカと光るスイッチを仁奈だけではなく、ロビンもオスカーも見つめている。車に関して詳しくない仁奈だが、これが何のスイッチかは一目でわかった。
「キースさん! その緑の赤いボタンを押してください!」
指を差し、断言した仁奈にオスカーが慌てる。
「ちょっと待て……! それは確かに合っているんだろうな?」
「はい、大丈夫です!」
毅然とそういう仁奈だが、オスカーは疑わしいと言いたげな表情だ。
その態度に仁奈もむっとした様子で腰に手を当てる。少なくとも仁奈はオスカーよりこの車に詳しいという自負がある。
なにせ自分の能力であり、仁奈は運転したことはないものの、車に乗ったことはあるのだ。
「なぜ大丈夫だと言えるんだ?」
オスカーの問いかけに仁奈は胸を張る。
まだ自分の能力を把握しきれていないが、このスイッチがどういうものかには仁奈は自信を持てるのだ。
「キースさん、押してください!」
「ちょっと待て! キースさ……」
オスカーが止めるより早くキースが光るスイッチを押す。
仁奈とオスカーを比べ、仁奈を取ったわけではない。ただ、面白そうなほうをキースは選んだのだ。
額に手を置いたオスカーが仁奈に鋭い視線を送る。
「で、このあとどうなるんだ?」
「おそらく、どこか遠くに飛びます」
「……は? 君は何を言って……」
ぐらりと車体が大きく揺らぐ。
仁奈の自信は確信に変わり、にっと笑う。
「これをワープと言います!」
「ど、どういう意味だ? それは危険ではないのか⁉」
「あっ!」
初めて聞く言葉と不穏な車の音にオスカーの顔は青ざめる。
仁奈もまたオスカーの言葉ではたと気づく。ワープという状況に魔術のかかった車はさておき、人体は耐えられるのだろうか――そんな疑問が浮かんだのだ。
しかし、同乗しているロビンとキースはオスカーとは違う反応を見せる。
「うわぁ! まだ知らない魔術を体験できるんですね!」
「本当に私は運がいいね。聖女様じゃなく君を選んでよかったよ」
「待て! 待ってくれ……!」
「わふっ!」
様々な反応を示した者達の声だけを残し、ローズピンクのケータリングカーはスラフェスの王城から消えたのだった。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
キャンピングカーも色々あるんですね。
これからの季節、レンタルされる方もいらっしゃるんでしょうか。




