第64話 玲奈と仁奈
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もうすぐラスト!
数日間降り続いた雨が止んだが、空は曇天で雲が広がる。
聖女であり、姉である玲奈と久しぶりに会った仁奈は落ち着いた様子で部屋の椅子に座っていた。
王や宰相、キースと定期的に面談をする玲奈だが、今日は仁奈も共にいる。
それは姉のある決意を仁奈も聞くためだ。
巡礼の旅への姉の想い――先日、治癒士達の姿を見て、仁奈は看護師になる夢を語っていた姿を思い出した。
異世界に来た今も、姉である玲奈の心が変わっていないはず。
巡礼の旅を望む玲奈の心を仁奈はそのようにとらえていた。
「やぁ、ニーナ。君がいるとは思わなかったよ。今日はなにか特別なのかい?」
仁奈がいる理由を察しているだろうキースの言葉に、玲奈はじっと妹を見つめ、きゅっと口元を引き締める。
「――皆様に、私からご報告したいことがございます」
緩いウェーブの髪と華やかな容姿を持つ姉の玲奈だが、一方で責任感も芯も強い女性であると仁奈は知っている。
仁奈は姉である玲奈の言葉をじっと待つ。だが、そのときバタバタとした足音が聞こえ、扉が急に開くと男が部屋に入って来た。
王もいることもあり、叱責を受けてもおかしくない場面ではあるのだが、男の青ざめた顔と整わぬ呼吸がその緊急性を伝えている。
「構わぬ」
王アンドリューの言葉に一礼をした男は宰相レイモンドの元へと近付き、そっと耳打ちをする。それを受ける宰相レイモンドの眉間には深い皺が寄る。
「大変です! 王都に向かうサーファス国の一行が長雨で緩んだ土地で足止めを食らっているようです。支援を求める者が今、王城に辿り着いたそうで……!」
数日間続く雨のせいで地面がぬかるみ、馬車も足をとられたのだろう。
魔道具が流通しているとはいえ、魔法を使うには魔術師が必要になる。そのため、まだまだ馬車を使うのが一般的なのだ。
「こちらに向かっているサーファス国の使者と言えば、それなりの人数になるだろう。今はどのあたりにいるか、予想はついているのか?」
王アンドリューの言葉にすぐさま頷いた男が伝えたのは、サーファス国の伝令から聞いた情報だ。
「かの国から訪れる使者は数十人、今は王都周辺の平原にいるそうです。ですが、王都までは距離があるうえ、怪我人までいるそうで――」
足止めだけではなく怪我人までいるとの情報に部屋の空気が重くなる。
サーファスは友好国であり、使者をこちらに向かわせる途中の事故である。伝令まで来ている状態で放置するなどはありえない。
すぐさま行動し、彼らの元へと向かう必要があるのだ。
王でアンドリューが口を開こうとしたそのとき、凛と強い意志と眼差しを持った少女が口を開く。
「あたしが行きます……!」
それは聖女召喚で巻き込まれてこの世界に訪れた少女、橘仁奈。皆の視線が彼女へと集まる。
「ケータリングカーを呼びよせて、食事を提供します。私なら日数をかけずに向かえますから……!」
仁奈の決断に真っ先に賛同するのはキースだ。
「うん、いいと思うよ。ロビンとオスカー、それに私も同行しよう。それなら問題ないんじゃないかな。ケータリングカーだと今日中には戻ってこれるからね。」
セイラスの民であるキース、そして魔術師であるロビンとキースの同行であれば、状況の把握や治癒も問題なく行われることだろう。
魔術師であるロビンが抜けるのは不安が残るが、ルイージは残り、ケータリングカーであれば時間もかからず戻ってこれるのだ。
キースと王であるアンドリューは長い付き合いであり、信頼もある。
王アンドリューは決断を下す。
「……まずはキース達を向かわせ、応急対応を。その後、こちらに戻り、先方の情報を知らせてくれ」
「わかったよ。じゃあ、行こうか。ニーナ」
「は、はい……!」
キースに促された仁奈はぺこりと一礼をすると、部屋を後にしようと歩き出す。
しかし、そんな彼女の背中には姉である玲奈の強い視線が注がれる。
「……仁奈」
その視線は鋭く刺すように、ぱたぱたと足早に去っていく仁奈の背中に向けられ、ドアが閉まるまで離れない。
その美しい瞳の中には仁奈に対する激しい怒りが滲む。
曇天であった空は今にでも雨が零れ落ちそうに暗く重い雲が垂れ込めるのだった。
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