第65話 玲奈と仁奈 2
あと2話です。
明日も同じ時間に更新します。
どうぞよろしくお願いいたします!
王城の庭に仁奈はケータリングカーを呼び出した。
ローズピンクの愛らしい色合いのケータリングカーは異世界スラフェスでずっと助けてもらった頼もしい相棒だ。
「皆さん、準備は大丈夫ですか?」
仁奈が後ろにいるロビン達に話しかけると力強く頷く。
しかし、仁奈が少々心配なのは魔術師であるロビンが王都を離れることだ。
「……すぐに戻れるとは思うけど、ロビン君がいなくて大丈夫かな」
そんな仁奈の問いかけにロビンはにっこりと笑う。
「はい! 治癒士の人達も師匠もいますから」
「そっか……。サラさん達もいるもんね!」
その言葉にグレタが自分のことのように胸を張る。
魔術師であるロビン、騎士であるオスカー、セイリスの民であるキース、そして仁奈といつもの異世界ケータリングのメンバーが勢ぞろいし、グレタやシンクレア夫人、ガブリエルまで来てくれた。
「それじゃあ、行きましょう!」
仁奈の声掛けにロビン達が慣れた様子でケータリングカーへと乗り込む。
オスカーの顔色だけ悪いが、責務を優先したのだろう彼は覚悟を決めた表情だ。
「気を付けるのよ……」
「はい! 行ってきますね」
シンクレア夫人の言葉に仁奈がそう言ってケータリングカーに乘ろうと背中を向けた瞬間、聴き馴染みのある声が彼女を呼び止める。
「仁奈……!」
焦げ茶の豊かな髪を揺らし、駆けてきたのは聖女である姉の玲奈だ。
華やかで人目を引くその容姿は今、仁奈をキッと睨む。その眼差しの強さに驚き、仁奈はケータリングカーへと向かう動きを止めてしまう。
「お、お姉ちゃん……!」
目を瞠り、姉を見る仁奈を追い越し、玲奈はひょいとケータリングカーに乘りこむ。
「――あれ?」
「ほら、早く仁奈も乗って!」
姉に手を引かれ、仁奈も慌ててケータリングカーへと乗り、ドアを閉める。
浮かび上がる窓からは笑いながら手を振るシンクレア夫人と自分も乗り込みたかったのだろう。しょんぼりと落ち込むガブリエルの姿が見えた。
「い、異世界ケータリング、出動!」
ふわりと浮かび上がったローズピンクのケータリングカーは誰かがワープボタンを押したのだろう。ひゅんと消え、空には重い雲だけが残るのだった。
「……どういうこと? 着いてくるなんて!」
腕組みをしてムッとした表情の仁奈だが、玲奈は平然とした様子で一緒にソファーに座る。ワープボタンを勝手に押した玲奈が、どこか満足げにも仁奈の目に映るのが癪だ。
「一応聞くけれど、ちゃんと許可はとったのかい?」
「……ふふ」
「お姉ちゃん!?」
キースの問いかけに微笑みだけを返す姉に仁奈は頭を抱えたい気分だ。
しかし、当の玲奈は毅然として微笑む。その横顔はどこか達観したように揺らがぬ決意が見える。
「私に出来ることがあるのに、何もしないで待っていろと言うの? ……聖女であることは受け入れたけれど、お飾りになる気はないの。私にだって、自分の意志も考えもあるんだもの」
「……お姉ちゃん」
巡礼の旅をする――その決意を固めた玲奈は聖女として生きる覚悟を決めたのだろう。だが、それは決して自分自身の想いや考えを捨てるという意味ではないのだ。
優しくも芯の強い眼差しがそれを伝える。
そのとき、くすくすと笑い声が聞こえた。
キースかと思った仁奈だが、笑い声の主はオスカーだ。
「すまない。いや、よく似た姉妹だと思ったんだ……」
オスカーの言葉にロビンやキースもまたふっと口元を緩める。
似ているなどと言われたことは仁奈の記憶にはない。
華やかな容姿を持ち、凛とした姉を仁奈も慕い、頼りにしてきた。
そんな姉に自分が似ている部分があるのだろうかと思う仁奈をぎゅっと玲奈が抱き寄せる。
「当たり前でしょう。私と仁奈は姉妹でずっと一緒に暮らしてきた家族なんだから、似た部分はあります。ね、仁奈」
姉の体温を感じながら、照れくさそうに仁奈は口を開く。
「……まぁ、ずっと一緒にいたからね」
容姿や雰囲気は似ていない仁奈と玲奈だが、その真摯さや意志の強さはどこか似ているのだ。長く接しているロビン達はそれを感じ取ったのだろう。
姉に似ている――そんな些細な言葉が仁奈の心を強くする。
もうすぐサーファス国の人々の元へと着くはずだ。
仁奈は気を引き締め、自分がすべきことを考える。その表情を優しい眼差しで玲奈が見つめていた。
昨日、発表されました!
DREノベルス様で受賞しました作品は改題し
『断罪済み令嬢はお菓子をつくりたい! ~異世界スローライフにモフモフを添えて~』となります。
イラストは珠梨やすゆき先生が手がけてくださります。
どうぞよろしくお願いいたします。




