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異世界ケータリング!~姉の聖女召喚に巻き込まれた私の案外充実した日々~  作者: 芽生


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第62話 チキンカレーと姉妹の絆 3

いつも読んでくださり、ありがとうございます。




 仁奈と別れ、グレタが向かったのは昼食を待っているだろう治癒士達の元だ。

 治癒士達が集まる一室は王城の別棟にあり、ドアが大きく開き、中にいる彼らがよく見える。その中でグレタが目を留めたのはよく知る顔だ。

 幼馴染のサラの姿に職務中のグレタの表情も明るく柔らかいものに変わる。

 サラの方もグレタの姿に気付いたようで、部屋から駆けだしてきた。


「サラ! 久しぶりね!」

「グレタ! ふふ、元気にしていた?」


 落石事故をきっかけに再開したグレタとサラであったが、こうして再会するのは久しぶりだ。王城での治癒士達の研修が始まっているのだが、グレタにも仕事があるため、同じ場所で過ごしていながら会える機会がなかったのだ。

 

「今日は昼食を王城の人達が作ってくれるんでしょう? 皆、楽しみにしているの」

「そうよね……」

「サラ?」


 部屋の中の治癒士達も休憩中ということもあり、どこか楽し気な雰囲気がある。彼らの中には今日の昼食を楽しみにしている者も多くいるはずだ。

 グレタの表情が曇ったことに気付き、サラは不思議そうに彼女の顔を覗き込む。

 

「実は手違いがあって、昼食を作るのは厨房の方々ではなくなったのよ」

「え! そうなの……。でも、昼食はあるんでしょう? いつもは皆、王都で買ってきているの。今日は厨房でって聞いているから持ってきてないのよ」


 サラの言葉にグレタはすぐに頷く。

 王城の料理人の昼食こそ用意できなかったが、グレタにとって治癒士達に今から作られる料理も誇れるものなのだ。


「でもね! 代わりにニーナ様が今日の昼食を作ってくださることになったの」

「ニーナ様が! 本当⁉」


 落石事故の際、心身ともに傷付いていた自分、そして他の者にも温かなスープを振舞ってくれたのをサラは鮮明に覚えている。

 パッと浮かんだ幼馴染の笑顔にグレタは安堵の笑みを浮かべた。

 

「まだ何を作るかは伺っていないけど、きっと喜んでいただけると思うわ」


 グレタの言葉にサラも力強く頷く。


「そうよね! ニーナ様の料理とあのケータリングカーならきっと美味しいものを頂けるわよね! ……私、皆に教えてくるわね!」

「あ、サラ……!」


 くるりと背中を向けたサラは仲間の治癒士達の元へと駆けていく。

 何か話しかけるサラ、そしてそれを聞く治癒士達は笑顔になるとグレタの方へと視線を向ける。

 仁奈の料理やケータリングカーの凄さを伝えているのか、身振り手振りを交える友人の姿にグレタは口元を緩めた。


「きっと、ニーナ様なら作ってくださるわ。……そうだわ、私も手伝いに行かなくっちゃ」


 そう言って治癒士達に一礼をするとグレタは仁奈のいるであろう王城の庭へと急ぐのだった。



*****


 

「異世界ケータリング、出動!」


 仁奈の声と共にローズピンクの車体が現れ、王城の庭に降り立つ。

 大きな車体だが、色合いもあって仁奈からすると愛らしく見える。

 

「さて、問題は何を作るかだよね……。今までも大人数分作ったことはあるけど、他の人に手伝ってもらってたからなぁ。ボリュームもあったほうがいいよね」


 サラの友人が落石事故に巻き込まれたときはスープ、飛行船事故のときにはリゾットなどを用意したのだが、それは胃の負担にならないようにと考えた料理だ。

 今回はお腹を空かせ、昼食を待ちかねている治癒士達である。

 

「40人の大人達のお腹を満足させる料理か……」


 しばらく考えた仁奈はぱっと顔を上げるとニッと笑う。

 

「よし! あの料理にしよう!」


 車内に乗り込んだ仁奈を待ち構えていたようにケータリングカーの中にはパンの良い香りが漂う。

 どさりと置かれたのはこんがりと焼き色のついたバゲットが、カゴの中に切り分けられて入っている。


「流石……! ありがとう! ご飯を炊こうか迷ってたんだよね。橘家的にはご飯なんだけど、40人分だしね……! 助かるなぁ」


 仁奈はそう言うと手を洗い、エプロンをつける。髪は結っているので、ポケットに入れていたバンダナを取り出すと、きゅっと結ぶ。

 冷蔵庫の中を覗くと、仁奈は食材を確認する。


「じゃがいも、人参、玉ねぎにトマト、お肉は……鶏もも肉。そう、これなんだよね、我が家の定番カレーは」


 仁奈がこれから作ろうとしているのはチキンカレーである。

 どんな家庭でも作るカレーだが、それぞれの家で肉や入れる野菜も異なる。

 橘家では肉こそ毎回変わるものの、カレーに入れる野菜は定番そのものであった。肉が毎回違ったのは、余っている肉を入れていたからではないかと仁奈は睨んでいるのだが、母に聞くことは出来なかった。

 代わりに定番となったのが仁奈が作るこのカレーなのだ。


「……にしても量が多いから急がなきゃ」


 仁奈がそう呟いたとき、コンコンと窓ガラスを叩く音と顔を覗かせるグレタが見えた。


「私もお手伝いいたします!」

「ありがとう! さ、入って!」


 車内に来たグレタに仁奈は手を洗う場所を教える。

 今までも乗ったことはあるが、実際に厨房スペースに入るのは初めてのグレタは水が出ることに驚き、目を大きく見開く。

 ロビンやオスカー、キースやシンクレア夫人などは少々変わっているのだなと自分を棚に上げ、仁奈は失礼な事を考えた。


「手を洗ったら、まずは一緒に野菜を洗いましょう。そして、皮を向いて切っていきましょうね!」

「はい」


 仁奈とグレタは手際良く玉ねぎやじゃがいも、人参を洗っていく。

 水気を切ったら、それぞれに野菜の皮を向いていくのだが、ここで役立つのがピーラーだ。


「これでこう、上から下に滑らせていくの」

「まぁ! これなら時間がかかりませんね」


 グレタはピーラーを気に入ったようでどんどんと人参の皮を向いていく。

 仁奈はじゃがいもの皮を向き、取りにくいところは包丁で丁寧に取る。

 

「じゃがいもは大きめに切るから、人参はイチョウ切り……えっと、輪切りにして半分の半分に切ってね。で、切ったのはこの金属のボウルに入れて」


 そう言って仁奈は金属のボウルをグレタの近くに置く。

 じゃがいもを切り終えた仁奈は玉ねぎへと手を伸ばす。

 

「ニーナ様、慣れていらっしゃいますね」

「ふふ。いつもしてるし、元々好きだったから」


 皮を向いた玉ねぎは薄く千切りにしていく。

 母が作ってくれたのはざく切りであったので、このチキンカレーは仁奈風になる。

 橘家のカレーは母が作っていたが、その母には作り方を教わることがなかった。

 母の死後、忙しい姉の負担を少なくしたいと仁奈は料理を覚え始めた。

 テレビで紹介されていたものを必死でメモを取ったのが、このカレーなのだ。


「……お姉ちゃんがきっかけなんだよね」

「ニーナ様?」

「ううん、なんでもない。カレー、皆喜んでくれるといいね。好きな人が多いけど、それぞれの家の味とかこだわりもあるもんね」


 つい呟いた一言にグレタが反応したため、仁奈は慌てて首を横に振り、そう言う。

 しかし、グレタはきょとんとした表情で仁奈を見つめている。

 理由がわからず、口を開こうとした仁奈にグレタが驚きの一言を口にした。


「――あの、カレーってなんでしょうか」

「へ? カレーはあの、カレーライスで……あ!」


 仁奈の世界ではお馴染みのカレーだが、ここは異世界である。

 あまりに定番の料理であったため、カレーという料理自体が知られていないという考えが仁奈からすっかり抜けていたのだ。

 そして目の前には大量に切った人参やじゃがいも、これから玉ねぎを切る予定であり、冷蔵庫には鶏もも肉もある。


「ど、どうしよう……」


 香辛料も多く刺激的なカレーライスがこの世界の人々に受け入れられるのか――そんな不安を抱き、調理の手が止まる仁奈であった。

 


カレーライスもご家庭によって違いますよね。

ルーや隠し味なんかもあったり…。

昔はもっと黄色いカレーだった気がします。(ターメリック多め?)



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