第61話 チキンカレーと姉妹の絆 2
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
王城の廊下を歩く仁奈だが、玲奈の言葉が頭から離れない。
聖女である玲奈は多くの人を想い、気遣っている――しかし、そんな姉の心は誰が気遣い、守ってくれるのか。
(私にとってはたった一人のお姉ちゃんなのに……)
先程言えなかった言葉が幾つも思い浮かんでは消えていく。
どうすれば姉の決意を変えられるのだろう――そんな想いが仁奈の心を占める。
仁奈の表情を見たグレタがふと、何かに気付いたかのように口を開く。
「実はサラ達、治癒師が王城に来ているのです」
「サラってグレタの幼馴染の子だよね。治癒師の人達が集まるってことは勉強会でもあったの?」
グレタが言うサラとは彼女の幼馴染の治癒師である。
幼い頃に王立図書館で本を読み、将来の夢を語り合った二人は大人になって再び出会ったのだ。サラが職務中に、とある事故に巻き込まれるという不運にあったのだが、それがケータリングカーを呼び、グレタとの再会にも繋がった。
平民からも魔術師を出そうとする国は、同時に治癒師の育成にも力を入れ始めたのだ。
「はい。サラは勉強はもちろん、王城で昼食がとれることを楽しみにしているようですよ――もし、よろしければ足を運んではいかがでしょうか」
「せっかくだし、挨拶していこうか。あ、そのまえに厨房のアダムさんにも!」
仁奈の言葉にグレタがどこか安心したような笑みを浮かべる。
「きっとサラも喜びます」
このまま、自室に戻っても姉との会話を思い出し、悩んでしまいそうな仁奈はグレタの申し出をありがたく受け入れ、アダムのいる第一厨房へと向かうのだった。
「アダムさん! ん……あれ?」
アダム達のいる第一厨房に顔を出した仁奈は、普段と異なる雰囲気に首を傾げる。
いつになく慌ただしく調理人達が食材を刻み、炒め、また新たな食材を運んでいる。活気あるというよりは皆、焦っている様子で仁奈とグレタは顔を見合わせる。
「あの、どうかしたんですか?」
「……今、厨房大変。連絡の行き違いあった」
仁奈の声に気付いたのは副料理長のソフィアだ。
「料理長! ニーナ、来た」
「おぉ! ニーナ! 良いところに来た! 大変なんだ……!」
ソフィアの呼びかけに料理長のアダムが仁奈の方へと慌てて駆けてくる。
「連絡の行き違いがあったと聞いたんですが――」
「そうなんだよ! 実は今日、治癒師達が来るという情報がこっちに伝わってなくってな……」
「連絡ミスがあったんですね。でも、これから作れば間に合いませんか?」
王城に勤める者達の昼食時間はもう過ぎている。大変ではあろうが、王城には食材は十分にあるはずだ。
これほど調理人達が慌てているのは、治癒師達の調理に奔走しているのだろうと考えた仁奈がそう言うがアダムは首を振る。
「いや……、元々は使者として訪れている方々の料理の下準備をするグループと普段のように昼食を作るグループとに分けていたんだ。やっと、食事が終わって使者の方々の食事をこれから作るところなんだよ……! どう考えても時間と人員が足りねぇんだ」
「――であれば、昼食時間が遅れることを私の方から治癒師の方々に伝えましょう。事情を説明すればきっとわかってくれるはずです」
アダムの言葉にグレタが口を開く。
ハッとしたアダムだが、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
使者を軽んじれば、国同士の問題になり兼ねない。だが、治癒師を軽んじるつもりもアダムにはないのだ。
腹を空かせているだろう治癒師達を待たせるのは料理人であるアダムとしても本意ではないのだろう。悔し気な表情を浮かべる。
「――あの、その昼食ってあたしが作ってもいいんですか?」
アダムとグレタ、そして厨房の料理人達の視線が仁奈へと集まる。
「もちろん構わない……いや、むしろそうしてくれると俺らとしては助かるんだが、いいのか?」
アダムの問いかけに仁奈はにっこりと微笑むと頷く。
「もちろんです! 皆さん、頑張って勉強していたはずです。きっとお腹もすいているはずですから。ケータリングカーを使えば、調理できますから」
仁奈の言葉を聞いた厨房の料理人達にはどこか安堵した空気が流れる。
皆、時間と人手のなさで余裕はないが、治癒師達の食事も案じていたのだろう。
ケータリングカーであれば、厨房を使うことなく、調理が可能だ。人員の問題もケータリングカー内の道具を使えば、時短ができ、解決するはずだ。
「こういう料理じゃなきゃいけないとか、決まりはないんですよね」
「あぁ、そう聞いている……すまないな、助かるよ」
アダムの言葉に仁奈は首を横に振る。
「困ったときはお互い様って私の国の言葉にもありますから! ……それで、人数はどれくらいなんですか?」
治癒師達が訪れているとはグレタから聞いている仁奈だが、詳しい人数はわからない。食事を用意するのだから、人数の確認は必須である。
仁奈の言葉にアダムはハッとした様子で考え込む。
「そうだった! 大事なことを言い忘れていたな。ええっと……何人だった? ……ソフィア!」
アダムがソフィアを振り返ると、彼女は呆れたような表情で肩を竦めたが、仁奈へと視線を向ける。
「……じゅう」
「え?」
元々、口数が少なく声が大きくないソフィアの言葉を聞き取れず、仁奈が聞き返す。すると、ソフィアと距離が近かったアダムが聞き取れたのだろう。
ニッと白い歯を見せて笑う。
「40! 40人だそうだ!」
「……よ、40人ですか⁉」
それは仁奈が想像していたより、ずっと多い人数である。
目を瞬かせつつも、どんな料理がいいか、どれだけ時間がかかるかと頭の中で計算を始める仁奈であった。
カレーも地域やご家庭で違いますね。
最近ではお店はももちろん、レトルトなどで様々なカレーが食べられますね。
皆さんはどんなカレーが好きですか?




