第57話 故郷自慢のお好み焼き 5
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
ソースの味も出来栄えの違いに繋がりますよね。
ここ数週間、王城の一角で魔術師であるロビンは聖女の玲奈に魔法の指導を行っている。
治癒の能力を持つ聖女玲奈に指導を行えるのは今、王城にいる魔術師ではロビン、そして彼が師匠と仰ぐルイージだけである。
飛行船墜落事故の責任を取る形で一部の魔術師達が追放された。
その影響を大きく受けたのがロビンとルイージで、多忙な日々を送っていた。
「――聖女様の御力は素晴らしいですね!」
にこにこと笑うロビンだが、聖女である玲奈は曖昧な笑みを返す。
そんな玲奈の表情の陰りに気付いていないのか、ロビンは意気揚々と語り出す。
魔法のことになると、ロビンは夢中になってしまうのだ。
「治癒が的確ですし、時間も短い。なにより、魔法量が豊富なので多くの人を治せる御力です!」
「……多くの人を?」
玲奈の問いかけにロビンはこくりと頷く。
「はい! 生活魔法がわかりやすいんですけど、やっぱり使うと疲れてしまうのなら簡単には使えません。ニーナ様だと生活魔法もバンバン使えちゃうんです。そうなると魔道具もいりませんよね」
求めていた返答とは異なるのだが、妹がこの国でも苦労しないのだとわかったため、玲奈は口元を緩ませる。
テーブルの上に置かれた茶器で使用人達が休憩の支度をしているのを見つつ、ロビンは嬉しそうに話し続けた。
「今、平民から魔術師を育てる試みがあるんです。彼らが育つのが楽しみで……それに治癒師の育成なんかも始まったんです。国全体で怪我や病に苦しむ人が減るのでやりがいがあって……あ、すみません! 僕の話ばかりして……。あの、聖女様はいかがお過ごしですか? ……ニーナ様も気になさっているんです」
微笑んでいた玲奈であったが、仁奈の名が出ると口元を引き締める。
この世界に訪れたのは偶然であった。
聖女である玲奈に巻き込まれた形で仁奈はこの世界に連れて来られてしまったのだ。あのときは自分のこと以上に、玲奈は怒りを覚えたものだ。
そんな仁奈も、こちらの世界で異世界ケータリングという能力や、やりたいことを見つけ、周囲の人にも必要とされている。
しかし、姉として安心する一方、玲奈は不安も抱くのだ。
「……聖女として、私もすべきことをしなければ」
「――聖女様……」
ロビンは日頃から聖女である玲奈、そしてその妹である仁奈と会い、共に過ごしている。この国の中で、異世界から来た姉妹どちらとも接しているのはキース達もいるが、ロビンが最も長く過ごしているのだ。
だからこそ、ロビンとしては姉妹の言葉の違いが気にかかる。
仁奈はやりたいことを、玲奈はすべきことを語っているのだ。
弟妹がいるロビンもずっと、自分が背負い、頑張ることで道を拓いてきた。
玲奈の気持ちや考え方もわからないわけではない。
「最近、ニーナ様とお会いになっていますか?」
「えぇ、夜に一緒にお茶を飲んだりしているわ」
「そうですか……。色々とお話しできるといいですね!」
そう言いつつ、ロビンはお茶の準備の済んだテーブルへと玲奈を案内する。
背負う姉とそれを案じている妹――玲奈と仁奈のすれ違いは解決したはず。
それでも今、聖女としての立場や責務は他の誰かに背負わすことはできないのだ。
おそらく妹である仁奈を想うからこそ、玲奈は悩みを打ち明けはしない。
どちらとも接するロビンもまた、歯がゆさを感じている。
しかし、今聖女である玲奈に望まれているのは巡礼の旅――ロビンにも軽々しく口に出来る話題ではない。
玲奈の想いに仁奈の想い、しかしそれぞれの立場もある。
ただ、玲奈の体調や心境を気遣うことで精一杯なロビンであった。
*****
「小麦粉、キャベツ、豚肉、卵、ネギ。ここに紅ショウガや天かすね」
「小麦粉、キャベツ、豚肉、卵、ネギ、もやし、中華麺。ここに天かすね」
エイミーとサナがそう言ってキッチンに材料を並べていく。
仁奈にはおなじみの具材だが、こちらでは手に入りにくい食材もあるだろう。
中華麺は先にこちらの世界に転生・転移で訪れた人々が作り出したのだろうかと仁奈はそちらに関心が移る。
「……おんなじような材料で作るんだね」
「じゃあ、おんなじなんじゃない?」
「だって、お好み焼き? っていう同じ料理なんでしょ?」
こっそりキッチンを覗き込んでいるのは仕事を終えた子ども達だ。
二人が異世界の料理を作ることになり、興味津々覗き込む。
なにやら、エイミーとサナが料理対決をするというが、めずらしいものが食べられるというイベントが突如開催されることに皆、楽しんでいるようだ。
しかし、エイミーもサナもキッと眉を吊り上げる。
「同じじゃない‼」
「全然、違う! ソースから焼き方から全然違う!」
「そうよ! カレーだって日本風とイギリス風、本場だって地域によって大違いなんだからね!」
「サナの言うとおりよ!」
お好み焼きなら一緒だろうと言われ、エイミーとサラは怒るが子ども達はきょとんとした表情だ。
なぜか、戦う二人が団結している。それならば、仲良くどちらも食べればいいのではとその顔には書いてある。
二人の様子にナオミは呆れたようで、シンクレア夫人へと視線を移す。
シンクレア夫人は腕を組んだまま、首を横に振る。
「そもそもキャベツの切り方、卵の入れ方、大きく違うの。そう、卵は生地には入れないものなのよ」
「え? 入れないと生地がふんわりしないでしょ?」
「生地をふんわりさせる必要なんかありませんー!」
まだ材料を並べただけでこの騒がしさだ。
ほんの少しの時間だが、日頃のシンクレア夫人や周囲の子ども達のの大変さがわかるというものだ。
そんな様子を見ていた仁奈が、気になったのはある調味料だ。
「……ソースは中濃ソースなんだね」
ぽつりと呟いただけであったが、エイミーがすぐに反応する。
「そうなんです! 本当はお好みソースがいいんです……! いいえ、でも仕方がありません。中華麺があるだけ感謝しなくっちゃ……」
「そう! 中華麺! ね、それどこで手に入ったの?」
サナが言うとおり、仁奈も先程気になったのが中華麺だ。
仁奈のケータリングカーであれば、食材は用意できる。
しかし、この世界で中華麺を入手出来たということは誰かがそれを作り出したということなのだ。
「実は最近、新しく派遣された仕事場の近くにラーメンを売る小さな店があって……」
「エイミー、それ本当⁉ なんで教えてくれなかったの!?」
「だって、私もまだ行っていないもの。麺だけなんとか譲ってもらったのよ! お給料が入ったら二人で行こうと思って……」
中華麺を通して二人の会話は一気に盛り上がる。
転生してきた二人は似たような食文化を知っているのだ。
「……二人は本当は仲がいいんですね」
「そうなのよ……。でも、お好み焼き? のことになると揉めてしまって……。どちらも小さい子の面倒も見てくれるし、頼りになるんだけどね。そこで同じ食文化をしるあなたに頼むことにしたのよ」
お好み焼きはそれぞれに異なると意見を一致させたり、生地に卵を入れるかでまた言い合いをしたりと、目の前の二人は賑やかである。
その違いの重要性を知る仁奈でも圧倒されるのだ。知らない周囲の者が困惑するのも当然だ。
しかし、二人のこだわりはどうにも行き過ぎているようにも仁奈には感じられる。
育った地域の味は誰もが馴染み深く思い、大事にするもの――けれど、エイミーとサナのこだわりはそれ以上だ。
「いいわ! 私の作るおばあちゃんのお好み焼きがどんなに美味しいか、皆にもわからせてあげる!」
「いいえ! おじちゃんとおばちゃん直伝のお好み焼きの美味しさをわからせるから!」
張り切って調理を始める二人を前に、仁奈とシンクレア夫人はため息を溢す。
「――で? どうするの」
「……ど、どうなるんでしょう」
調理を通じて二人が仲良くなれるのではないかと期待していた仁奈だが、今のところは難しそうだ。
しかし、調理をするエイミーとサナの後ろで、子ども達は目を輝かせている。
二人の作る二種類のお好み焼きが喜ばれることは間違いなさそうだ。
真剣な眼差しで調理する二人に期待を持つ仁奈であった。
故郷の味、いいですよね。
知らないうちに味の好みは育った地域のものだったりしますし。
今回、お好み焼きをテーマにしたので
大阪と広島の読者の方が「違うよ!」とコメントが?とドキドキでした。笑
(もちろん優劣を競うお話ではないのです)
どちらの地域の方も納得できるラストを書けるように頑張ります。




