第53話 故郷自慢のお好み焼き 4
読んでくださり、ありがとうございます。
入り口近くのこの部屋は家でいうならリビングのような場所なのだろう。
仕事に向かう少女や、ここに残る少女など様々な子ども達が出入りする。
皆、ちらちらとこちらを気にかけるように視線を向け、仁奈はそのたびに軽く目礼をする。
「えっと……皆、忙しくしているんですね」
「昼時だから帰ってくる子もいるのよ。年齢によって働ける時間も変えているの」
二人の少女を部屋にある椅子に座らせ、テーブルを挟んだ向かい側に仁奈が座り、シンクレア夫人は立ったままだ。
隣同士に座った少女は互いに視線が合うと、ふいと反対側を向いてしまう。
そんな少女達に首を横に振ったシンクレア夫人が口を開く。
「――改めて、あなたから見て左に座っている子がエイミー。その隣にいるのがサナよ。二人とも、こちらがニーナ。ケータリングカーの話はしたでしょう? この子がそうよ」
「……ニーナです」
シンクレア夫人の説明に仁奈がぺこりと頭を下げると、二人の少女の顔が再びぱっと輝く。理由がわからぬ仁奈は視線をシンクレア夫人に向けると困ったように笑った。
「ここにいる子の中には転移してきた子や転生してきた子がいるの。さっきも言った通り、彼女達もあなたと同じ国の記憶があるそうなのよ」
エイミーもサナもうんうんとシンクレア夫人の言葉に頷くと、嬉しそうに仁奈へと話しかける。
「お話は伺っていたんですけど、今お辞儀をするのを見て『あ、私達とおんなじだー』って思いました!」
「そうそう! こっちだと貴族の人とか偉い人はしないもの! なんか親近感です!」
目を瞬かせる仁奈だが、確かに先程から目礼をしてしまっている。
「あー……確かに。でも、あたし別に偉くないからお辞儀はしちゃうかもしれないなぁ」
無意識の行動や習慣にも国による違いは出るものだ。
「私達も気をつけてるの。習慣の違いで変に思われてしまうと困るから」
「……そういうこともあるんだね」
普段、意識することなく生活していた仁奈だが、それは王城で限られた人々と過ごしていること、そして仁奈が聖女の妹であることなどで配慮もされているのだろう。
異世界ケータリングの仕事も聖女公認であるため、今までよりも理解されているようだ。
「まぁ、そういった事情もあってうちでは文字や計算以外に、礼儀作法や常識も教えているのよ。で、今はこの二人に悩まされているっていうわけなんだけどね。いえ、二人は仲はいいのよ。でも……解決できない問題があってね」
シンクレア夫人の言葉と視線にエイミーもサナも肩を竦める。
仁奈は先程の二人の言葉を思い出し、あごに手を置き、考え込む。
「――どちらのお好み焼きが美味しいかっていう問題ですね」
仁奈がそう言うとエイミーがテーブルに両手を置くと勢いをつけて立ち上がる。
「そうなの! サナったらわからずやなのよ! 広島のお好み焼きの繊細な美味しさがわからないんだから!」
「それを言うならエイミーだって! 大阪は粉ものが美味しいんだから、お好み焼きだって一番美味しいに決まっているでしょ?」
サナも負けじと主張し、立ち上がるとキッとエイミーを見つめる。
「だから、うちのおばあちゃんのが一番美味しいんだってば!」
栗色の瞳でサナを睨み返すエイミーだが、サナもひるむことなく視線を逸らさず、対峙する。
「いいえ! おじちゃんとおばちゃん直伝のほうがずっとずっと美味しいから」
そんな中、昼どきになり、午前中の仕事から帰ってきただろう少年少女が、入り口付近でこちらの様子を窺っている。
部屋の中に入りたくとも、喧嘩をする二人の様子に足を踏み入れられないのだろう。きょろきょろと互いに視線を合わせ、戸惑っている。
仁奈はどうしたものかと思いつつ、ちょこんと座るガブリエルの頭を撫でた。
「エイミーもサナもいい加減にしなさい!」
シンクレア夫人の言葉に流石に二人も言い合いを止めるが、互いに送る視線がまだまだ言いたいことがあると語っている。
顔をぷいと横に背けた様子は仁奈には子どもらしく見えるのだが、シンクレア夫人はまったくといった表情で額を押さえる。
「――では、作ってみてはいかがでしょう?」
その言葉に三人の視線が仁奈へと注がれる。
「……ニーナちゃん?」
視線を向けられた仁奈はにこりと笑うと、ドア付近で固まっている少年少女を見る。昼時に戻ってきた彼らはおそらくは空腹なはずだ。
「それぞれに想い出の料理にこだわりがあるのは当然です。せっかくですし、二人にとって特別な味をここにいる皆にも知って貰うのはいかがでしょうか」
仁奈の言葉に他の子ども達からはわっと歓声が上がる。
エイミーとサナはお互いに自信があるのだろう。視線を相手に向けるとニッと笑う。一瞬驚いた表情を見せたシンクレア夫人ではあったが、そもそもが仁奈にこの揉め事の解決を依頼したため、口を開かない。
「お好み焼き対決in異世界か……」
現代日本でも解決はおそらく難しい問題であり、提案した仁奈もこの勝負のゆくえはわからない。
しかし、料理がもたらすものが諍いだけなのは仁奈としては悲しい。
せっかくお互いにとって想い出の料理や自慢の味なのであれば、思う存分それを誇り、その良さを競い合ってほしい。
勝敗の結果は食べた人がどれだけ喜んでくれるか正当なものだろう。
働いてお腹を空かせて帰ってきた子ども達に、どんなお好み焼きを二人が作るのか。正しい形でエイミーとサラの問題が解決することを願う仁奈であった。
ご自宅で作る場合もソースや生地、それぞれのこだわりがあるのでしょうか?
おうちの味もお店の味もいいですよね。




