第55話 故郷自慢のお好み焼き 2
9月は関東を中心に雨が続きましたね。
10月は落ち着いた天候だと良いのですが。
「最近? そうだなぁ、食事の準備で忙しくなってるな」
第二厨房で仁奈が近況を尋ねると、アダムからはそんな返事がきた。
第二厨房の料理長であるアダムが料理の準備で多忙なのは、いつも仁奈も見かけている。
そんな疑問を口にするより前に、隣に座っていたロビンが口を開く。
「各国から既に使者の方がいらっしゃってますからね」
「儀式までにはまだ時間があるのに?」
聖女である玲奈のお披露目を兼ねた儀式があるのは仁奈も知っている。
それを前に玲奈は他国のことを学んだり、礼儀作法などと多忙なのだ。
最近では夜のお茶会でも少し表情に陰りが見える。多忙さゆえだと、気遣う仁奈に玲奈は首を横に振り、笑みを見せるが、その笑みもどこか弱々しく見える。
その点が仁奈としてはどうにも気がかりであった。
「はい。各国が自国の要望を事前にお伝えしたり、儀式を前にご挨拶をといらっしゃっているんです。もちろん、全ての方に対応しているわけではなく、代表者数名のみだとは思うのですが」
「なるほど。それでお姉ちゃんも忙しさが増しているのね」
何事も責任を持って行う姉のことだ。国によって謁見を拒むような真似は出来ないだろう。
おそらくは国の大小にかかわらず、話に耳を傾けるはずだ。
姉の表情に陰りが見える理由が仁奈はほんの少しわかった気がする。
「で、料理長の俺も忙しいわけだな。各国から来るわけで食料も、本来なら料理人んもそれだけ必要になるんだ。しかし、急に人員を増やすのも難しいからなぁ。まぁ、なにせ俺は腕がいいからな! なんとかするが」
「……食料の問題は技術だけでは解決できない」
「そ、そこはこう、俺達の知恵でなぁ……多分、な?」
胸を張るアダムに副料理長ソフィアの冷静な言葉がかけられる。
王城の厨房は第一厨房、第二厨房と分かれている。王族や高位貴族などの食事とより大人数を作れる第二厨房と役割分担の意味合いもあるが第二厨房の方が広く、人員も多いのだ。
技術の差ではないため、大規模な祝宴や会食などは第二厨房も任されている。
「まぁ、ここは王城だ。よっぽどのことがない限り、食料が足りなくなることもないだろう」
豪快にアダムが笑うと副料理長のシャロンはじとりと睨む。
「それでお姉ちゃんも色々と忙しいんだね。最近、疲れているみたいで心配だったので」
「そうですね……。治癒の魔法をお教えする時間などがありますから、僕も気にかけてみます」
「ありがとう。ロビン君」
忙しい姉に仁奈が日中会うことは難しい。
気がかりであった姉の様子、ロビンの言葉に仁奈はほっと肩を撫で下ろす。
「しかし、今回は焦ったぞ? 天候で日程がずれ込んだんだ。先方の予定がずれるとこちらの予定も変わってくる。どうにか晴天が続いてほしいものだな」
玲奈の能力でも通常の雷雨などは防げない。
雨が続けば、王城に届く荷が遅れることもこちらに向かう使者が遅れることも十分ある得るのだ。
「手伝えることがあったら、言ってくださいね。お皿洗いとか人数合わせくらいにはなりますから」
「お、ありがたいな! その言葉、忘れないでくれよ」
アダムの言葉に他の料理人達からは笑い声と同意する声がかけられる。
賢者ショウの貝のコキーユはもちろん、第二厨房によく顔を出す仁奈はすっかりここに馴染んでいるのだ。
「……あ、どうかなさったんですか?」
そんな第二厨房にめずらしい客人が顔を覗かせ、それに気付いた料理人が驚きで目を丸くする。
その様子に仁奈達も入り口のドアへと視線を向けるとそこには予想外の人物がいた。
「シンクレア夫人、どうなさったんですか?」
開いたドアの先にいるシンクレア夫人の眉間にはめずらしく皺が寄る。
何事か問題が起きたのだろうと、先程までの雰囲気とは変わり、厨房がざわつく。
「驚かせてごめんなさいね。ニーナ、あなたに頼みたいことがあるの」
シンクレア夫人の眼差しはまっすぐに仁奈を捉えている。
心当たりのない仁奈は目を瞬かせるのだった。
故郷の味、調味料も地域で違うのでこだわりがありますよね。
お味噌汁も出汁、味噌で全く違いますし。
お雑煮なんかも違ってそれぞれの良さを感じます。
次回は10/8に更新します。




