第44話 ハチミツ色の想い出 5
ハチミツ色、なんだか美味しそうですよね。
そう思ってこのタイトルにしました。
「……すみません。せっかく来ていただいたのにこんな雰囲気になっちゃって」
ようやくロビンが口を開くが、まず出たのは謝罪の言葉であったことに心を痛めたのだろう。オスカーの眉根に皺が寄る。
「いや、俺達が望んで伺ったんだからロビンが気にすることはない」
そう言ったオスカーだが、ロビンはしょんぼりと肩を落としたままだ。
「うん、これも美味しい。君の妹さんは料理が上手だね」
「――キース様? 食事をなさっているんですか」
しばらくの間、口を開かずにいたキースの発言にオスカーが振り向く。
キースはといえば、そんなオスカーの言葉に頷きつつも食事を続けている。
流石にロビンの心を考えぬ行動だと、オスカーが注意しようとしたとき、キースは最後の一口を飲み込むと口元をハンカチで拭く。
「こんなに手の込んだ美味しい料理を用意してくれるんだ。少なくとも我々もロビンも歓迎されているに違いない」
「……はい?」
「つまり、問題はやっぱり『想い出の料理』にあったと思うんだよ」
キースがそう断定すると、ロビンの瞳がまた悲しみに染まる。
「いいですか? キース様――」
「――私もそう思います」
嗜めようとオスカーが口を開いたとき、思わぬところからキースに賛同する声が聞こえる。考え事をしていた仁奈だ。
突然の仁奈の発言にオスカーは驚いたが、彼女の言葉を待つ。
「どの料理もロビン君のために作られたものです」
「僕の……ですか? きっと、オスカー様やキース様、それにニーナ様がいらっしゃるから失礼のないようにと考えてくれたのだとは思いますが」
テーブルの上に並ぶ料理はどれもいつも以上に手が込んだものだ。
張り切って作るクレアの姿が目に浮かぶようで、ロビンは胸が痛んだのだろう。また視線を下げた。
しかし、続く仁奈の言葉はロビンの想像とは違う結論だ。
「そうだね。でも、それも含めてロビン君を想うからなんじゃないかな」
「僕を想う……ですか?」
不思議そうに自分を見つめるロビンに、仁奈は笑顔を向ける。
「もし、私が家にお姉ちゃんの仕事仲間を呼ぶことになったら張り切ると思うんだ」
「そ、それは聖女様だからで! ……僕なんかとは違う立場の方ですから」
実力のある魔術師であり、功績をあげたにもかかわらず、ロビンがそう口にするのは今までの魔術師達の在り方に原因があるのだろう。
けれど、玲奈の仕事仲間を招いた自分の場合とロビンの仕事仲間を招いたクレアの気持ちに、大きな差があるようには仁奈には思えない。
「この世界に来るまではロビン君達と同じ普通の姉妹だよ。それでも歓迎するし、どんな料理を作ろうか色々考えると思うんだ。きっと、クレアちゃんも同じだったんじゃないかな」
「……そう、なんでしょうか。じゃあ、やっぱりクレアやアランが部屋を出た理由は『想い出の料理』にあるんですね……。一体、何がダメだったんでしょう……」
妹のクレアが自分の仲間である玲奈達を歓迎してくれた――それはロビンにとっても喜ばしいことなのだ。自分を気遣い、仲間を歓迎しようと努めてくれた妹の気持ちはありがたい。
だが、二人が席を立ってしまった理由が同時に一つに絞られてしまう。
それは『想い出の料理』への不満だ。
再び、ロビンは悲しそうに目を伏せる。
「僕だけが家族の想い出にしていたんですね……」
「うーん、それはちょっと違うと思うんです」
きっぱりと仁奈が言い放つ。
先程から仁奈が考えていたのが、『想い出の料理』というものについてだ。
仁奈がケータリングという能力で料理を作ってきたときは確実に相手が望む料理を再現できる。
そうではなく、仁奈自身の力で料理を作る時にはどうであったか。
そのときは相手に話を聞き、その想い出を共有しようと努めてきたのだ。
「今回、ロビン君が考えていたご近所の方に頂いたハチミツたっぷりのケーキは妹さんや弟さんにとっての想い出の料理じゃなかった」
「……はい。そうなんだと思います」
こくりと寂しそうに頷いたロビンだが、それも当然だ。
妹や弟と共有していたと思った想い出の味が、彼らにとってはそうではないとわかったのだから。
そんなロビンに仁奈が真剣な眼差しで問いかける。
「じゃあ、二人にとっての想い出の料理を三人で食べればいいと思うんです。なので、ケータリングカーをここに呼びます! どうでしょう? 皆さん、ご賛同いただけますか?」
「へ? ニーナ様……、何を」
突然の仁奈の言葉にロビンは目を丸くし、呆然とするが、仁奈はパッと左手を上げると右手で何かを指し示す。
「はい。イチッ、ニッ! 私を入れて三名が挙手! この結果、ケータリングカーをここに呼び出すことになりました! これはもう決定事項ですね」
ロビンが仁奈の指差した方を見れば、キースは嬉々として手を挙げ、オスカーは渋々といった表情で手を挙げている。
遠慮してしまうロビンの性格を考え、仁奈は二人に賛同を求めた。
こうして無理やりにでも押し切らねば、ロビンは自分のために誰かが動くのを納得しないだろう。
「で、ですが、僕の問題で家庭内の出来事です。それにニーナ様のケータリングの御力を使うなんて……」
「不公平ですよね」
予想したとおり、ケータリングカーを呼ぶことに消極的なロビンの言葉にかぶせるように仁奈はきっぱりと断言する。
「そうです……。異世界ケータリングをする仲間だからと力を優先的に使うのは、他の方に対し、不公平になります」
「いえ、異世界ケータリングに携わっているからと力が使えないのが不公平なんです」
仁奈の言葉の意味がわからず、目を瞬かせるロビンの後ろでオスカーがぽつりと呟く。
「誰しもが平等に異世界ケータリングの能力の恩恵を受けることが出来るべき――ニーナ嬢はそう言っているわけだ。それにはロビンも異論はないだろう?」
「あ……、それはそうですけど」
だが、ロビンの中では自分自身はその対象に含まれないのだろう。視線を泳がせ、言葉を探す。
以前、仁奈達の申し出を断ったのにもそんな理由があるのだ。
オスカーに続けるように仁奈もロビンに話しかける。
「もし、他の誰かに必要ならロビン君は異世界ケータリングで想い出の料理を再現するっていう選択に同意してくれると思うんだ。違うかな?」
仁奈の言葉にロビンは言葉を返すことが出来ない。
彼女の言うとおり、ロビンはきっとケータリングカーをこの場に呼ぶことに真っ先に賛同するだろう。
「私もいいと思うよ。王城以外の王都でケータリングカーを呼び出すなんて興味深いからね」
キースは紅茶を飲みながら、楽しげに話す。
単純に楽しそうな出来事だからとキースは賛成したのではないかと、仁奈とオスカーは視線を交わすが口にはしない。
ロビンは突然、ケータリングカーの話題になり、おろおろするばかりだ。
「で、ですが……!」
「あ、でももう遅いかも」
「へ? 遅いっていうのは――」
仁奈に言葉の意味を聞こうと思ったロビンだが、突然玄関のほうから妹のクレアが呼ぶ声が響く。
「大変! お兄ちゃん、何かが家の前にあるんだけど!!」
慌ててそちらへと駆けだすロビンの後を、仁奈達も追いかける。
「もしかして、ニーナ嬢! この家の前にケータリングカーを呼び出したのか⁉」
「はい! この通りなら、ギリギリいけるかなってさっきここを通ったときに思ったんです」
そのあとを追うキースが首を傾げるが、それは仁奈がここにケータリングカーを登場させたことへの疑問ではない。
「うーん、ギリギリだとドアが開けないんじゃないかい?」
「あ、そうかもしれません!」
「いや、そうじゃない! こんな街の中ではなくもっと開けた場所に……もういい」
ここで常識を二人に説いても、今更どうしようもないのは明らかである。
生真面目なオスカーは思い切りの良い仁奈と、好奇心のまま動くキースに呆れつつも仕方がないと受け入れる。
とにかく、ザワザワと人々の声が大きくなる玄関へと三人は急ぐのであった。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
読んでくれる皆さんがいらっしゃるので
「更新せねば!」と思えます。




