第33話 姉妹のこれから 2
もう少しでラストです(第一部)
どうぞよろしくお願いいたします。
王城の庭へと走ってきた仁奈と玲奈の目に映るのは、手を振るロビンの姿だ。
ロビンだけではなくその師匠であるルイージ、オスカーやキース、ガブリエルとシンクレア夫人まで仁奈達のことを待っていたようだ。
「皆さん……どうして」
皆が待っていてくれた喜びを押さえつつ、仁奈が問いかける。
「助けを求める人がいたなら、ケータリングカーも現れるかと思ったんです! ……もし、来なくっても今なら呼べるかもしれません!」
ロビンの言葉に集まった人々の視線も仁奈に注がれる。
仁奈は隣の玲奈を振り向いて宣言する。
「私は今、自分に出来ることを頑張りたい……! お姉ちゃんは?」
自分の想いを問われるような妹からの問いかけに、玲奈はキッと玲奈の顔を見つめて言い放つ。
「私だって、自分に出来るなら助けたいわ……!」
玲奈としても治癒の力に自信があるわけではない。
聖女という立場ではあるが、この世界で実際に何かしてきたとは言いきれない。形だけの立場に、玲奈自身が迷いを抱いてきたのだ。
そのため、玲奈の言葉は仁奈よりも弱気なものになってしまう。
そんな姉の気持ちに気付いているのか、いないのか、仁奈はにっこり笑って玲奈の手を取る。
「じゃあ、一緒に願ってくれるかな? 私だけだとちょっと不安だから」
仁奈はそう言って目を閉じる。
幼い頃から見てきた仁奈だが、こうして近くで顔を見たのは久しぶりだ。
玲奈の目から見ても、こちらに来てから仁奈は自分の出来ることを精一杯努めてきた。
能力を活かし、人々に食事を届けてきた――そんな妹の願いが叶うように玲奈も祈るように目を閉じた。
向かい合う姉妹は両手を握り、祈り続ける。
「――これは……驚いたね」
仁奈と玲奈、二人を中心として魔力が高まっていく。
それは魔術師であるロビンやルイージだけではなく、キースやオスカーにも感じられる強い波動だ。
シンクレア夫人は寒さを感じたかのように肌をこする。その足元でガブリエルは嬉しそうにわふっと吠える。
「あ! 上を見てください!」
風が吹き、空から現れたのはローズピンクのケータリングカーだ。
静かに地面に降りたケータリングカーに、皆から歓声が上がる。
「やったね!」
そう言って仁奈が玲奈に抱きつく。玲奈は肩で息をしながら、自分達がしたことに驚いて目を瞬かせる。
「皆で行きましょう!」
仁奈の言葉にロビンが師匠のルイージの手を引いて、ケータリングカーへと向かう。キースも乗り込もうとしたが、動かないシンクレア夫人に話しかける。
「おや、君は行かないのかい?」
「ガブリエルは連れていってもいいわよ。私は残って報告しなくちゃいけないもの」
「わふっ!」
シンクレア夫人の言うとおり、この状況を説明しておく必要があるだろう。
いくら、ケータリングカーの方が状況に対応できるからといって、上への報告を怠れば、いらない混乱が広がってしまうのだ。
魔術師であるロビンとルイージ、そしてオスカーとキース、犬のガブリエルまでもがケータリングカーへと乗り込む。
「……お姉ちゃん?」
シンクレア夫人以外の皆が乗り込んだのだが、玲奈はまだ動かない。
「……私は――」
治癒の能力も小さな傷や打ち身などしか治したことがないのだ。
聖女という立場であるが、その能力を自ら使った自覚のない玲奈には足手まといになるのではという不安が残る。
魔術師が二名いるのだ、自分など不要ではと玲奈の心には迷いが出る。
そんな玲奈の手をぎゅっと握り、引く者がいる――妹の仁奈だ。
「お姉ちゃん、さっき言っていたでしょう? 『助けたい』って!」
強く手を引く仁奈の眼差しに玲奈は思う。
また、妹である仁奈に手を引かれている――いつのまにか大人になった妹。
玲奈は成長と共に過ごしてきた長さを感じるのだった。
*****
ケータリングカーが向かったのは王都近くの森、近隣に住む人々に被害が及んでいないかと仁奈は震えそうになる手をもう片方の手でぎゅっと握る。
黒と灰色の煙が舞い上がり、炎が広がっていくのを見ながら、ケータリングカーは開けた場所にと降り立つ。
突如現れた奇妙な物体に驚いたのだろう。人々はケータリングカーを避けるように森林の方へと下がってしまう。
「異世界ケータリングです! 皆さん、お怪我はありませんか⁉」
仁奈の姿と声に、周囲の人々にはほっとしたような空気が流れる。
ケータリングカーと墜落した飛行船を重ね、恐れていたのだろう。
仁奈に続き、ロビンやオスカー達もケータリングカーから降りてくる。
「重症の者はおりませぬ……! 皆、逃げてまいりました。ですが、この火の周りの速さでは村だけではなく、森も焼けてしまうでしょう……」
その言葉に周囲を見渡したロビンは師匠のルイージを見て頷くと、仁奈に近付いていく。
「僕と師匠が遠くの火から消していきます! そうしないとどんどん火が広がって被害も拡大してしまいます!」
「……治療は?」
周囲には怪我を負った人々が不安そうな表情でしゃがみ込んでいる。
軽症といえど、この状況でそのままというのは恐怖心も強くなってしまうだろう。
そう思った仁奈にロビンが視線を玲奈へと移す。
「――聖女様がいらっしゃいます」
「お姉ちゃんの治癒の力ね……!」
軽症者だけであるならば、玲奈の治癒でも問題ないはずだ。
その間に魔術師であるロビンとルイージが火を止め、被害の拡大を防ぐ。この状況を考えれば、それが現実的であろう。
「私が……この人達を……?」
周囲にしゃがみ込んでいる人々は少なくない。
老人、泣きわめく子どもを宥める父母、ぐっと痛みを堪えているだろう少女――助けたいという気持ちもある玲奈だが、それでも責任と不安が心には押し寄せる。
「お姉ちゃん……」
被害が広がらぬよう、燃え上がる飛行船と森の消火が最優先なのだ。
ロビンとその師匠ルイージにそれを頼む必要がある。
唇をぎゅっと噛み締め、村の人々を見つめた玲奈は仁奈を振り返る。
「――やるわ。私、やってみる」
決意を固めたであろう姉玲奈の表情は強く、しなやかで美しい。
仁奈はそんな姉に頷くと、ロビンは師匠のルイージと共に森の奥へと駆けていく。
まずはキッチンカーで飲み水をと思う仁奈の元にオスカーが近付く。
「あなたの生活魔法は規格外だと聞いている。そこで頼みがあるんだ」
「生活魔法をですか……?」
ケータリングカーで何かをと思っていた仁奈は目を瞬かせるのだった。




