第2話 聖女召喚と巻き込まれた妹 2
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自分達、姉妹は仲が良いほうではないかと仁奈は思う。
母の死後、10歳離れた姉はよく仁奈の面倒を見てくれたものだ。
当時、姉は19歳、仁奈は9歳であった。姉と同い年になった仁奈だが、姉と同じようなことは出来ないと今さらながらに実感する。
働きながら、姉は仁奈の世話を焼き、親代わりとなってくれたのだ。姉であり、保護者である玲奈は仁奈のたった一人の家族でもある。
だが、姉の玲奈と仁奈の仲は最近とある事情で初めてギクシャクしていた。
そんな中、このような事態が起きてしまったのだ。
「で、戻れる方法はないんですか?」
ぼんやりと考え事をしてしまった仁奈は姉の言葉にハッとする。
宰相だと名乗る人物が筆頭魔術師を名乗る老人と共に、別室で姉妹に説明をしてくれている。彼らの後ろには先程の魔術師達も控えている。
装飾も華やかで置かれた家具も重厚感がある部屋なのは、聖女である玲奈への配慮であろう。
彼らの話によればどうやら、この国スラフェスでは異世界転移や転生をする者は少なくないという。
古来からあることだと聞き、他にも同じ状況の人がいるのだとなぜか安心してしまった仁奈だが、姉である玲奈の表情は険しい。
「そうですね……。召喚自体は歴史上、何度かございます。かつても勇者や賢者が異世界より召喚されました。しかし! 聖女は何百年も召喚されておりません! この成功は素晴らしい。歴史に残る偉業です!」
話しているうちに興奮し始めた筆頭魔術師、その隣では宰相も静かに頷いている。
「――で? 戻れる方法はないってことですか?」
先程とほぼ同じ言葉を先程より冷たい響きで玲奈は口にする。
びくりと肩を揺らした筆頭魔術師、その後ろに控えている魔術師達も気まずそうに視線を交わす。
彼らの表情とこの部屋に満ちた空気で答えを姉妹は悟る。
「……戻れた者はおりません。史実にもございませんので確かなことかと」
低い声で宰相が告げると玲奈の顔が青ざめる。
そんな姉の隣で仁奈は冷静に尋ねる。
「あの、聖女のことをもう少し詳しく教えていただけますか? しなければならないことや待遇など、私達にはまったくわからないので」
聖女の顔色が優れないことに、狼狽える魔術師達は仁奈の言葉に縋りつくように話し出す。
「そ、そうですね。まず、そのご説明をせねばなりませんね。聖女様がこの国にいらっしゃるだけで天変地異や不作が起きません。この国スラフェスでは近年、疫病や不作に悩まされておりました。民には不安が広がっております」
筆頭魔術師の言葉に続くように、隣に座る宰相が言葉を続ける。
「そこで王は聖女様を招くことで安寧をとお考えになられたのです。聖女様の存在、そのものがこの国の安寧に繋がることでしょう!」
宰相がそう告げると、魔術師達も顔を見合わせ、頷き合う。
どうやら彼らの言葉や気持ちに嘘はないのだろうと、比較的冷静に思う仁奈の隣で姉の玲奈は怒りに震える。
バン! とテーブルに手を置き、玲奈が立ち上がる。
「私が聖女かどうかなんてどうでもいいわ! 妹は? 仁奈には向こうでの生活があるのよ!」
姉の怒りに仁奈は驚き、目を丸くする。
最近、姉と仁奈がギクシャクしていた理由こそ、仁奈の新しい生活にあった。
仲の良かった姉妹の関係に溝が入ったのは仁奈の決断、その今後を決めている最中に玲奈と仁奈は異世界転生という非現実的な出来事に巻き込まれたのだ。
毅然と意見を口にする姉からは生真面目さと責任感が伝わるが、聖女である玲奈の怒りに皆は狼狽える。
「しかし! 聖女様の妹君、そして異世界よりの来訪者です! 異世界よりの転移・転生者は皆様、優れた能力をお持ちです。多くの方が、この世界に名を残しております! その御力があれば、こちらでの生活にも不便はないことでしょう……!」
戻れないと彼らが言う現状がどこまで事実なのかはわからないと仁奈は思う。
聖女である姉に戻る方法を知らせたくはない――その可能性も否定はできないのだ。
ただ、彼らの青ざめた表情や、動揺する姿からは、仁奈の召喚はまったくもって予想外であったのだろう。そしてその結果、肝心の聖女の怒りを買っている。
巻き込まれている立場ではあるのだが、少々気の毒に感じてしまうのは仁奈の人の好さゆえかもしれない。
「ルイーズ! ルイーズ氏に、妹君の検査を頼みましょう!」
筆頭魔術師の言葉でドア付近にいた小柄の老人がきょとんとした表情を浮かべる。突然の指名に驚いているのだろう。
小首を傾げ、困ったような表情を浮かべたが隣にいる少年に声をかける。
「はぁ。では、ロビン。君も頼むよ」
「はい、先生!」
ロビンと呼ばれた小柄な少年は、くりっとした瞳を輝かせる。
皆、同じ服装の中、彼と筆頭魔術師だけが色合いが異なる。おそらくはその地位によって色や装飾は違うのだろう。
少年は聖女といわれた姉ではなく、筆頭魔術師でもなく、自分を見つめてぺこりと頭を下げた。そんな黒髪で深い緑の瞳をした少年に親しみを覚える仁奈であった。
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