第1話 聖女召喚と巻き込まれた妹
色々な食事をテーマに書けたらいいなと思っています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
その日、王城の魔術師達は悲願の達成に歓喜に沸いた。
遥か昔にいたとされる聖女、異世界よりもたらされた奇跡の存在により、この国スラフェスは災害や不作などと無縁の豊穣の時代を築いたとされる。
その奇跡の存在を自分達の時代に招くことが出来たのだ。当然、召喚に成功した魔術師達は目の前の奇跡を喜び、涙した。
しかし今、その奇跡の存在によって王城の者達は動揺し、右往左往している。
異世界より招いた聖女、レイナの激しい怒りは魔術師達はもちろん王家にも向かう。
「で? この状況をきちんと説明してください」
毅然として告げる聖女レイナの表情は凛々しい。
しかし、そのこっくりとした焦げ茶色の瞳からは激しい怒りが伝わってくる。
緩やかに巻かれた髪は彼女の華やかさを際立たせ、弧を描く眉には意志の強さも感じられた。
そんな彼女をとりなそうと筆頭魔術師である老齢の男が声をかけた。
「お、落ちついてください。聖女様! 私は筆頭魔術師であり――」
「は?」
先程より低い声が聖女の形の良い唇から零れ、筆頭魔術師は肩をびくりと震わせる。
聖女の気迫、それは彼女の持つ魔力に寄るものだろう。
筆頭魔術師を黙らせるほどの魔力を持つ聖女、やはり特別な存在であるのだと魔術師達はもちろん、実はその場にいた宰相も顔をこわばらせた。
筆頭魔術師という言葉に責任を求められる存在であると感じたのだろう。玲奈は再び先程と同じ言葉を口にする。
「……私はただこの状況への説明を求めております」
聖女がもたらす恩恵、それには聖女の心が関係すると言われる。
聖女がいるだけでこの国は平穏で安寧の時代を築けるのだが、一方で聖女の負の力は国を乱すとも言い伝えられていた。
もたらすものが大きければ、その逆もまた大きいものなのだ。
「勝手に知らない場所に連れてこられたんですよ? あなた達、私達姉妹にまず先に何か言うことがあるんじゃないですか⁉」
美しく優秀な姉、橘玲奈だがしっかりしている彼女が怒るとかなり怖い。
偉そうな人達が必死になるのを妹の橘仁奈は少々気の毒に思いつつ、先程から気になっていたことを尋ねる。
「あの……ちょっといいですか?」
「なんでしょう? お嬢さん」
仁奈の言葉に話題を変えるチャンスと考えたのか、魔術師の一人が声をかけた。
他の魔術師達もそう思ったのだろう。皆の視線が仁奈に向く。
「姉が聖女……なのはわかりました」
「おお! 妹君も聖女だとお認めになられた!」
「ちょ……仁奈!?」
わかったというのは認めたという意味ではなく、状況として把握したという意味合いなのだが、その説明を仁奈は省く。
今、もっとも大事なのはそこではないのだ。
「ただ、気になる点が一つあります」
「なんなりと申してください」
聖女の妹である仁奈もまた、丁重に扱うべき存在だと判断したのだろう。
皆が彼女の言葉を待つ。
「姉は聖女として、この国に召喚された――であれば、私はただ巻き込まれただけの人になるのでしょうか?」
仁奈の言葉に魔術師達は黙り込む。
顔を見合わせたり、下を向いたりと表情は様々だが、どの顔も青ざめている。
「私達だけで判断するのは大変難しく……、上の者に相談いたしますので、返答は一旦持ち帰らせていただきたく……」
老齢の筆頭魔術師がそう口にしたが、おそらく彼らにとっても仁奈の存在は想定外であったのだろう。
なるほど、やはり自分はおまけであったかとなぜか納得する仁奈の隣で、姉の玲奈は拳を握りしめている。
「……お姉ちゃん?」
「先程も申し上げました。説明を……今すぐにこの状況、そしてこれからの対応の説明を求めます!」
凛とした口調でそう告げる姉の整った横顔を眺めつつ、仁奈はなにやら大変なことに巻き込まれたらしいなとぼんやり思うのだった。
明日また6時に更新しますね。




