第25話 貝のコキーユと英雄 2
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「ショウ様のお生まれになった故郷の料理、ですか……」
宰相レイモンド・ハリントンに呼び出された筆頭魔術師のケイシーは内心の不満を隠しつつ、尋ねる。
本来ならば、もっと魔術師達は称賛を集めるべきだと彼は信じていた。
悲願であった聖女召喚を見事成功させた魔術師達、しかし、彼らの功績よりも聖女である玲奈の行動に王城の注目は集まっている。
おまけに最近では治癒の真似事すらし始めたので、筆頭魔術師であるケイシー自ら忠告をしたのだ。
「あぁ、聖女様にもご賛同いただいているようだ。妹君であるニーナ嬢に料理のご意見を伺うそうだ」
「……ニーナ嬢にですか」
聖女が注目を集めるのは仕方のないことだ。
そんな彼女を召喚した魔術師達の功績もまた後世に残るだろう。
しかし、聖女の妹の行動は予想外であった。
聖女であるレイナに意識がいくあまり、妹であるニーナは平民出身のルイージに世話を任せてしまったのだ。
「そう悪い案ではないだろう? 聖女様と英雄が聖女様の妹が提案した故郷の味を食する――食事を通し、同郷である聖女様と英雄の関係が良好になるのは我が国にとっても恩恵があるからな」
「まだまだ聖女様は我々を信じていらっしゃらないご様子ですから」
不満げにそう口にするケイシーに宰相レイモンドの顔が歪む。
彼としてもその件は頭が痛い問題なのだ。
かつて、この国に転生・転移した者の多くは召喚という方法で招いたわけではない。自然にこの国に招かれた者達、いわば天の采配であろう。
しかし、聖女召喚は違う。筆頭魔術師ケイシー達の言葉を一部貴族が支持し、王の言葉に逆らう形で行われた結果なのだ。
「こうなることを予測し、王もキース様もご忠告なさっていたはずだ」
「ですが、実際に聖女様を召喚したのは私達です。その恩恵をこの国も民も王すら受けるのです!」
「……言葉を慎むように。私は王家に忠誠を誓った身だ」
宰相レイモンドは別段、魔術師達のためにあの場にいたわけではないのだ。
聖女召喚を行うと魔術師達が勝手に行動したため、暴挙に慌てて駆けつけたというのが実情である。
しかし、聖女の怒りを魔術師達と共に浴びる結果になってしまった。
「ですが、私達同様に聖女様の妹の力を見過ごし、軽んじた。その結果、聖女様の信頼を失ったうえ、妹の能力が判明し、指をくわえて見ているしかないのですよ? 聖女召喚出来ただけ、まだ私達の方が名を残すでしょうね」
魔術師というのは気位が高く、悪く言えば高慢だ。
貴族の血を引く者に魔術に長けた者が多く、魔術師の道を選ぶ。
その希少性からも特権意識が強いのだ。
聖女召喚の成功は、そんな魔術師達の意識を助長させていた。
「……聖女様と妹君の関係は良好だよ。祝宴の料理に妹君の料理が並ぶことを聖女様も喜ばれていたそうだ」
「左様ですか」
こうして宰相レイモンドが筆頭魔術師ケイシーを呼びよせたのは、釘を刺すためだ。聖女召喚の成功によって、魔術師達の特権意識は拍車をかけている。
王権制度のこの国で貴族である魔術師達の地位はあくまで王の配下なのだ。
歴史に名を残す偉業である聖女召喚は、魔術師達の意識に変化を与えようとしていた。
「我々の偉業は聖女召喚に留まることはありません。まぁ、今後それを皆様にお見せすることになるでしょう」
「……何をするつもりだ?」
忠告を兼ねた宰相レイモンドの言葉に、筆頭魔術師ケイシーは不敵な笑みを浮かべる。宰相レイモンドよりも歳を重ねたケイシーは、彼の忠告に耳を貸す気はなさそうだ。
「今にそれをお見せすることになるでしょうな」
「何をするにも許可が必要だということをくれぐれも忘れるな。聖女召喚が成功したからと言って、あのときに王のご命令に逆らったのも事実だぞ」
そんな宰相レイモンドの言葉には無言で一礼をすると筆頭魔術師ケイシーは部屋を後にする。
残された宰相レイモンドは渋い表情を浮かべ、眉間を押さえる。
聖女である玲奈ではなく、その妹である仁奈の能力は予想だにしないものであった。
一方で、稀有なその能力は国に仇なすものではないとその能力を見守るつもりであったのだ。
「魔力に限りなく近いものを魔術師以外が使う。それを彼らがそこまで受け入れられぬとは……」
平民が魔力を扱えることに不快さを持つ魔術師達、当然、ロビンやルイージへの態度にもそれが滲む。
そこに現れたのが聖女の妹仁奈だ。
聖女ではない彼女の予想外の能力は魔術師達の誇りを傷つけたのだろう。
大きな物体を浮遊させ、遠い場所へも移動する。自由自在にとはいかないが、魔術師達に不可能であることを彼女は実現させてしまった。
魔術師達にとって、仁奈の能力は受け入れがたいものなのだ。
助長し続ける魔術師達、しかし彼らの能力は国に必須でもある。
深いため息を溢した宰相レイモンドの皺は、窓からの日で一層濃くなるのだった。
*****
「祝宴は無事に終わったそうだぞ、ニーナ!」
「そ、それで、料理はどれくらい残っていますか?」
「ほとんど残っていないな。足りなかったから追加したくらいだぞ」
厨房で待っていた仁奈に料理長のアダムが笑顔満面で伝えるのは、今夜の祝宴の成功だ。
仁奈が案を出した日本食、それをアダムがこちらの味付けにして調理した料理はどれも好評だった様子で、アダムの顔も紅潮する。
使用人達が次々と下げる皿の様子に仁奈も微笑む。
「ニーナ様、夜も更けましたのでそろそろ……」
「あ、でも片付けがまだ……」
グレタの言葉に仁奈は皿を片付けると言うが、アダムが笑って首を横に振る。
「いやいや、これは俺らの仕事だ。ありがとうな、ニーナ。新しい料理を作るのは新鮮で楽しいもんだな。そうだ、お前さんにもう一つ朗報があるんだ」
「なんですか?」
問い返す仁奈にアダムはにやりと笑う。
どうやら、何か特別な内容らしいと仁奈もアダムが何を言うのかと胸を高鳴らせる。
「実はな、今回の料理をいたく賢者ショウ様がお気に召したようで今度はお前さんが作る日本食を食べてみたいそうなんだ」
「え、アダムさんじゃなく私が作るんですか⁉」
今夜の料理は仁奈が提案したが、実際に調理したのはアダム率いる王城の料理人達だ。仁奈はあくまで、ショウの故郷の味を提案したに過ぎない。
しかし、その味を気に入った賢者ショウは故郷の味を仁奈に作ってほしいと望んだのだ。
「今夜の料理も口に合わなかったわけではないだろうが……やっぱり故郷の味というのは懐かしいものなのだろうな。今度、聖女様とまたお会いするそうでな。そのときの食事を望まれたそうだ。正式にお前さんに話しがいくのは、もう少し先みたいなんだが、こういうのは早く知っておいたほうがいい」
「助かります!」
どんな料理がいいか、それを考える時間はある程度必要なのだ。
それを知る料理長のアダムはこうして先に知らせてくれたのだろう。
そんな彼の配慮に感謝しつつ、どんな料理を作っていいのかとさっそく考え出す仁奈なのだった。




