第13話 家族のオムライス 5
読んでくださり、ありがとうございます。
オムライスの卵も色々好みが違いますよね。
懐かしい香りにジョセフは驚きの眼差しでローズピンクの愛らしい車を見つめる。
炒めた玉ねぎとケチャップの甘い香り、そして子ども頃は苦手だったピーマンのほろ苦い香りはジョセフを幼いあの頃の記憶を思い起こさせる。
いつものように夜遅くなるまで母の帰りを兄弟で待っていた。夕方になる前に洗濯物は取り入れて畳んでおいた。
時計を気にしつつ、不安を隠すようにテレビのボリュームを上げた。
本当は自分だって心細かったが、弟の手前それを隠したのだ。
そんなとき、ガチャリと玄関のドアが開いた。
「ごめんね! 遅くなっちゃって……! 今、ごはん作るからね!」
バタバタと玄関に行った弟が母の横で嬉しそうに笑う。
「遅くなっちゃったし、今日はスペシャルだね」
その言葉に兄弟の表情には笑顔が浮かぶ。
今朝、母が作ったチキンライスが特別な料理に変わるのだ。
二口のコンロの片方でチキンライスを炒めはじめた母、兄弟はスプーンや皿を手際よく用意する。
母がボウルに卵を割り入れ、丁寧にかき混ぜていく。
もう片方のコンロで温めたフライパンにサラダ油を落とし、全体に行き渡させる。
そのフライパンに卵を入れるとじゅわっという音が広がる。
母の後ろでその様子を眺めながら兄弟でわくわくと胸を踊らせたあの時間。それまでの心細さや不安など一気に吹き飛んでしまう。
「ほら、お皿をちょうだい」
母はチキンライスをもう片方の卵が入ったフライパンに形よく並べ、木べらでくるりと包みこんでいく。
手渡した真っ白い皿に、母がひょいっとフライパンからチキンライスを落とせば、くるりと卵で包みこまれたオムライスへと変わる。
「わぁっ! おいしそう!」
「美味しそうじゃなくって美味しいの! 今、勇太の分も作っちゃうからね」
そう言うとまたは母はフライパンにサラダ油を流し、広げていく。
オムライスを食べ終わり、少し休んだら母は早朝からまた仕事がある。
夕食を作り、食べ眠るまでの時間は兄弟にとって特別なのだ。
勇太は自分のオムライスを作る母の背中をじっと見つめ続けるのだった。
「できましたよ!」
突然、かけられた声にジョセフはハッとする。
手招きされて大型車に近づけば、懐かしいあの料理がジョセフを待っていた。
「––どうしてこれが……」
白い皿の上には黄色いオムライスが乗っている。
先程までめずらしい薬草に夢中だった男が、木のテーブルと椅子を大型車の中から担いできた。
「うわっ! キースさん、本当に力仕事向いていますね!」
「そうでしょう? 幼い頃、私は文武両道の神童だったからねぇ」
「わふっ!」
木のテーブルは簡易なものらしく、脚は折りたたみ式だ。それを赤髪の男がテーブルとして使えるようにして、椅子と共に並べる。それにじゃれつくように犬が走る。
少年がカトラリーとともに用意してくれたのは懐かしいケチャップだ。
こちらの世界にもケチャップはあるが、缶か瓶だ。あのチューブ式の懐かしいケチャップにジョセフの口は緩む。
何度か作ってみたのだが、肝心のケチャップの味がこちらのものではしっくりこない。
そのため、ジョセフはあのときのオムライスを食べられずにいたのだ。
「どうそ冷めないうちにお召し上がりください」
にっこりと笑った薄茶の髪の少女の言葉に、ジョセフはスプーンを取り、もう片方の手でオムライスの上にケチャップで波模様を描く。
「い、いただきます……」
そう言うとジョセフはオムライスを口に運ぶ。
ゆっくり咀嚼し、飲み込んだジョセフは戸惑うように呟いた。
「……な、なんで……!」
ジョセフの口から出た言葉にオスカー達はどきりとする。
何か、納得できぬことでもあったのかと思うほど、ジョセフは困惑した表情を浮かべていた。しかし、仁奈は優しい眼差しをジョセフに向けたままだ。
「お味はいかがですか?」
「––同じだ。母さんの作ったオムライスとおんなじなんだ……! ピーマンが入ってるのも鶏むね肉を使うのも全く同じだ……」
オムライスには鶏もも肉を使うことが多い。玉ねぎだけではなく、ピーマンも刻んで入っている。薄焼き卵でくるりと巻いたオムライスがジョセフの懐かしい、そして長年求めていた味なのだ。
再び、ジョセフはスプーンを手に取り、オムライスを食べ始める。
そんな様子を仁奈は微笑みながら見つめた。
「な、なんだ?」
「そんなに美味しそうに食べてくれると作ってよかったなって思って……」
その言葉でジョセフは母のことを思い出す。
弟と自分が食べる姿を母は穏やかに見つめてくれた。
すると、ジョセフはなぜか急いでオムライスを食べていく。
「ゆ、ゆっくり食べても大丈夫ですよ。ね、ニーナさん」
心配そうにロビンに尋ねられ、頷く仁奈だが、ジョセフは急いで食べることをやめない。
「ジョセフさん……」
「俺には、俺には待っている子ども達がいるんだ……! ゆっくり食べてはいられねぇ……! 早く、早く戻ってやんなきゃならねぇんだ」
母が帰るまでの不安な時間、それは今、家で待っているだろう子ども達も同じこと。
特に長女であるシェリルはあのときのジョセフと同じように、弟妹の前では気丈に振る舞っているだろう。
懐かしいオムライスの味は子どもであった時代への懐かしさと同時に、大人になったジョセフにあの頃の母の気持ちを想像させる。
働きに出かけていた母も、息子達を案じ、急いで帰ってきたはずだ。
「絶対に、あの子らの元に帰るんだ……!」
自分自身に言い聞かせるように、ジョセフはそうつぶやくのだった。
『転生令嬢の甘い?異世界スローライフ!』
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