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異世界ケータリング!~姉の聖女召喚に巻き込まれた私の案外充実した日々~  作者: 芽生 1/15『裏庭のドア』3巻・コミックス2巻発売!


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第11話 家族のオムライス 3

いつも読んでくださり、ありがとうございます。




 オスカー達は仁奈の言葉を静かに待つ。

 少し緊張した面持ちの仁奈であったが、その瞳に宿るのは強い意志だ。


「母が亡くなってから10歳離れた姉が私の面倒をみてくれたんです。ちょうど今の私と同じ歳なのに……仕事も私のことも姉は大変だったと思います。自分が同じ歳になって、どれだけ姉が凄いかを実感しました」


 19歳、姉と同じ歳になって仁奈がわかったのはあのときの姉もまた大人というには十分な年齢ではなかったということだ。

 責任感があり、周囲の信頼を集める姉の玲奈だが19歳の彼女が背負うには、重すぎる事態であっただろう。そう仁奈は思うのだ。

 その気付きは仁奈に新たな決意を抱かせるには十分なものだった。


「それで思ったんです。姉を私から自由にしたいって」

「……それをお姉さんである聖女様に相談したの?」


 キースの言葉に仁奈の眉尻が下がる。

 ここ最近、いや異世界に来る直前まで仁奈と玲奈はそのことでぎくしゃくした関係になっていたのだ。


「はい……。家を出て、一人暮らしを始めたいと伝えたら姉が反対して……。私としては姉にこれ以上迷惑をかけたくないんです。姉も大人です。私と一緒に暮らすことで、姉の自由がなくなってしまうんじゃないかなって」


 仁奈の記憶の中には、いつも自分のことを気にかけてくれる姉の姿がある。

 姉である玲奈を慕う一方、そんな姉の負担になっているのが仁奈にとっては心苦しいのだ。


「なるほど。しかし、それに聖女様は反対なさっているんだな。仁奈の考えも一理あるが……女性が一人で暮らすのは危険だろう?」

「私の住んでいた国では、そこまでめずらしいことではないんです。だから、姉が反対するとは思っていなくて……」


 大学に入り、バイトを始めた仁奈は姉の玲奈とも生活する時間帯が異なる。

 それがまた玲奈にとって、負担をかけているようで仁奈にしてみればもどかしい。

 仕事が忙しいにもかかわらず、玲奈は仁奈の生活を案じてくれる。

 仁奈にしてみれば、もっと姉には自分の生活を大事にしてほしいのだ。


「うーん、そうだねぇ。でもこっちに来たんだし、生活も変わっていくだろうね。急ぐ必要はない気もするけれど……ニーナは何を焦っているんだい?」

「焦っている……、どうなんだろう? 私はただ――」


 そのとき、ドアの外から犬の鳴き声がした。

 ロビンが立ち上がり、ドアを開けるとするりと部屋の中に入ってくる。


「あ、あのときの犬だな。今日も飼い主はいないのか?」

「わふっ!」


 ゴールデンレトリーバーのような犬は仁奈に嬉しそうにじゃれつく。

 仁奈もくすりと笑い、その頭を撫でている。

 先程の空気が大型犬の登場でがらりと変わった。


「また王城に入り込んだの? でも、この子誰かが世話をしているんですよね」


 仁奈の言葉にオスカー達は頷く。

 

「しょっちゅう出入りしているのに、それを注意する者がいない――余程上の身分の方が飼われている可能性もあるな」

「へ? このもふもふのんびりした表情の犬がですか?」

「わふん!」


 キースに顔を揉まれる大型犬が誇らしげに胸を張る。

 首には赤い首輪が、金属のプレートには名前が彫られているようだ。

 少し和んだ雰囲気の中、仁奈の表情が変わった。それに気付いたのはロビンだ。


「ニーナ様? どうかなさいましたか?」


 ロビンの言葉に仁奈が呟く。


「また……誰かが呼んでいるの」


 仁奈の表情は先程までとがらりと変わり、深刻そうなものになる。

 それを見たオスカーの表情も引き締まり、キースの眼差しは期待を込めたものへと変わる。

 また仁奈のケータリングを必要としている者がいるのだ。


「広い場所に行きましょう!」


 そう言って駆けだす仁奈をオスカー達も追いかける。

 彼らの後を大型犬も尾を振りながら駆けていくのだった。



*****


 

「ついてねぇなぁ……」


 一人森の中で男はしゃがみこんだままそう呟き、空を見上げる。

 先程まで太陽が見えていた空だがもう薄暗くなってきた。

 助けを求め、何度も声を上げていたのだが、こうなってしまえば出歩く者もいないだろう。

 男の名はジョセフ、出稼ぎに訪れた街で左足を痛めた彼は働けない状況に陥っていた。しかし、それでは持ってきた金さえ減る日々だ。

 そのため、彼は止める周囲の声を振り切り、家族の待つ家に向かおうとしたのだ。


「帰りてぇのに足が……くそっ! こうしちゃいられねぇ……子ども達が待っているんだぞ? しっかりしろ、ジョセフ!」


 自分にそう言い聞かせ、再び立ち上がろうとするジョセフだが、足がもつれてしまう。地面に転がったジョセフに激しい左足の痛みが襲う。

 それでも、ジョセフは歯を食いしばり、また立ち上がろうとする。

 けれど疲れのせいか、足に力が入らないのだ。


「また暗くなってきちまったな……ん?」


 一層暗くなってきた森の中、光る眼がジョセフを見つめている。

 ジョセフの視線に気付いたのだろう。唸り声と共に光る眼が増えていく。


「ちくしょう……! このまま死んだらどうしようもねぇじゃないかよ! なんのために俺は村に子どもを置いてきたんだ? ……情けねぇ!」


 ジョセフには家で待つ3人の子ども達がいるのだ。

 誰も通らない夜道、唸り声と増えていく光る眼。

 ジョセフの目には悔しさと恐怖のせいか、涙が滲んでいく。


「記憶だけあっても仕方ねぇ! もっと特別な力でもあったなら、あいつらにもいい暮らしをさせられたのに……」


 異世界から転移・転生する者はこの世界には少なくはない。

 しかし、優れた能力を持つ者ばかりではないのだ。

 ジョセフもまたその一人、前世の記憶を持って生まれたがそれを大きな形で生かすことは出来ずにいた。

 獣達の存在を近くに感じながら、ジョセフは土で汚れた手で涙を拭う。


「俺は、俺は母さんみたいにはなれなかったんだな……」


 ジョセフの言う母とはこちらの世界での母のことではない。

 祖父母に育てられた彼には母と呼べる存在はいないのだ。

 彼にとっての母はただ一人、前世の記憶の中の女性である。


「ごめん、ごめんな。父さんはお前達のところに戻れそうにない……」


 絶望の中、子ども達への謝罪を呟いたジョセフ。

 そんな彼の気持ちと重なるように、周囲はどんどん暗くなっていくのだった。




 


 

オムライス、卵がどんな状態か。好みがわかれますね。

『裏庭のドア』全3巻&コミックス1巻が電子書籍でお得に!

期間限定なようですので、この機会にぜひ。

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