第10話 家族のオムライス 2
読んでくださり、ありがとうございます。
いいねなども嬉しいです。
「きっと、現状でいうとニーナの力は彼らにとってあまり魅力的ではないんだろうね」
先日、報告した際にキースもオスカーも仁奈の能力に変化があれば、報告するようにと言われている。
逆にいえば、仁奈の能力がいかに優れていても今の状態では彼らにとって利用価値は低いのだ。
「そ、そうなんですか? でも、自由に使えれば悪用も出来ちゃいますよね?」
仁奈からすれば、長距離でも移動でき、食事を運べるケータリングカーは非常に魅力的である。衣食住のうち、二つがその能力で満たせるのだ。
当然、軍事的な利用や政治的に誰かを貶める際に、後方支援を担えると仁奈も恐れていた。
「うーん、その『自由自在に』が出来ないと思うんだよね。さっきも言ったけど、ニーナの力を必要とする者が助けを求める――そして、君にその声が届くんだと私は推測しているんだ。逆に言えば、それ以外では使えないんじゃないかな?」
キースの言うとおり、あのとき仁奈には助けを求める声が聞こえた。その声の主に会うために仁奈は能力を発揮したのだ。
ケータリングカーも相手の元へと迷うことなく、仁奈達を誘ってくれた。
これが仁奈の能力なのだろう。
「何度も練習しても、あのときと同じようにできなかったのはそのせいだったんですね……」
キースの言葉に仁奈は少し安堵する。
能力を自由に出せないのは残念ではあるが、同時に本当に困難な状況にある者にはケータリングカーが出動できるのだ。
「あの! スープにしたのはどうしてですか? それに味が再現できてたんですよね」
「あぁ、それは俺も気になっていた。君が調理に長けていても、出会ったばかりの家庭の味を再現できるのは奇妙だろう」
そう、仁奈はあのとき迷わずスープという料理を選んだ。
大勢で分け合うことができ、食事しやすい最適な料理であったのだが、レオという子どもとその両親は味に驚かせるものだった。
仁奈の作ったスープはレオの母が作るスープとそっくりそのまま同じ。出会ったばかりの仁奈がそんなスープを皆に提供した――家族は衝撃を受け、オスカー達も同様に驚愕したのだ。
「あれは……あの子の顔を見たときに、私を呼んでいたこだとすぐに気が付きました。そしたら、どんな料理を作ればいいのかも頭に浮かんできたんです。キッチンに入ったら、食材もありましたし、手順や塩の塩梅まではっきりとわかる……不思議な感覚なんですよね」
仁奈がケータリングカーのキッチンに入ると冷蔵庫には材料が、鍋や包丁など必要なものは既にそこにある状態だった。
あとは頭の中にある調理を自然に再現するだけであり、仁奈にとってはいつもの食事の準備と何も変わらない状況。
普段、アパートで姉や自分のために料理をするのと同じ感覚である。
「――そうか。君に負担がないのは良い点だ。あれだけの力を使えば、優秀な魔術師でさえ、数日は寝込むだろうからな」
オスカーの言葉通り、強い魔術を使えば必ずその反動が来る。
王城の魔術師は国中から集められた優秀な者達だが、彼らも交代制で任につく。魔力や肉体に余裕をもたせるための安全を考えた措置なのだ。
「それに魔道具のような調理器具がたくさんあるのも凄いですよね! もし、機会があったら僕もぜひ乗せてください。ニーナ様を魔術でお守りしますから」
「う、うん。でもロビン君は大丈夫なの? 魔力をいっぱい使うと反動があるんだよね?」
仁奈の疑問にロビンは胸を張る。
「いえ、僕は人より魔力が多いんです。だから、貴族ではないけど王都に呼ばれたんですよ」
どこか誇らしげに言う姿が微笑ましい。
仁奈はルイージの言葉を思い出す。確かに平民から王城の魔術師に選ばれるのは、
めずらしいとルイージは言っていた。
ルイージもロビンもそれだけ優秀な魔術師なのだろう。
「じゃあ、そのときは一緒に行ってくれると私も安心できるな」
「はい、必ず!」
紅茶に一口飲んだオスカーが仁奈とロビンのやり取りに口元を緩める。
出会ったばかりの二人だが、まるで姉弟のような雰囲気だ。
「だが、そんなに焦る必要もないだろう。聖女様もニーナ嬢もまだこちらに来て日が浅い。まずは環境に慣れるのを優先してはどうだ?」
姉妹は承諾もなしに異世界に連れて来られたのだ。
聖女である玲奈も面会希望者が多いうえ、こちらの作法や聖女としての振る舞いなどを学ぶ時間が必要となっている。
急な環境の変化が起きたのだ。精神的な負担も肉体的な負担も大きいはずだと、オスカーは姉妹を案じていた。
「――それはそうなのですが……姉は聖女なんですよね」
仁奈の言葉にそれまでの和やかな空気が引き締まる。
姉が聖女であることへの戸惑いや葛藤、突如できた姉との違いに仁奈が心を痛めていても当然なのだ。
「ニーナ嬢……」
「いや、でも私は君のほうが興味深い存在だと思うよ」
「キース様! それは失礼な言い方です。ニーナ様、僕はお会いできて嬉しいですし、その御力も素晴らしいと思います!」
三者三様のフォローをするオスカー達だが、仁奈は視線を下げ、何か考えているようだ。数秒迷った仁奈だが、顔を上げて三人の顔を見つめる。
出会って数日だが、彼らにも仁奈の考えを知っておいてもらった方が今後のためにはいいだろう。そう仁奈は考えたのだ。
「――私、私はここに来る前から少し姉と揉めていたんです」
仁奈の言葉に三人はもちろん、静かに控えていたグレタも目を軽く見開いた。
そんな状況で姉妹がこちらの世界に来てしまったとは、誰も想像もしていなかったのだ。なんと言っていいのかと、黙り込む皆に仁奈が慌てて首を振る。
「あ、あの違うんです! そんな深刻なものではなくって……なんというか私、自立したいんです!」
自立といってもそれぞれの形があるだろうが、仁奈は姉妹で暮らしていたのだ。
そのなかで自立を強く望む。つまりは姉妹の間で何か問題が起きたり、生活を続けるのが困難な状況な可能性が高い。
やはり深刻なのではないかとオスカー達は視線を交わす。
「自立……ですか? なぜ……」
オスカーがそんな疑問を口にすると、仁奈は小さくため息をついた。
「私、これ以上姉の邪魔をしたくはないんです……!」
強い意志を感じさせる仁奈の眼差しと言葉に、彼女の覚悟が読み取れる。
だが、これから姉妹はこの世界で過ごしていく可能性が高い。理由もまた聞いておく必要があるだろう。
オスカー達は仁奈が今、どんな想いを抱いているのか耳を傾けるのだった。
*****
今日もシェリルは朝から忙しく過ごしている。
長女である彼女には妹と弟がいるのだが、父ジェイクがいない今、彼女が親代わりなのだ。
洗濯物を干していると手伝ってくれていた弟のリックが尋ねてくる。
「ねぇねぇ、そろそろ父さん帰ってくる頃かな?」
リックには昨日も同じ質問をされているし、妹のカレンにも弟のロンにも同じようなことを聞かれている。シェリルはうんざりした気分で首を振る。
「まだまだ! しっかり稼いで帰ってこなきゃ、家には入れてあげないんだから!」
「姉ちゃん、こわっ!」
軽口を叩くリックだが、シェリルは洗濯かごを突きかえす。
「ほら、洗濯物はまだあるでしょ? 持ってきて。ついでにカレンとロンの様子も見てきてね」
「もうー! 姉ちゃんてば人遣い荒いんだから!」
母が家を出てから数年経つ。その間、父のジェイクは周囲の力を借りながら、シェリル達を育ててくれたのだ。
家族は裕福ではないが、幸福な日々を送っていた。
そんな生活に変化が訪れたのは数か月前、末の弟ロンが流行り病にかかったのだ。ジェイクはその治療に今まで貯蓄していた資金を使った。
そのため、二週間前から出稼ぎに出ているのだ。
「おばさんが来てくれるけど……皆、寂しいのを我慢してるものね」
皆の中に自分自身が含まれていると、シェリルは気付いていないのだろう。
目を伏せると大きく深いため息を溢した。
「……早く帰ってきてよ、父さん」
ため息よりうんと小さなシェリルの本心は、風になびく木々と洗濯物のはためく音にかき消されるのだった。
『裏庭のドア』コミックス2巻の発売が決定しました!
pome村先生が描く『裏庭のドア』
どうぞよろしくお願いいたします。




