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放課後の安楽椅子探偵:鷹と梟の事件簿 非日常は明星高校ミステリー研究会にお任せを!  作者: 佐倉美羽
謎はすべて明かされる

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第8話 犯人は現場に戻る

 16:25――。

 芹澤ミヤコは足早に実習棟を抜け、胸の高鳴りを抑えつつ教室棟へ向かっていた。

 犯人は現場に戻る――ミステリードラマのセオリー通りだ。それにしても、犯人はどうやって扉に細工を?鍵そのもの?ピッキング?……いや、違う。そんな暇はないはずだ。階段を一段飛ばしで下りて、廊下を進み2-B教室の前まで来た。教室にはまだクラスメイトが3人残っており、思い思いに読書や勉強をしている。朝倉アキラの姿は無い。


「あれ?ミヤコじゃん。また捜査そうさ?」


「うん。ごめんね、邪魔じゃましちゃって」


「全然いいよー。あんたも好きねぇ」


 ミヤコはヒラヒラと手を振り、まっすぐベランダに向かう。引き戸を開けて、のぞき込むように見てみる。鉄柵てっさくと柱。柱の後ろに上手く身をかがめば外からも見えなそうだ。


 「おや?」ミヤコは目を凝らすと、ベランダの一点に微かな汚れを発見。青と黄色いり後。足跡を消そうとした?犯人はここに潜伏せんぷくしてたんだ。証拠として撮っとこ。

 ミヤコがスマホを取り出したその時、鐘が鳴った。部活動以外の生徒の帰宅を告げる鐘だ。スマホの時刻は16:30と表示されていた。


「なんだ。まだ残っていたのか。もう閉めるから出てくれ」


「へーい」


 時間ぴったりに日高コウ委員長の声が聞こえた。ミヤコはゆっくりと身をかがめながら引き戸の方に戻り、身を潜める。もしかしたら、日高くんが犯人かもしれないし。


 引き戸の隙間すきまから中の様子を伺う。グラウンドから野球部の声が聞こえる中で、クラスメイト達が荷物をまとめて出ていくのが見えた。日高くんの姿は見えない。

 ミヤコは犯人の決定的瞬間を見逃すまいと、息を殺して教室の様子を見ていたが……。


「……芹澤さん?そんなところでなにをしているんだ?」と、窓の施錠をしていた日高委員長と目があった。


「あー……張り込み調査?」


「……なるほど?」


 二人の間に沈黙が流れる。夏のきざしを感じるはずの夕風が、今日は少し肌寒かった。


 ◇◇◇


「ごめん!日高くん、事情は後で話すから!私のことは見なかったことにして!」


「ダメだ。校則違反こうそくいはん。ミス研の部室に戻るか、帰宅しろ」


 ミヤコはベランダの扉前で身をかがめながら手を合わせてお願いしてみたが、日高コウはこれでもかと眉間みけんしわを寄せながら、こちらを見下ろしていた。もう時間がない。今の状況を犯人に見られたらおしまいだ。何とか交渉こうしょうしなくては。


「今朝の事件!解決するかどうかは日高くんの協力にかかってるの!」


「……僕の?」日高委員長はメガネをクイッと上げた。依然としてこちら見下ろす目に、興味が宿った気配をミヤコは感じた。


「いや、しかし……。……やっぱりダメだ。」


「犯人はここに戻ってくる!それで日高くんがしっかり鍵を管理していたことも立証できるんだよ!」


「……戻ってくる?本当か?」日高委員長の目が揺れ動くのをミヤコは見逃さなかった。


「そう!10分だけ!私を教室に閉じ込めて!それだけでいいから!」


 再び二人の間に沈黙が流れる。ミヤコは頭を下げて手を合わせ続けた。そして――。


「……わかった。10分だけだぞ」


「ありがとうっ!日高くん!」


 日高委員長は目を瞑り、大きく息を吐いた。よし!これで、張り込みが出来る。後は、証拠隠滅しょうこいんめつをしに来た犯人を捕まえるだけだ。

 何事もなかったようにベランダ以外の窓や扉を施錠して回る日高委員長の背中をながめながら、ミヤコはひたすら息を殺していた。金属バットでボールを引っ叩く小気味いい音が良く聞こえた。


 ここからでは見えなかったが、日高委員長は最後の扉に施錠をして出て行ったようだ。これで、教室は密室。外からだと誰もいないように見えるだろう。スマホを確認すると現在時刻は16:34。後はひたすら待つだけだ。


 ……。

 一分がやたら長い。西日がじりじりとうなじを焼く。お腹が鳴った。アンパン持ってくればよかった。


 ――ガタっ!


「……!」


 ミヤコは息を呑んだ。心臓がやけにうるさい。扉が強く開かれる音。誰かが教室に入ってきた。後方へ進み、椅子を扉の前に置いて上に登っている。

 小さく開けられた引き戸の隙間から見えるのは特徴的な青いインナーカラーのウルフカット。犯人、朝倉アキラの姿がそこにあった。


「っち……なんだよ、わかってねぇじゃん」


 教室の高窓。アキラは背伸びをしながら、レールから何かを取り出していた。

 ――証拠だ。

 ……っ。

 今しかない!

 行け、私っ!!

 ベランダの扉を開け放つ。走り出したミヤコは、アキラの腕をがしっと掴んだ。


「か、確保ぉ!!」


「おわっ!?」


 驚愕きょうがくに目を見開くアキラ。その手には――二本の棒。ご丁寧に扉の枠と同じ色に塗装とうそうされた、それは......


「突っ張り棒……?」


「......はぁぁ。そういうことかよ、やられた......」


 朝倉アキラは椅子の背もたれに腰を下ろすように座り、乱暴に頭を搔きむしった。うなだれているアキラを見て、ハッと我に返った芹澤ミヤコは渾身のドヤ顔をしながら――


「そして、朝倉アキラさん!犯人はあなたですっ!」


「はいはい……。あーしがやりました……」


 夕暮れに沈む教室には二人の生徒。窓の格子が照らす影は、まるで犯人を追い詰めるおりのようだった。芹澤ミヤコは心地の良い高揚感と達成感に打ち震えながら、その余韻よいんに身を任せていた。


 つづく

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