第5話 藤村ソウイチの思惑
「失礼します!藤村先生はいらっしゃいますか!?」
明星高校の職員室前。芹澤ミヤコは強めのノックと同時に勢いよく扉を開け放ち、顔をのぞかせた。昼休み中で閑散とした職員室。見回すと、眉間に深い皺を寄せた男性教諭、藤村先生と目があった。 ミヤコは笑顔を浮かべて、メモで埋め尽くされ黒々としたスマートフォンをヒラヒラと振る。たちどころに、先生は人差し指を立ててシーっとジェスチャーすると手招きをした。書類の山をかき分けながらミヤコは思う。先生はなんだかんだ言って、いつも協力的だ。哲学教師だけあって、謎に関心があるのだろう。まぁ、自分は答えのあいまいな謎は好きではないのだが。
「芹澤さん、一応聞くけど、授業の質問というわけじゃないよな?」
「はい!もちろんです!」と、満面の笑みを浮かべてミヤコは要件を伝える。「今日あった事件について、お聞きしたいことがありまして!」
「ああ、やっぱりそのことか……」 藤村先生は軽くため息をついた。そして、山積みにされた昨日の小テストを端に寄せて、隣の机の席に座るように手で指し示した。
「あんなイタズラ、なんでやったかさっぱりわからん」藤村先生は机に肩肘をついて遠い目をした。
「あの絵、なんて言ったかな、ファン・ゴッホの……」
「星月夜ですね」
「そう、星月夜だ。思い出した。朝に委員長が血相を変えて職員室に飛び込んで来た時は何事かと思ったぞ」と、ブラックコーヒーに口をつけた。
「昨日の放課後は何もなかったのに、今朝いきなり黒板アートが現れたら、誰だって驚きますよ」
「それもそうだな。だけど――」藤村先生は眉間にさらに深い皺を寄せて言葉を切った。
「教室には鍵が掛けられていた。中に入れなかったはずだ。もしかしたら誰かが鍵を盗んだのかもしれん」深く息をつくように言い、頭を抱えた。
ミヤコはメモを見るふりをしながら、藤村先生の靴のチョークの付着具合をそっと確認した。黒いシンプルな革靴に、まばらに降りかかった白いチョークの粉。いつも黒いスーツを着ている藤村先生は授業の時もハンドカバーをしていて、少し潔癖な人だと思っていたが、靴は管轄外なのかもしれない。
「でも、先生。教室には、本当に鍵はかけられていたのでしょうか?」
「ん?どういうことだ?」
「いえ、鍵を掛け忘れていたってことは無いのかなぁ、と思いまして」ミヤコはワザとらしく付け加える。「それなら、鍵が盗まれたってこともなくなりますし」
「あー、そうだといいんだけど、昨日は俺が施錠確認したんだ」藤村先生はバツが悪そうな顔をしながら腕を組む。
「閉まってたよ。扉をこう、ガタガタって揺らしてみたけど、開かなかったし」
先生は昨日20:00頃、懐中電灯片手に校舎中の扉の施錠をして回り、2-B教室も確認したのだという。当然、その時には黒板アートは無く、暗幕カーテンもかけられていなかったそうだ。それから、翌朝7:30分頃に日高コウが鍵を取りに来た。そのころには教室に星月夜が描かれていて、今に至る。
「一応、お聞きしますけど、先生がやった......なんてことはないですよね?」
「あー、そう来たか」藤村先生は顎に手を当ててニヤリと笑い、挑発するように「ならなんで、俺は黒板周りを掃除しなかったんだろうな?」と言い放った。
「ですよねー」
それは、ミヤコも気になっていたことだ。あれだけの絵。相当思い入れがあったに違いない。なのに、黒板の淵や床がチョークの粉まみれであったというのはどうにも違和感がある。掃除する時間がなかった?なら、やはり、犯行時間は朝ということだろうか。
「ま、俺が知ってることはこんなもんだ。他に何か聞きたいことはあるか?」
「いえ!教えていただき、ありがとうございました!」
「あいよ。たまには授業のことも聞きに来い」
それだけ言うと、藤村先生は小テストの山から1枚取り出して、赤ペンを走らせ始めた。ミヤコはそんな先生に礼をして、小走りで書類の山を通り抜けて、職員室を後にした。
◇◇◇
『ミス研グループチャット(2)』
【ミヤコ】先生から話聞いたよ~。リカちゃん。見てみて~(13:20)
【リカ】見ました。面白い先生ですね(13:20)
【ミヤコ】どう?なにかわかりそう?(13:20)
【リカ】はい。謎はすべて解き明かされました(13:21)
【ミヤコ】え、えええええええ!?(13:21)
【リカ】真相は放課後、部室でお話します(13:22)
【ミヤコ】分かった!楽しみにしてる!(13:23)
【リカ】なるべく早く来てくださいね(13:23)
【ミヤコ】('◇')ゞ(*'ω'*)
【リカ】(*'ω'*)
つづく




