第3話 日高コウの視点
一限目が終わり休み時間が来た。黒板はすっかり相加平均だの相乗平均だのというわけのわからない言葉と数字で埋め尽くされていた。証拠は消えてしまったが、芹澤ミヤコは諦めない。まずは、怪しいと思う人に話を聞く。頼りになる相棒のためにも、今は事情聴取だ。ようやく落ち着きを取り戻してきた教室で、ミヤコは第一発見者である日高コウ委員長の机にズンズンと歩んでいった。
「日高くぅん。ちょっとお話が……」
「......行っておくが、僕じゃないぞ。アリバイもある」日高委員長はこれでもかと鼻に皺を寄せた。
日高委員長は教室の施錠を任されており、唯一怪しまれずに鍵へアクセスできる人物だ。昨日はいつも通り、16:30に教室を施錠しており、そのまま演劇部へと向かっていった。練習後に下校し、そのまま予備校に向かったのだという。翌日、暗幕カーテンに包まれている教室を見て不審に思い、教室を開けたのが7:30頃。黒板には星月夜が描かれていたのだという。
「昨日はずっと演劇部にいたし、その後も部員と電車に乗って帰った。だから、僕に描く暇はない。それに、あんな絵を僕には描けない。そんなことをする動機もない。つまり、僕は犯人ではないということさ」と流れるように言った。
黒板に描かれた星月夜を見て驚いた日高コウは足早に職員室に向かい、担任の藤村先生に報告したのだという。藤村先生に話を聞いて証言が一致したなら、彼は限りなく白だ。うーむ。マッチポンプを疑ったが、彼の話ぶりに不審な点は見当たらない。チラリと日高委員長の上履きを確認したが、おろしたてのように真っ白であった。
「そっかぁ……。ごめんね。疑っちゃって。じゃあ、昨日から何か変わったことはなかった?」
「あ、そういえば……」日高委員長は人差し指をピンと立てて、クルクル回しながら“朝倉アキラ”について話し出した。
「朝倉さん、昨日、僕が職員室で鍵を返そうとした時に、忘れ物をしたって鍵を借りて行ったんだよね」
「え、じゃあ最後に鍵に触ったのは朝倉さん?」
「そういうことになるね。でも、彼女は犯人じゃないと思うよ。だって――」日高委員長は顎に手を当てて、考えこむように言った。
「すぐに鍵を返しに来たし。5分くらいかな。鍵を返しに来る朝倉さん、職員室で見たよ」
「......そうなんだ!教えてくれてありがとう!日高くん!」
ミヤコはニッコリと微笑むと踵を返して、自席に戻っていった。そして、スマートフォンを凝視しながら、高速で日高コウの証言をお気に入りのメモアプリにまとめてリカに送信した。朝倉アキラさんね。名探偵の嗅覚にビンビン来た!次の休み時間は彼女に突撃しよう!
ほどなくして、2限目を告げるチャイムが鳴った。
◇◇◇
『ミス研グループチャット(2)』
【ミヤコ】リカ!第一発見者から話聞いたよ!詳しくは添付で!(9:45)
【リカ】見ました。日高コウさんは被害者に近いですね。次はどなたに話を伺いますか?(9:46)
【ミヤコ】やっぱりそう思う?次は朝倉アキラさんかな。彼女、怪しくない?(9:46)
【リカ】先入観を持ってはいけませんよ、先輩(9:46)
【ミヤコ】分かってるって!任せて任せて!(9:46)
【リカ】犯行時間は16:30~7:30。その間に教室にいた者が犯人です(9:47)
【ミヤコ】つまり、放課後か早朝ってことね。OK!(9:47)
【リカ】あと、密室の謎は破られたという前提で情報を集めてください(9:47)
【ミヤコ】え、ええええええ!どいうこと!?(9:48)
【リカ】詳細は部室で話します。頼みましたよ。先輩(9:48)
【ミヤコ】また焦らされた……!でもわかった!任せてよ!(9:48)
【リカ】了解(9:48)
【ミヤコ】(^^♪(既読)
つづく




