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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
最終章

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第74話 魔王の力

 


 魔神の力を解放した状態で、魔王化をする事。

 よく考えてみれば試していなかったのだ。


 だが、当然のことだ。

 魔王化は魔神の力を封印した後に、代用として使いだしたものだ。今まで使えてなくて当然である。


 この『魔神魔王化(デモンデビル)』とでも言うべき力は、何度目かの驚きと衝撃をセラフィエルに与えたようだ。


 ここぞという時に出すべき力としてはいささか練度が足りていないが、セラフィエルと同じ領域にようやく辿り着けたと言うべきか。


 ここは一つ、上から目線で説教してやろう。

 ()()の先輩としての説教だ。



「お前、泣いたことあるか?」



「……無い」



 私はセラフィエルに問う。

 答えは当然、NOだ。


「お前、俯いたことあるか?」



「……」



 ある訳ないだろうな。



「弱音、吐いた事あるか?」



「それが何だと言うんだ」



 分からないよな。

 カミサマ育ちじゃ、分からない事ばかりだろう。


 私でも、経験したことの無いことばかりだ。

 身をもって体験してみないと分からないことなんか、山ほどあるんだ。


「私は泣いた事も、俯いた事も、弱音を吐いた事もある」


「だから、それが何だ」


 勉強不足だな。

 明確なお前の弱点。


 魔神の影響によって感情がブレてしまったが、最初に抱いた感想は間違ってない。

 突くなら、()()だ。



「それが人間だからだよ。お前は人間を舐め過ぎだ」


「…………」


 思い当たる節があるのか、黙りこくってこちらを睨む。

 いや、はは。怖い怖い。


 やはりここまでの存在に睨まれるとそれだけで萎縮してしまう気分になって仕方がない。

 蛇に睨まれた蛙と言ったら陳腐な表現だが、まさにその状況のようだと言えよう。


「それにな、私は負けた事があるんだ」


「……」


 それが何だと言わんばかりに顔を顰めるセラフィエル。


「まずはそこからお勉強しないとな、お嬢ちゃん」


「ッ!!」


 私は神力の出力を上げる。

 あぁ、また酔いしれてしまいそうだ。 




 ◇◇




 最初はよくいる女だと思った。

 多少力を付けた程度の人間の女の個体だ。


 複数の人間を風の魔術で追い払ったのを見て目を剥いて驚いていた程度の人間だ。

 少なくとも、魔術に精通している人間ではない。


 だが妙に惹かれて仕方ない。

 目が離せない。イザベラの声が魅力的に聞こえて仕方がない。


 魅了の魔術を使っているのに、魅了されているのはまるで私の方だ。


 その思いは、すぐに確信に変わった。



 魔神サタエルの魔力ッ!!


 何故こんな所で!!


 今度は私の目が剥かれてしまった。これではイザベラを笑えない。


 魔神の力を扱える人間は史上二人目だ。

 なるほど、あの魔王を容易く殺してみせたのはこの力のおかげか。



 だが、()()()



 我が父サタエルとは似ても似つかぬほど微弱な神力だ。この程度の出力では私に傷はつけられない。



 借り物の力で踊るだけの、実体の無い亡霊である。



 所詮、その程度の存在でしかない。

 私の()()に応えられる程の力を有してはいない。


「……口を割らせるのは、古来より決まっているんだったな?()()()()()



 ジョークが好きなようだったから意趣返しに言ってみたが、大変な怒りを買ってしまったようだ。

 やはり私はジョークが下手だ。

 この口下手に冗談を喋らせてはいけないと自分でも強く思うキッカケになったであろう出来事なのは言うまでもない。


 その後は戦いたがっているイザベラに付き合って槍を十数合打ち合ったが、またも怒らせるようなことを口走ってしまったらしい。


「……本気を出していないという意味であれば、その通りだ」


 私の本気というのは、殲滅型の聖魔法の複数発動だ。

 世界をリセットする際に用いる破滅の()()


 魔力という安易な奇跡に頼った、意志のない無意味な暴力だ。

 私はあれをみだりに使用しない。使う度にこの世界に魔力が拡散し、私の夢から遠ざかるからだ。


 だが……。


黒雷(こくらい)



 これはダメだ。

 この力はいけない。


 私は数千年振りに聖魔法を唱える。



聖龍の息吹(ドラゴノスブロア)



 聖龍による本気のブレスだ。

 あの黒い稲妻に対して有効ではあるが、あまり使用できないほど強力だ。



 また、使わされた。

 それに、あの時のあの男と同じ魔術。


 魔術的な体質が似通っているのか?



 だが、それはいい。

 問題は、つい聖魔法を唱えてしまった事だ。


 私はイザベラという個体を殺したいわけでは無いため、聖魔法を空に向かって放った。

 イザベラはこの魔法合戦においては身体的なダメージは無いだろう。

 だが、いくら私でも膨大な神力を用いる聖魔法は連発できない。


 使えてもあと一度か二度。

 直近で魔王を創造してしまっており、神力の底が尽きかけている。



 ……負ける?

 私が?人間に? 



 有り、得ない。

 それは聖女が殺される事よりも有り得ない未来だ。


 いや、大丈夫。

 イザベラは私に対しての有効打を持ち合わせていない。

 黒雷をこれまで使用しなかったのも、魔力的な限界が近いからだろう。

 それに、魔神サタエルの力をあそこまで引き出してしまっているんだ。精神の汚濁は取り返しのつかない所まで進んでいると見ていいだろう。


 余裕が無いのはあちらだ。


「絶望したか?」


 私は余裕が無い事を隠すようにそう言い放った。

 初の舌戦である。


 不慣れながらも、相手の心を折る事が出来たと思っていた。

 ようやくイザベラという存在に触れる機会だと、そう思った。



 よもや、あんな力を手にするとは露ほどにも思っていなかった。




魔神魔王化(デモンデビル)



 そう呼んでいたイザベラは、人間としての形を保っているのが信じられないほどに膨れ上がった神力を身に纏っている。



 勿論、先程までとは似ても似つかない見た目ではある。


 肌は赤く染まり、赤黒い稲妻のようなヒビ割れが全身に渡っている。

 そのひび割れから漏れ出るように神力が溢れ出ており、この世の存在とは一線を画す強さを身につけたと言っていいだろう。


 一際目立つのはその大きな角だ。

 赤黒く染まった血のような肌とは明暗のように別れている白く、黒い大きな角が太い枝のように頭から生えている。

 無論、見た目だけではない。あの角で全身を駆け巡っている神力をコントロールせしめている。



 これを殺さずに確保するのは不可能。

 私の命を最優先に、戦闘を継続する必要がある。



 私は一切の躊躇を捨てて、混沌と化したイザベラへ斬りかかった。



 

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