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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
王宮動乱編
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第69話 殺意

 


「オルフェン殿、お聞かせ願いたい」


「あの姫は何者なのですか?」


 聖女から追い出されるように締め出された我々は、そのまま私への質問責めとなった。

 私自身、大した事は知らない。あのお転婆に会ってから少ししか経っていないんだ。


「……分かりかねます。聖女様自らが二人きりにしてほしいと言うのであれば、それに従うのが騎士でしょう」


 私はそう誤魔化す。


「違う、聖女様をお守りするのが騎士の役目だ」


 唾を吐き捨てるように言い放つ聖堂騎士。

 その力も相まって迫力は一人前どころか五人前くらいのものだ。


 まあ、私もそう思うよ。

 騎士の役目の一つは聖女をお守りする事だろう。


「あはは、そこまでしておきましょうよ。オルフェン殿も困っておられますよ」


 先程まで共に行動していたソルディアが助け舟をくれた。いつもは輪に入らず、外から傍観しているような人物だが……。

 あのお転婆姫に何か影響されたか?


「しかしソルディア卿、聖女様が……」


「君達にあの人をどうこうできないと思うよ」


 その一言で、応接間から離れた場にいた騎士達が皆反応する。

 そんなわけが無い、たかが姫だ、愚弄する気か。

 そんな言葉が投げかけられる。


 まあ、仮にも聖堂騎士だ。そこらの騎士とは一線を画す実力なのは間違いない。騎士としてのプライドも底無しだろう。


 だが、私はソルディア卿に賛成だ。


「はぁ。観察しないからそう思うんだよ」


 珍しくため息をつくソルディア。

 周囲の騎士は困惑顔だ。


「あの姫様の動き、魔力、殺気、どれも一級品以上だった。あの時、あの一瞬、お姫様が魔力を開放した時に聖女様を守れる自信がある人はいたのかい?」


 そう言われると弱いな。

 私は迎撃態勢に入る前に説得をしようとしてしまった。

 中途半端に彼女を知ってしまったから。


 理性的で、冷静で、王族らしく傲慢で、それでいて不器用な優しさを見せてくれ、かと思えば老獪な手を用いる娘。

 聖女様の前で一度見せたあの魔力、背筋が凍る思いをしたが、それ以上に彼女の心配をしてしまった。


 私は、変わってしまったのだろうか。

 そう思ったのも束の間、意識を切り替えて言い放つ。


「……我々の役割は、聖女様の守護だ。この扉を開けたその時から任務は再度継続。ここでお喋りをするのは任務の妨害にあたる。そのつもりが無ければ無駄口は閉じてもらおう」


 私は聖騎士団長としての権限をもってそう言った。

 いかな聖堂騎士とはいえ、彼らは実力のみを評価されただけだ。私のように様々な権力や権限を与えられている訳ではない。 


「異論はあるか?」


 騎士共は黙る。

 そうだ。それでいい。


 余計な詮索は騎士には不要。

 自分で言っていたではないか。任務は聖女様の守護だとな。


 あのお転婆姫の目的を探るのはお前達の仕事じゃない。



 それは、第二騎士団長である私の仕事だ。



「ままならんな……」



 この国に訪れた一筋の希望を潰すのは、私なのかもしれん。




 ◇◇




「貴女様に殺されたいのですよ」


 浮ついた声のまま、上気した頬でそんな阿呆な事を言っているのは聖女だ。


 短い邂逅ながら、また訳の分からないことを言い出した程度にしか思えなくなってきた。


「なぜ私に殺されようとする?」


 聖女は笑顔を崩さない。

 狂った微笑みだ。


 誰によって狂わされたのか。


「それはもちろん、セラフィエルをこの地に降臨させるためですよ」


 降臨?

 儀式のつもりか。


「お前が死んでセラフィエルがこの地に降り立つ確証はあるのか?」


 もしそうなら、コイツはセラフィエル出現の起爆装置だ。自在にセラフィエルの出現を操る事のできる、とても重要なボタン。

 聖女などではなく、ルミナス・キルスイッチとでも呼んでやろうか。


「残念ながら、確証と呼べる程のものはありません……。誰もセラフィエルには会ったことは無いし、私の役割も不明確ですからね。ただし、何らかの動きは見せるでしょう」


 理性的なように見える聖女ルミナス。

 彼女の中では死ぬことでセラフィエルが動くと確信があるようだ。


 私には分からない何かがあるのだろうか。


 仮にセラフィエルが本当に動くとして、現世に降り立つのか?

 今の私であれば、セラフィエルと対等に渡り合えるかもしれない。ただ、前世で召喚されていたような銀の軍勢が共に相手となると少々厳しいだろう。


 私は持久戦には弱い。


「そうか……」


 私は目を閉じ、没入する。


 これは、聖女との一騎打ちだ。

 冗談ではなく、世界の命運を分けるかもしれない一手。その一手を繰り出せるかどうか。


 そして、聖女はこの為だけに神託を作り出した。それは破滅の決め手。

 打つべきではなかった。打たせるべきではなかった。

 それが私に利するとしても……やはり私は許せないのだろうな。


 お前の罪を。


「……あの神託、嘘だと先程明言したな?」


「……?はい」


 聖女は当然だとばかりに頭を揺らす。


 そう、あの神託は嘘だ。

 すなわち……。


「今現在も罪無き信徒が殺されているかもしれない。お前の嘘や、それによって踊っている聖堂騎士の手によってな」


 聖女は美しい顔のまま微笑んでいる。


 あの神託の内容。

 すなわち、黒死病にかかった者は殺せという事だ。


 それに、聖女に信仰心などありはしない。

 信仰心が無い人間が、信仰の為に罪の無い信徒を虐殺する。


「人間の行いとは思えんな」


 そう言うと、聖女は静かに笑い始めた。


「ふふ……罪の無い信徒?彼らは神託によって救済の埒外であると決められましたよ。存在そのものが罪であるという事です」


 ……?

 こいつは何を言っている。


「だから、その神託が嘘な訳だろう」


「ええ、もちろん」


 やはり、ふざけているとしか思えん。



「…………」


「…………ッ!!」





 殺すか。 



 

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