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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
聖王国編

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第66話 邂逅

 



 その端正な顔。



 その絹のような髪。



 そして、その神力。



 見間違える事は無い。



「ッッッ!!!!!!」


 私は魔力を全開放した。


「なっ」


「ぐっ」


「おわわっ」



 周囲にいた聖騎士が、私の魔力に呻く。


 この女、ふざけているのか。


「貴様……何をしている」


「何、というと……?」


 聖女……いや、セラフィエルは首をかしげて疑問を投げかけた。


「馬鹿にしているのか?」



「殿下ッ!」


 オルフェンが吠える。


 問答をしようとした私を、周りにいた男が囲った。

 聖騎士達はいつの間にか全身に鎧を身に纏い、各々の武器を私の首に添える。


「何をしている獅子姫!」


「その魔力、殺意が無かったとは言わせんぞ」


「何だ、何が起きている!」


 パニックだ。

 この狭い応接間で全員が動揺し、正解が分からずに武器を抜いている。



 聖女以外は。



「お黙りなさい」



 その凛とした鈴のような声はとてもよく響いた。


「各位、武器を収めなさい。イザベラ様は私に対して害意がある訳ではありません」


 あ?

 私は害意ありまくりだ。


 いざとなれば殺す。

 その為に魔王の魔力を全て開放した。


 この場にいる聖騎士ごと、まとめて地獄へ送ってやってもいいんだ。


「しかし聖女様!この女は……」


「黙りなさいと、そう言ったのが聞こえないのですか?」


「ッ!」


 どういうつもりだ、この女。

 そう思って再度聖女を睨む。



 ……いや待て。


 ()()だ。



 この聖女は、金髪だ。


 セラフィエルじゃ、ない……?



「全員、武器を収めなさい」



 聖女のその言葉に、訝しげにしながらも聖騎士は武器を私の首から離す。


 しかし、流石の練度だ。この中の数人は聖堂騎士なのだろう

 本気で戦っていたら、深手を負っていたかもしれない。


 死にはしないが。



「……すまない。随分と()()に似ていてな。思わずお前を殺してしまうところだった」


「ふふふ。知人、ですか。ええ、分かっていますよ。貴女には、そう見えるでしょうね」


 なんだ?

 コイツは何を知っている。

 あの神託を齎した最悪の人間とは思えん穏やかさだ。


 まるで、予期している死を前にした人間のようだ。



 ……この女、死ぬつもりか?



「この部屋にいる方、全員出て行ってもらってもよろしいでしょうか?」


「聖女様、なりません」


 聖騎士が慌てたように口を挟むが……。


「……」


 聖女は、無言でその聖騎士を見つめるだけ。

 何も言わないし、何も訴えない。


 ただただその透き通った瞳で、聖騎士の目を飲み込むかのように見つめる。


 そうしているだけで、その聖騎士は冷や汗をかき、顔を青くする。 


「も、申し訳ございません……」


 その騎士を筆頭に、全員がぞろぞろと部屋を出ていった。

 オルフェンが心配そうに私を見ていたが……。


 そんな顔をするなよ、心配性め。

 お前は聖騎士団長だろうが。


 全ての聖騎士が部屋を出た事を確認した聖女は、私に近づいてきた。


「……」


「?」


 まだ、何も言わない。


 本当になんだこいつは……。


 と思ったその時。

 急に私の両手を掴むと、急に言葉を放つ。




「結婚してください」




「………………」




 聖女は頬を赤面させながら、妖艶にそう言った。




 

 ◇◇





 聖女である私は、焦がれている。

 深く、深く。


 まるで私は、無限に続く暗い洞窟を彷徨い歩く亡霊のようで。

 その先に光があるなんて思いもしなかった。


 でも私は、少しずつ。

 少しずつ歩き続けたんだ。


 そこで見つけた光は、偶然だ。

 たまたま見つけた灯り。


 でもその光は、私の洞窟全てを照らした。


 私は、それを自ら手繰り寄せたんだ。


 私の言葉で。



 神託なんて真っ赤な嘘。

 セラフィエル様はいつも抽象的だ。

 正解を教えてくれない。


 正解なんて無いのかもしれないけれど。

 でも、これだけははっきり正解だと分かる。


 イザベラ・ルシアン・アストリア。


 この方を聖王国に招き入れた事だけは、正解だ。

 私はその為だけに数万人を虐殺する事を許容した。


 たった一人の人間をおびき寄せる為に、罪のない臣民を殺し尽くした。


 私は許されない。

 聖女と呼ばれるのは、今だけ。


 イザベラ様には必ず斬り捨てられる。


 決死の自殺。


 でも、そうする事で私は完成する。


 私は、貴女に殺される為に産まれたんだ。

 そうでなければだめだ。


 そうでなければおかしい。


「聖女様、準備はいかがですか」


 もうイザベラ様はこちらに来ているらしい。

 早く会いたい。


 会わなければならない。



 そして、言わなければならない。


 私を殺して、と。


 私の策は、私が死ぬ事で完成する。

 この国にいる人も、この世界の誰も、それを理解することは叶わない。


 誰も彼も、セラフィエルという存在を理解していない。

 アレは人の幸せを願う存在でも、豊かさを与える神でもなんでもない。


 なぜなら、アレは正しくないからだ。

 正しく、曲がっている。


 それは、今を生きる人類にとっては災いだ。



「今行きます」



 私が死ねば、セラフィエル……は行動を起こす。

 その行動を見逃すイザベラ様ではないはず。


 あの方は、知っている。

 セラフィエルを、本質的に理解している。


 ただ、相容れないのだ。

 それは人間の性だから。


 彼女が人間であればある程、セラフィエルとは相容れない。

 なぜなら、正しくないから。


 イザベラ様は殺してくれるだろうか。


 理解している事を、理解してくれるだろうか。



 この扉の向こうに、結末はある。 



 この淀んだ洞窟に唯一つ、輝く希望の光。



 貴女は否定するでしょう。

 拒否するでしょう。


 でも、私は聞いてあげない。



 ふふ、あぁ。

 どこかで読んだ恋物語のようだ。



 それを読んだのは、いつの頃だったか。

 もしかしたら、前世だったかもしれない。

 ならば、もっとロマンチックに言ってあげないといけないかも。


 そう、例えばこんな風に。




「結婚してください」





 

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