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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
王宮動乱編
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第65話 喧騒

 


「この先が男神聖堂ですよ」


 ソルディアという聖堂騎士に案内され、ようやくたどり着きそうだ。

 なんだか長い道のりだったような気もするが、こうして到着できるのならうるさい事は言わん。


「ソルディアよ」


「はい?」


 少しだけ事前情報を聞いておくか。


「女神聖堂との大きな違いはあるのか?」


「いえ、ほとんどありませんよ。女神聖堂の真似をして建てた高級宿ですからね。オリジナリティは名前だけで十分という事でしょう」


「成程な」


 やはり、イイな。

 最小限の観察だけで最大の利益を掻っ攫う、良い手だ。



 ()()、してしまうな。



「私が泊まる宿は大抵美女とひとつ屋根の下で過ごす場ですからね。高級宿ではなく、もっと色欲の香りがする場で……」


「下世話な話を一国の姫に聞かせるんじゃない馬鹿者め。…………後でそこも教えてくれないか?」


 気になってしまうだろうが。


「えぇ!一国の姫様が聖王国で男漁りですか?それはそれは……」


「私は女専門だ」


「えぇ……いや、ちょっと色っぽ過ぎませんか?」



 少々頬を赤らめたソルディアと、そんな薬にもならない話をしながらワクワクとしていた。


 そして私を出迎えたのは……。



「殿下……」


「アッ……いや違うぞオルフェン!これは違う」



 大変な怒り顔でこちらを見てくるオルフェンだった。



 奴の方が背が高いから基本は常に見下ろされる形になってしまうのだが、この時ばかりは本当に見下されているような視線を貰ってしまっているかもしれない。



「何がどう違うのか、愚かな私にご教示いただいても?宿で大人しくしておくようにお伝えしていましたが?女性の聖騎士を所望だとわがままを言うので、お迎えに行かせると言い含めておきましたよね?何か違うのか、一度お話いただけませんか?」


「あー、えーと、その……」


 ふむ、とてもお怒りだ。


 …………なぜオルフェンがここまで怒っているのか考えよう。


「その考え込む癖を逃げる事に使わないでいただきたい」


 くそ!バレた!何故だ。

 この場では一緒に言い訳を考えてくれるかもしれないソルディアは、現在腹を抱えて笑っている。


 頼りにならん呆気者め!


「お待ちを〜!お待ちを〜!」


 そう叫びながら向こう側から走ってくる男が見える。


 助け舟か!?


 そう思ったが、違った。


「さ、さきほゴホッ!ゴホッ!もうしわ……ゴホォ!」


 走り過ぎて呼吸もままならないゲリウス枢機卿だ。


 またも私の前では混沌が広がってしまった。


 そ、そんなつもりでは……。




 ◇◇




「聖女が?」


「え、えぇ。聖女様が大聖堂でお待ちです」


 息を整えたゲリウスが、汗だくでハンカチを額に当てながら答える。


 なんと聖女がもう私と会ってくれると言ってるらしい。

 その為にゲリウスは走り回って私を探しに来てくれたとの事だ。


 その辺の聖騎士に任せないのは、あまり公にしたくないからだろうな。

 その理由までは分からんが、聖女に聞けばいい。


「おぉ、願ってもない。殿下、お早めに聖女様の元へ向かってください。ここまで早く場の準備が整う事へ、聖女様に感謝を……」


 いやいや、お前は私の面倒を見なくて済むから喜んでいるだけだろう。

 信仰を盾にして喜びを誤魔化すんじゃない。


「……それはありがたい」


 まぁ、ありがたい。

 確かに早く会えることは願ってもない事だ。


 願ってもない事だが……。



 うーむ。



 うーーーむ。



「……男神聖堂を覗いてからではダメか?」


「ダメですよ殿下。聖女様をお待たせするような事は、如何なる理由であれ許されません。私は、お早めにと申しましたよ」


 くそ、やはりだめか。


 男神聖堂の目の前まで来て諦めなければならないとは、なんたる不覚だ。

 私は両手を挙げて降参のポーズをとった。


「分かった分かった。オルフェンに従うと約束する。おい、ゲリウス。大聖堂へ向かうぞ」


「はぁ……。お願いしますよ」


 オルフェンは苦労人のにおいがするな。

 私やクロエの横にいたら寿命が縮むに違いない。



「おいオルフェン。お前も来い」


「……」



 希望を失った顔をするな馬鹿め。

 私の面倒を見れる事がどんなに光栄な事か、分からせてやろう。



「では、私も共に行きましょう。なに、邪魔はいたしませんよ」


 ソルディアが爽やかな笑顔でそう言い始めた。


「聖騎士団長に聖堂騎士、更に枢機卿も共に連れて歩くとはな。私がこの国で大変な重要人物のように思えてくるな」


「重要人物ではありますな。この国のではありませんが……。万が一殿下が聖王国でお怪我でもされてしまえば、アストリア王国から何を言われるか分かったものではありません」


 それはそうだろう。

 ユリウスはそれを好機に思うに違いない。


「それに、これ程のお転婆です。このメンバーでも私は不安を感じてしまいます」


「むむ。オルフェン口を慎め!この方はアストリア王国の王女殿下であらせられるのだ」


 ゲリウスが怒っているが、お前も私に小娘だとか何とか言っていたぞ。

 私は気にしないから忘れそうだったが、今思い出した。


「ゲリウス殿、それを言うなら貴方こそイザベラ殿下に小娘だとかバカ娘だとか言っていたではありませんか?」


 ははっ。それ見た事か。

 ソルディアはあの場にいたから全て聞いているぞ。


「なっ、なんという事を言うのだ!撤回しなさいソルディア卿!」


「そんな罵倒をされてなぜ殿下は冷静でいるのやら……」


 全く、口を開けばギャーギャーと騒ぎ立ておって。


 だが、この喧騒も久しく感じていなかった。

 最後に人と馬鹿のような話をしたのはいつだったか。



 …………いや、セオドア相手に馬鹿話をしたな。 



 ならば、気のせいだろう。



 この胸の寂しさは。




 ◇◇




 そのまま騒ぎつつも、用意していた馬車に乗り大聖堂まで到着した。

 この国では大聖堂と呼ばれる建物に聖女と教皇は存在している。


 まぁ、ただの白い城みたいなものだ。

 ただウチの王城と違う事があるとすれば、高さはそれほどでもないという事だ。


 大聖堂の高さ自体はウチの王城の半分程しかない。

 その代わり、敷地面積は王城の倍ほどだろうか。


 つまり、かなり広い。

 私が全速力で外周を走ったとしても、三十分ほどかかってしまうかもしれない。


「オルフェン、なぜ大聖堂はここまで背が低いんだ?」


 素直にそう聞くと、当然とばかりに答えてくれた。


「いい質問ですね。それは我らがセラフィエル様が御座すのが空でありますから。神のいる高さ、すなわち一定の高さを超える建物は、この国では建ててはならないと決められております」


 ふむ、成程な。

 理にかなっているのかかなっていないのかよく分からんな。


 人間が建てられる高さの建物がセラフィエルに届くとは思えん。

 もし私がこの国を舵取るならば、いくらでも高い建物を建てろと言いそうだ。


 ひいてはそれが努力であり、競争であり、技術の進歩である。

 人は努力によって成長するものだ。


 宗教観的には、セラフィエルの元へ少しでも近づく為に高い建物を建設しようとか言っていてもおかしくはない気がするが……。


 何か他の理由がありそうだ。

 まあ、深入りしないでおこう。

 そんな事を考えても、良い事がひとつも無さそうだ。


 大聖堂の中を歩きながらそんな事を考えていると、一つの部屋へ案内された。


「殿下、こちらへ」


 私が通されたのは綺麗に整頓された応接間だ。

 全てに莫大な金がかかっていそうな程、白く統一されている。


 ……どこからこの金が出てくるのやら。

 それに、セラフィエルは白というより金色だ。


 一度でもあの空を見たら、とてもイメージが白だとは言えんだろう。


「どれ程待てばいいんだ?」


 この応接間には先程までいた男三人の他に聖女が座る側に更に数人の男が待機している。

 私は後ろで扉を守るかのように立ち尽くすオルフェンに話しかける。


「さて、どれ程でしょう。聖女様に会うため、突然聖王国まで押しかけたのですから、迷惑の分くらいはお待ちいただく必要があるやもしれませんな」


 おぉ、感動しそうだ。

 あの堅物だったオルフェンが、つまらんジョークを言っている。


「ではお前で暇潰しをするとしよう。面白い踊りでも披露してくれないか?」


「……殿下のお陰で、踊らされる事は得意になりそうです」


 はっ、こやつめ。

 私のせいで大変な迷惑を被ったと言いたげだな。


「随分と仲がよろしいようですね」


 ソルディアが微笑ましそうに口を開く。


「私が聖王国に着いて一番最初に世話になった男だからな。この堅苦しい鎧男を、霜降りの肉程度には柔らかくしてやらないと気が済まん」


「はぁ。ご遠慮いただきますよう……」


「聖女様がお見えになります」


 くだらない問答をしていると、とうとう到着の声が聞こえた。

 私の目線の先には、開くのを今か今かと待ち焦がれていた扉がある。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


「殿下、聖女様を鬼と呼ぶのは絶対にお辞め下さい」


 やかましい。

 物の例えだろうに。


 そして、その扉が開く。





 

「…………は?」






 そこには、セラフィエルと瓜二つの女が微笑みながら佇んでいた。





 

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