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ep.73 “誰か一人”に、届く言葉

レッスンの合間の小休止。


スタジオは、少しだけ静かだった。


汗を拭いたり、水を飲んだり、

それぞれが次のレッスンに向けて気持ちと体を整えている。


その中で、猫太さんが軽く手を叩いた。


「……ちょっといいかニャ」

自然と視線が集まる。


「目の前の“一人”に向けたパフォーマンス。先日のミーティングで話してたやつ、試してみるニャ」


――誰か一人に、届ける。

ミーティングで話のあがったコンセプト案。現実に具体化してみる。


「まずは、“その一人”をちゃんと想うニャ」


「……どんな人に向けて伝える?」

誰かがぽつりと口にした。


その問いに、すぐ答えられる人はいなかった。


少しだけ間が空く。


その沈黙を破るように、翔太が口を開いた。


「仕事とか、勉強とか子育てとか…毎日、一生懸命がんばっている人に…ってどうかなって思います」


控えめな声。でも、ちゃんと届く声だった。


「一生懸命がんばって、少し疲れてるけど、少しパワーをもらいたい人、とか?」

那音くんが続く。


「じゃあ、テンション高すぎるパフォーマンスだときついよね!」

千鶴が腕を組む。


「もっと“その人”がどんな状況かを詰めろ。解像度がまだ低い」

カノンくんは即座に切り返す。


「例えば仕事の帰り道に見たくなるとかじゃない? 一人でさ」

真秀が肩をすくめる。


「一人だけの時間、だね。」

ダズが静かに言う。


「そんな、一日の終わりに、スマホをカバンから取り出して触れたいパフォーマンスやメッセージ。」

辰煌が少しだけ前に出る。


そして――

「…少しだけ気が抜ける時間、ただの帰宅が“楽しみ”の時間に変わる瞬間」

雪雄さんの声が、やわらかく重なった。


その言葉で、頭の中に一つの景色が浮かぶ。


夜の電車の中一人で揺れる。

手の中のスマホ。


一日頑張って、少し疲れているけど、沈んでるわけじゃない。


なにか「気持ち」にパワーをチャージしてくれるものに触れたいと思う瞬間…

――そんな誰か。


「……いいニャ。それでいくニャ」

「じゃあ、その人に向けたメッセージを伝えるニャ」

猫太さんが笑った。


カメラが回る。


最初は千鶴。


「お疲れ様!パワーを少しおすそわけ!」

――いい感じ、でも少し違う。


本人も途中で気づいたのか、少しだけ苦笑いする。


次は真秀。

「おつかれ。今日も、やり切ったじゃん。大変だったこともあったと思うけどさ、それってちゃんと向き合った証拠でしょ。今は無理しなくていいよ。そのままでいい。……また明日、ちょっとずつやっていこう」

(少し間)

「俺は、ちゃんと姫のこと見てるから」


こちらもいい!すごく相手に寄り添えたメッセージ。


「……次、ぼくやっていいですか」

翔太が手を挙げた。


小さく息を吸う。


カメラの向こうを、まっすぐ見ている。


少しだけ間があって――


「……今、少しでも楽しい気持ちになってほしいから、僕は、La♪Ra・RISE!(ララライズ)は全力でパフォーマンスをします」


それだけだった。


本当に、それだけ。


でも――

誰も、すぐに何も言わなかった。


スタジオの空気が、少しだけ変わる。


「……今の、いいね」

那音くんが静かに言う。


「余計な情報がない。ノイズが少ない」

カノンくんも短く評価する。


「なんか、ちゃんと“一人“に向けて伝えている感じした」

辰煌がぽつりとこぼす。


俺も、同じことを思っていた。


大きな言葉じゃない。

派手でもない。

でも――

あの“一人”に、まっすぐ届く気がした。


「他のメンバーもやってみるニャ」

猫太さんが軽く言う。


撮った映像を見ながら、俺はゆっくり息を吐いた。


“誰か一人に届ける”。


それは、思っていたよりずっと難しい。


でも――

思っていたより、ちゃんと届くものだった。



*キャラクター原案者*

英賀田 雪雄(あがた ゆきお)  :日花子

根古島 カノン(ねこじま かのん) :日花子

京極 真秀(きょうごく まほろ)   :茶ばんだライス

折原 千鶴(おりはら ちづる)   :夏也 すみ

狭山 那音(さやま なおと)   :ギフカデ

Daz・Garcia(ダズ・ガルシア)  :HUNGRY

赤河 辰煌(あかがわ たつき)   :ウニヲ

佐藤 翔太(さとう しょうた)   :niko

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