十六話 神剣
荒れ狂う風が全身を切り裂いてくる。
だがそれを意にも介さない超再生。
傷ができた瞬間たちどころに治癒し、万全の状態になる鬼族の巫女の再生能力。
だが、龍の出した超出力と風の威力はそれすらも上回った。
風が腕にまとわりつき、気が付けばプチッとちょん切れていたのだ。
空中だが、中を蹴り竜から距離を置いた。
切れた腕はすぐに再生し、本当に切れたのかと疑ってしまうほどだった。
「……やるのう」
だが幾ら再生するとしても、今の攻撃を首や頭、胴に喰らえば確実に死ぬ。再生が追いつかない。
一発が即死の攻撃という名は体を表すというより、技は体を表すだ。
(わし一人でやるとは言ったが、すこしキツいか)
すでに3人の気配は遥か遠く、あと5分もすれば里に着くくらいには離れている。
だがそれだけで目の前の竜の危機は逃れることはできない。
竜は先ほどから里を見ている。
「わしがおらんかったら真っ直ぐ向かっておったろうな……」
冷静に状況を見て、ほとほと自分の優秀さに息が漏れる。
この戦いが終わったから葛葉に頭を撫でてもらうくらいは所望しても許されるだろう。
なんなら、そのまま初夜に突入するのも悪くない。
「くふふ、これは楽しみじゃな―――っと!」
エッチな妄想を浮かべつつも、しっかり竜の強烈な一撃を回避しながら金棒を構える。
竜の図体は巨大だが、近寄りがたい。
近寄ったところで出来ることも殆どない。
あの硬すぎる鱗が外部からのありとあらゆる干渉を遮っているからだ。物理で殴っても、魔法で穿とうとしても、それら全てはあの鱗には敵わない。
「対して此奴の一撃は即死級ときた。全く、どうすればよいんじゃ?」
最強の盾と最強の矛を持つ最強の生物ということだ。
だが、生物である時点で最強なんてあり得ない。
必ず欠陥、弱点があるはずだ。
「が、それを探すのも骨が折れるのう!」
一撃を受け止め弾き返す。それですら、足の骨が体外へ露出すふほどのダメージをこちらに与えてくる。
ここには居ないあの二人がいればと、つい鬼丸ですら思ってしまった。
「っと、いかんいかん。弱音はなしじゃ、なんせ、わしは最強なんじゃからな!」
大地を踏み締め飛び上がる。
どんなに強大な敵を前にしようが、どんなに強大な災害を前にしようが、鬼は止まらない。
逆に言えば鬼はそれを意のままに操れる存在だからだ。
「まぁ、この世界のことではあらぬがのう。じゃが、こうして今も繋がっておる、その時点でこちらの世界の常識のみならず、あちらの常識も通用するということ」
故に、この世界ではあり得ないこともできる。それが鬼丸の持論だ。
そして実際にそれは可能なのだ。否定することができない、なぜならオリアの街というものが、あり得ないもので埋め尽くされているからだ。
「真名解放。天を以てしても並ぶ者無き鬼よ、わしが命ず。その力を解放せんとせよ」
竜の眼前で起きる異常現象。
大気中の魔力がうねり始め螺旋を形成する。
完結することはない力の本流が絶えず、限界のない螺旋状を形成し、上へさらに高みへと昇っていく。
本来なら知覚することすらできない現象が、今空で起こっていた。
「常識なぞくだらぬ。限界なぞ知ったことではない。森羅万象全ての力を凝縮し尽くしてやろう。蜥蜴よ、見るがよいこれが螺旋の圧縮じゃ」
自分を中心とした半径五メートルの範囲に発生した螺旋の軌跡を、グググと鷲掴むように引き寄せていき、力を一点に集めていく。
次第に周囲が青白く発光し出す。
「ありえぬことを成してやろうのう。わしの名は、あちら側の世界のとある者と同じらしい。ならば、共通の力を使えて良いじゃろう? そうは思わぬか?」
パンっとくっつけた手のひらから現れるのは一振りの剣。
一般的な片手剣サイズだが、形や放つオーラはそれらのものを凌駕していた。
神聖な古風な剣というのが正しいだろう。
三鈷剣。それは不動明王や、文殊菩薩がよく持っている剣だ。
「魅せよう、聖剣の力を」
未だなお光放つ聖剣はこの顕界見下ろすように浮いていた。
それをガシッと力強く鬼丸が掴んだ。
「其を遮る物なし、万物に勝る超越剣」
光が強くなる。
「其は忠実なる代物、其よりも勝る物なし忠剣」
光がまた強くなる。眩しいと目も開けてられないほどに。
「其を超える剣は無し。顕界の全てを見通し、無限の具現を可能とする顕界剣」
剣は確かに成った。誰から見てもそう思えた。
それは剣という枠組みを超え、神にも近しい存在へと成り果てる。
「三つの御技を一つにし、神敵を穿つ」
所有者の敵は剣の敵。そして神にも迫る近しい存在となり得えた剣にとって、その敵は神敵だ。
「朽ち果てよ―――『顕明大通剣』」
キーン、そんな甲高い音が鳴り響いた直後、竜の全身から血が溢れ出した。
ドバドバと滝のように地面へと流れ落ちていく。
音もなく、見えることもなく、たった一振りであの竜へ致命傷を与えたのだ。
「どうじゃ、参ったか‼︎」
ガーハッハッハッと笑いながらスーッと地面へと着地した。
唐突に全身を襲った激痛に竜さ衝撃波とも言える方向を打ち上げる。
無理もない、知覚する前に激痛がやってきたのだから。
情報の処理が仕切れないのだろう。
「う〜ん、じゃが、やはり堪えるのうこれは。あまりしたくない技じゃ」
なんてことないように地面に降りてきたものの、鼻からツーっと血が流れ出した。
神を降臨させたと言っても差し支えない技がゆえの反動だ。
ただでは済まないのだ。
「まぁ、じゃがこれで決したろう。さて、あやつらと合流せんと……」
のたうち回っていた竜の動きが静かになるまで見届けた後、3人の逃げていった方向、里へ向かおうとした時だった。
グッタリと血に伏していた竜の口がガパッと開いたのだ。
「しまっ‼︎ ―――っ⁉︎」
振り向いた時には時すでに遅し、超音波と共に繰り出される暴風が何もかもを根こそぎ浮かばせ、遥か彼方へと吹き飛ばす。
流石になす術なく吹き飛ばされてしまうのだった。
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