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十五話 認識の齟齬

少し遅れました、すみません!

 ドンッと鉄製のワイヤーでほぼ簀巻き状態にした屍皇(しおう)昏霧(くらむ)を適当な巨木の下に、やや乱暴に置いた。

 流石に人を簀巻きにするほどのワイヤーを造りだすとなるとかなりくるものがあった。鼻から血がまだ止まらない。


「……さぁてさて、健全な尋問タイムと行こうかな?」


 身体強化はそのままに、鬼化を抑え、野蛮な暴力行為は排除して、冷静に刃物を突きつけながらお話を始めた。

 大まかに三つだ、一つはあのドラゴンの止め方。屍皇が操作しているなら止めさせる。

 二つ、これを機に今後一切この里には干渉しないこと。

 三つ、魔王はこの侵略行為についてどう言う考えなのか。まず、この世界では人類と魔族、その二つを代表する王国と、魔導王国の大国たるニ国間での争いについては、七十年も前に休戦が結ばれたはずだ。

 それなのにあちら側はこうして工作や侵略活動を行っている。決定的な証拠を残さずに。


「さ、答えを聞こうか」


 質問内容をあらかた伝えると、昏霧は端からこう言ったものには無理だろうと結論づけていたため、顔を顰めた瞬間に見るのをやめた。

 そして集中するのは屍皇の方にシフトした。


「……なるほど。そちらではそのような認識なのですね〜。甚だ図々しいにも程がある。面の皮が厚すぎませんか?」


 そしてそんな屍皇の反応は意外だった。

 怒りを少し前面に出した反応。

 確かに休たとしても過去の遺恨が消えるわけではないと理解はしているが、屍皇の発言「そのような認識」が引っ掛かった。

 かくゆう私もこの世界の歴史に詳しいわけではない、どちらかと言うと疎い方だ。


「どう言う意味?」

「あぁ、まぁとりあえずは順番に答えてあげます。一つ、あのドラゴンは止まりません」


 一瞬その言葉について聞きたいと言う顔を浮かべたのを屍皇は見逃さず、欲しいことを後回しにされた。

 時間がないと言うのに、それは痛恨のミスだった。


「あのドラゴンは格が違いすぎまして、私のスキルでも目標物の指定やお願いはできますが、それ以外は基本的にあのドラゴンの本能の赴くままです。今、暴れているのはあのドラゴンの本能でしょう。それを今すぐやめろと命令しても効果はないです」

「はぁ……そんなの呼び出したんか」

「えぇ、そちら側の被害はこっちにとっては戦果ですので。被害を与えるだけ評価されますし、お金が貰えるので」


 屍皇の言葉を聞いた今、ますますあのドラゴンの討伐が急務となってしまった。


「二つ、それは私の決めることではありません。上が決めることです、私たち現場はその上の指示通り動けばいいだけですから」


 当然の、至極当たり前の言葉が返って来た。

 考えなくてもわかることだし、いちいち聞くことでもなかった。


「そして三つ目、そちら側と私たち側では認識の齟齬があるようですが、まぁそれを今更どうにかするのは無理ですよ」

「……どう言う意味?」

「こちらは休戦なんてふうに伝えられてませんから。そちら側が、強力な魔導兵器を作り上げ、仮にこちらが戦闘を仕掛けた際、一瞬で蒸発させることができるから攻め込むことができないと。そしてそちら側が攻め込んでこないのは、強力な魔導兵器をチラつかせてこちら側を足止めさせている隙に、戦力増強を図ってるためと」

「……は?」


 屍皇の言葉はまるっきり理解できなかった。

 認識の齟齬? 魔王軍の軍勢を一瞬で蒸発させる兵器? 戦力増強? ……意味がわからない。

 どうしたらそんな結論になるのか。

 緋月や葉加瀬とはほぼずっと一緒にいて色んなことを話したし、王様などとも会って話した。その会話の中にそのような話はなかった。

 それに関連する話がなかったというのもあるのだが、でも、そのような話はない。


「……なに、それ。そんなの、そっちの認識が間違ってるよ!」

「……らしいですね。あなたのその顔を見ればわかります。なるほど、魔王様は正しかったのですね」


 屍皇に言われて初めてハッとした。自分の顔が動揺一色に染まっていることに。


「魔王様が正しいって……?」

「単純なことですよ、魔王様はあなた方との戦争を望んではいません。なので対話派と言われ、それ以外の戦争派が避難してるんですよ。……ですが、あなたの死は望んでます」

「……そ、そうなんだ」


 魔王に目をつけられてるのは夢にも思わなかったが、この話はとても良いものだ。

 ならば、魔王と対話をすれば良い。そして魔導王国の国民に正しく認識して貰えば良い。

 が、それはあまりに理想すぎる理想論。現実的には認識を改めてもらえるだけでも上場だろう。

 だが、まさかそんな認識だったとは思わなかった。

 それならば今までの工作や証拠なき武力侵略にも納得がいく。


「これで満足ですか?」

「……うん。とりあえず二人はここにいてもらうよ。逃げようだなんて考えないでね、その時は殺すから」

「…………そんな顔で言われましても説得力がないですね」

「うるさい。……じゃあ逃げないでね!」


 そう何度も言い聞かせて、急いで里の方へ駆け出すのだった―――。


 ―――三十分前―――


 離れて行く3人を背に、巨大過ぎる竜に立ちはだかるのは、500年前の自分ですらしないことだ。

 血気盛んなあの頃ですらだ。


「……これも成長かのう。守りたいものが出来過ぎたのじゃ」


 葛葉を始め五十鈴や律、そして緋月以外の葛葉と親しくなった奴。

 その大勢、守りたいと思える人間だ。

 500年前、戦争の最中、多種多様な種族達を襲い壊滅的な被害を与えていたのは当時の里を守るためや、鬼族を一番にするためではなかった。

 ただ単純に、自分の存在価値を示すためだけだった。

 『巫女』として生を授けられ、周りの期待通りにことをなすだけだった。傍若無人に、不完全な唯我独尊で、悦を見つけるのはいつだって戦場だった。

 そんな自分が、どうして変われたか。葛葉とアイツのおかげだ。


「じゃから、貴様はわしが倒す。わしのモノたちには手出しさせんのじゃ」


 金棒を地面に突き立て、ビシッと指を差して宣言してやる。

 ドラゴンは聞こえていたのかどうかは分からないものの、頷くようにこちらを見て来た。

「わしの120%のお披露目じゃあ‼︎」

 額から2本の大きく太く逞しい角を生やして、地面に突き立てた金棒を乱暴に掴んでは構える。


「わしには天災すらも勝てんと言うことを()しえてやるのじゃぁ‼︎」


 強敵に笑みを浮かべ、金棒を構えながら竜の顔に向け飛び上がる。地面が数メートル陥没ししようが、周囲一帯のもの全てが薙ぎ倒されようが関係なく、飛び上がった。


「最強はわしじゃぁ―――ッ‼︎」


 そして構えていた金棒を片手で振りかぶり、全身全霊の力を持って竜の頭に炸裂させるのだ。

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