十四話 くどい話だが、大切な話
見た目とは裏腹に屍皇の剣技は目を見張るものだった。
隙はなく素早い、でも力強く一太刀受け止めるだけでもこちらの姿勢が崩されるほどに。
そしてただ剣を振るうだけではなく、駆け引きと小細工を使ってくることで、こちらをとことん弄してくる。
こちらに反撃の暇を与えず、追撃してくる。
―――強い!。
「鬼化をして暴走しなかったところで、あなた自身の未熟な戦闘経験では意味がないですよ‼︎」
ガキンッと両のナイフで防ぐも、そのまま弾き返され腕を切り落とされる。
両腕を失った隙を素早く突いてくる攻撃。
半身を僅かにずらすことで難を逃れるも、さらなる追撃が胴を真っ二つにしようと迫り来る。
急ピッチで腕を元通りにしナイフではなく剣を創り出す。
騎士の持つような両刃の長剣だ。
「っ、厄介ですね。そのスキル……腕を生やし剣をも創り出す……」
弾かれた瞬間に屍皇は距離を取り息を整える。その間、会話を行うことでこちらの集中を削いでくる。
そして完全に油断したところを攻撃してくるのが先ほどからされている戦法だ。
厄介極まりない敵だ。
「それほどの力をこの程度にしか活かせないとは……論外ですねー」
「はぁ……はぁ……。あっそ、どうとでも言えばいいよ。この力を私よりも使いこなせる人が居ようとね、その力を持ってるのは私だけだから」
『想像』に『創造』。どちらも非常に強力な能力だが、今の自分に扱える能力の状態はそれほどでもない。
本当かどうかは知らないし分からない。でも、はっきりと言える、もっと強くすることができると。
覚醒なりなんなりして、一時的でもいいから最大出力を出してみたいものの、そんな兆しは全くない。
こればっかりはどうしようもないし、積極的にしようとも思わない。
だからと言って、誰かの、今のような発言にいちいち目くじら立てる必要もない。
「……そっちこそ、あなたのスキルももっと強く使えるんじゃないの? 私だったらもっといいように使うよ? たかだか魔獣を従えれる程度のスキルなんか、こう言う時役に立たないのに、人のスキルのこと言えんの?」
煽りに煽りを返す。これEPSの基本、人生でも度々使えると思うよ。
それにこの状況ならすっごく有効的。さっきからあっちもして来る。
「あーぁ、その能力が私のだったらもっと上手く使いこなせるのになぁ〜」
煽りに煽りを重ねて相手を挑発する。
相手の言われたくないことを、相手の弱点を探る。
これが戦いの基本。
実際に屍皇はスキルを使ってこない。
魔獣達はずっとこの戦いを静視しているだけだ。
魔獣に戦いをさせ、お得意の魔法を使うこともできるはず。それをしないのは謎なのだが。
「いざって時はステゴロって……www。知略家やめたら?」
「……えぇ、そうですね。私は使いこなせてないかもしれませんね。……えぇ、では使いこなしましょうか、あなたは実験台として頑張ってください?」
「はぇ?」
パチン。屍皇がそう指を鳴らした瞬間、魔獣は一斉にかけだした。
やけになったか⁉︎ と驚きを隠せないながらも、どうにか魔獣を一匹ずつ片付けていると、
「よそ見はいけませんね!」
グサッと右脇腹から左肩までを剣で貫かれてしまった。
激痛だが、すぐに屍皇へ腕を振るった。
肋骨の隙間を縫って入って来た剣は心臓を穿ったらしい。ドクドクと身体の中に血が流れ始めた。
クラクラする、血が足りなくなってく……。
「食い殺されちゃいますよ〜?」
動きが悪くなり立ち止まったところを、魔獣が足か頭までの隅々噛み付いてくる。
四肢を引き裂かれ達磨になる寸前、『想像』が間に合った。
体内に溢れた血を消し身体の全ての傷を治した。
が、その上から噛みつかれてしまった。
痛すぎる全身に下唇を噛み締めて耐えつつ、魔獣を一体一体引き剥がした。
一体だけ胸に齧り付き用とした奴がいたが、頭を拳で潰しといた。
「……ふぅ。もうっ、最初から使ってよそう言うの。出し惜しみしない!」
「ふふふ、するに決まってるでしょう? ……それにこれを耐え凌ぐ方がおかしいと思わないの?」
「……確かに、おかしいか」
思えばこんなもの必殺だ。
これを耐えれるのは私の知っている限り緋月、鬼丸、葉加瀬とか人外の領域で肩までお湯使ってる人達だけだ。
「ま、でも必殺技はもう使っちゃったんでしょ? まっずいねぇ、剣の勝負ならまだ私の方が勝てるかもよ? 賭けてみる?」
「いえ結構」
「ちぇーつまんないの」
「結構ですけど、まぁ万に一つあなたが勝つことはないですよ?」
余裕のある表情。たしかに何かありそうだ。
でも、魔獣はもういない。もしかしたらあのドラゴンを使うかもしれないけど、まぁ鬼丸が戦ってる間は……、
「ドラゴン!!」
「おや、お気づきですか?」
遅かったっ! さっきから音が聞こえなかった。
あの巨体が違う音が聞こえない!
そして今、戦ってた方向に目を向けてもそこには何もいない。
「今ごろ里でしょうね。指示を出しました、小蠅を里まで吹き飛ばし全てを燃やし尽くせと」
「っ!!」
「あなたは勝てません、あなたの勝利とはただ敵を倒せばいいではない。敵を倒した結果に訪れる救われた方々の笑顔です。死に顔ではない」
「―――」
屍皇のその言葉は胸に響く。
そう、助けるだけなら誰でもできる。
助けた結果の笑顔、それで初めて勝てる。今までもそう、この里の人々は強いからと、心の中で割り切ってしまっていた。
「さぁ、どうしますか? あのドラゴンを倒しに向かい更なる魔獣の軍勢を送り込まれるか、仲間を信じてここで私を倒し、魔獣の軍勢の進行を止めるか」
どちらにしても変わらない。
「結局人が死ぬ……」
「そうですね。あなたが【英雄】になることはないんですよ、いや、あなただけじゃない。……【英雄】なんて存在しませんよ、存在の定義が出来ないのですから‼︎」
英雄になりたいそれは子供の頃からの夢。
みんな忘れてしまう夢でも、自分だけは忘れなかった夢。自分の経験したことが特別だったからかもしれない。
でも、経験が特別でも自分は特別なんかじゃなかった。
英雄はどうしたらなれたのだろうか。
英雄の定義は辞書によれば『才知や武勇にすぐれ、普通の人にはできないような大きな仕事や偉大な功績を成し遂げた人のこと』というけど。
今の私にはそれらをしてるとは思えない。
その場の状況に流されていた、そして今回自分の意思で救おうと思った。
でも、結果はどうだ? あんなドラゴンが里に向かった時点で救えたか?
優れた能力があればいいなと思う。偉大な成果を成せればなと思う。後世の人たち全員が認めてくれるほどのことをできたらなと思う。
神話にある半神半人ならばなと思う。
でも今の自分にあるのは王国、国家に認められた称号【英雄】のみ。
本当に私は【英雄】なのか?
あぁいや、間違った。
「くどい……って怒られるな緋月さんに」
「は?」
「屍皇。私は英雄じゃないよ、【英雄】なんだ。だから、頑張るよ」
「何を言って……」
もうさんざこの話はしたし思ってた。
くどい、くどすぎる。まるで4日目のカツのはいってないカレーだ。
自分が夢見た英雄じゃないなら、夢見た英雄になればいい。その努力をすればいいんだ。
「アンタを倒す! 五分で‼︎ あとついでに昏霧も‼︎」
「―――バレてた!?」
パシッと私の首を狙ってやって来ていた凄い形の剣を人差し指と親指で掴む。
もう英雄になろう。
【英雄】じゃなく、英雄に!
「―――天に輝く白日」
「っ‼︎ 止めなさい昏霧‼︎」
私の紡ぐ詠唱に屍皇は初めて慌ててくれた。指示を受けた昏霧が拳を握った瞬間、パッと剣を離し、跳び回し蹴りを炸裂。
間一髪防いだっぽい昏霧の手のひらには靴の跡がくっきり残っている。
「金鳥の羽衣、白磁の髟」
そしてかわりばんこにやってくる屍皇を凌ぎながら紡ぎ続ける。
魔力の高まりはこの世界に元々居る者、来た者関係なく全員に伝わる。
故にこういった場面ではどんなに強い者でも焦りが出てしまうのは絶対なのだ。
「招来せし火輪、戴冠す光冠を、纏うは彩層」
「昏霧!」
焦りがやがて剣にまで伝わり、身に染みてわかる。
声や態度、表情はすでに焦りで染まっている。
冷静な判断ができなくなっているはずだ。
「こゝろせよ」
前から屍皇、後ろから昏霧。挟撃をされるものの、かえってそれが、こちらを有利にしてくれる。
それは冷静な判断もできなくなるほど焦っているからと言うのもあるし、鬼化したおかげでもある。
「この身は天照らす大御光へ至る」
「―――‼︎ 吹き飛ばせ‼︎ 『災嵐の息吹』」
こちらが最後の一節を唱えるよりも早く、最速で魔法の構築を終え詠唱を終わらせた屍皇の魔法は、物凄い威力だった。
だが吹き飛ばされながらも、こっちも詠唱を終わらせた。
「『紅焔凱―光冠彩層―』」
吹き飛びそのまま木に激突苦する瞬間、空中にて宙返りをし激突するはずだった木に足で着地した。
そして剣を構え足に力を込め飛び掛かる。
後方飛んだ後の木がどうなってるのか、物凄い音がしたもののそれは無視して、屍皇と昏霧に突っ込んだ。
防ぐ時間すら与えずに二人の手、足を切り付ける。
もう治療できる範囲に留めて切る。
後ろで二人が倒れる音がした。
剣に着いた紅い血を振り払い、鞘を創りその中に収める。
一息ついて二人の下まで歩いていくのだった。
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