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十二話 天災がやってくる

 ―――大地が捲りあがり空から木が降ってくるという異常事態。

 そんな状況を前にしても混乱はしていなかった。

 四人はいたって冷静だった。


「―――散らばれ‼︎」


 今目の前で起きた異常を飲み込み砕いて整理した鬼丸は咄嗟に声を上げる。

 その声に反応した他三人は一斉に駆け出した。

 直後四人の居た場所にはドドドと轟音と大量の砂埃を舞い上げて地面が空から落ちてくるのだった。


「……うっ、目に砂が!」


 距離を取ったものの衝撃からくる地面の揺れで転んだ律は目を擦りながら立ち上がった。

 周囲を見渡しても、舞い上がった土煙のせいか壊滅的に視界不良だった。


「み、皆さん……‼︎」


 孤立してしまったか? と不安を覚えたと同時にブォォンッ‼︎ と音を立てて土煙が晴れていく。

 突然のことに律が戸惑っていると、テクテクと鬼丸が歩いてやってきた。

 服には所々土が付着しており、怪我こそはないにしろ、差しもの鬼丸も完全には避けきれなかったという事実に、心なしが絶望する律。


「無事か……あと二人じゃな」


 律の身体を足先から頭の先までを見て、鬼丸はホッと一安心し、散らばった他の二人のことを気にかける。

 そんな鬼丸に、律はふと思った。


「鬼丸さんて意外と優しいですよね……」


 そして思ったことが口に出てしまった。

 咄嗟に両手で口を抑えるものの、言葉はすでに口から出ている。言い逃れはできない、そして目の前の鬼丸はピタッと石のように動きを止めてしまった。

 作戦行動中に言うことでも、話すことでもないのに、無意識のうちに言ってしまった。


「あ、えと! 今のは、忘れてっ下さい……?」

「……勘違いするでないぞ? わしはお主らのためにやっとるわけじゃない、葛葉のためにやっておるのじゃ。私語を慎むがよい、命取りじゃぞ」


 声を荒げ反論してこない鬼丸に困惑し始めた時、やっと鬼丸が声を出したと思ったものの、その声はいつも聞いているような声とは全く違った。

 歴戦の猛者のような、とても信頼できる声だった。

 拍子抜けし、ポカンと口が開いてしまう。


「鬼丸様っ」

「むっ、無地じゃったか」

「はいっ、少し木の破片を浴びましたが、すでに再生してます」


 そんな時、土煙の中から左肩を押さえながら五十鈴が出てくる。

 血の後が見えるものの、本人の言う通り怪我はすでに塞がっている様子だった。


「後はあの小娘か」

「っ。(しゅう)様なら、先ほどお見かけいましました。……合流なさるんですね」

「あぁ当然じゃ。……一応は敵地じゃぞ? まぁ、本来なら葛葉とすぐに合流したいのじゃが、何処におるのか見当がつかんからのう」


 五十鈴は鬼丸の考えをすぐに理解すると、クルッと爪先の向きを変えて柊を見かけた地点に向かい出す。

 その後に鬼丸も続いた。

 ハッとして、咄嗟にその二人の背中を追いかけようと走り出した直後だった、ガガガッと音を立てて地面が割れ、盛り上がり迫ってくるのだ。

 視認したものの致命的な遅さ。

 地面の盛り上がりが1センチ先ほどになったと同時、ガギンッと耳を劈くような金属音が鳴り響いた。


「律様っ、鬼丸様‼︎」


 目の前に現れたのは鬼丸だ。必死に踏ん張り歯を食い縛って何かを止めていた。


「こんっ……にゃろうめがぁ……ァ‼︎」


 踏み込み、金棒を少しずつ傾けていき止めていた何かを明後日の方向に受け流した。

 音を立てて何かは去っていく、咄嗟に鬼丸の身体を支えようと近寄ったと同時に、今度は鼓膜が破れたと錯覚するような咆哮が真隣から聞こえた。

 「えっ……?」と足を止めて、横を見た。

 咆哮のせいか土煙は一気に晴れており、燦々と照りつける太陽が森とソレを照らし出していた。

 荒い息の鬼丸は静かにソレの名を口にした。


「嵐轟竜『嵐の覇王(レントリーウィルマ)』。奴らっ、とんでもないやつを呼び寄せおったな⁉︎」


 大地をひっくり返し、鬼丸の身体を動かせるほどの力を有した魔獣、いや怪物。

 その場の全員が身上げている。

 誰もが見上げる、首が痛くなるほどに。

 全高1キロメートル、翼を広げた全幅は1.8キロメートル。

 全身を硬い金色の鱗で覆い、薄暗い翼膜。大きくありながらすらっとした身体で翼を広げられると、神秘的な美しさを放ち、自然と戦意喪失してしまう神々しさを有していた。

 過去に三度しか目撃されていない正真正銘の化け物、嵐轟竜。

 自然災害が形を成した存在とも言えるそれは、ただ静かに鬼丸達(小さなアリンコ)を見つめていた。

 絶望を通り越した訳のわからない感情が鬼丸以外を包んでいた。


「律、五十鈴よ。……去れ」

『っ!』


 固まる二人に鬼丸は唐突にそう口にした。

 二人は驚くが、鬼丸の考えを察した。いや、察せなくてはおかしい。

 二人には太刀打ちどころか、立ち向かうことすらできない相手なのだ。

 故に鬼丸は口にしたのだ。


「わしが足止めしてやるのじゃっ‼︎ さっさと行け‼︎︎」


 鬼丸のその声を聞いたと同時に、律と五十鈴は走り出した。嵐轟竜とは真反対の方向へ。

 そして背後からは、鬼化の現象とこの世の終わりかのような戦闘音が始まるのだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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