八話 そういう年齢の時に考えた技だから
一方、左翼にて交戦中の氷雨達。
姉妹のお守りを課せられげんなりしていたものの、その姉妹達の実力を見誤っていたのを痛感していた。
「椿! 突っ走りすぎですわ!」
「ん〜いいの〜」
槍で魔獣を次々と串刺しにしていく竜胆の横を駆け抜けていき、巨大な鋏で魔獣の首を刈り取っていく椿。
突如遭遇した魔獣の大群相手になかなかの善戦を行なっている。
氷雨の背後では若葉や菜葉が派手に戦っている。
「フンッ、私ほどじゃないにしても中々にやるわね……‼︎」
と姉妹達の戦いぶりをみて、いつもの如く負けず嫌い精神が漏れ出す。
自分が出る幕もなく姉妹達だけで十分なほどに弱い敵にも問題があると考え始めた頃、木々の間から赤い光が降り注いできた。
全員が一瞬だけ戦闘をやめ空を見上げた。
赤い閃光。作戦行動に影響の出る何かが起きたのだ。
先ほど右翼側でも出ているそれを見て、盛大にチッと舌打ちをした。
「アンタ達はここでそいつらを片付けなさい! 私が向かうわ!」
「りょ〜か〜い〜」
戦闘中の姉妹にそう告げてから閃光の上がった地点へと駆け出すのだった―――。
―――血塗れの獣道、その端で倒れているのは身体のいたるところを欠損した魔獣だ。
激戦の跡に奥へ向かう足取りをもっと速くする。
少しして遠くから物音が聞こえてくるのに気がついた。
刀を握り直しその音がする方へ向かった。
音がしてきていたのは鬱蒼とする森の中にある開けた空間。
濃厚が差さる明るいその場所では激しい戦闘の音が聞こえていた。
「クソッ‼︎」
高い金属の音がすると同時、大地を揺るがす爆発音がやってくる。
次に目に映ったのは血を流しへたり込む者の前に立ち、自分達の背丈の数倍はある魔獣とやり合う者達の姿だった。
「救援まだか!?」
「知るか! 隊長も言ってたろが、必ずしもできるわけじゃないって!」
「っ、このままじゃ全滅だ!」
厳しい状況と彼らのやり取りからすぐにことの経緯を察した。
察した直後に体は動いていた。
「俺が囮になる! お前らはその隙に逃げ―――‼︎」
背後にいる他の者達に指示を出す一人の男性。
その男性の言葉が終わるよりも、攻撃する方が早かった。
木々の間から飛び出し魔獣の首を一閃、そのままの勢いで茂みの中に落ちつつ、追撃を発動させる。
魔獣の首の周りに浮かぶ氷柱がぶっ刺さる、はずだった。
ガキンッと音を立てて氷柱は折れてしまったのだ。
「……なるほど」
起き上がり目の前の魔獣の特性を察する。
刀で切り付けた時も違和感を感じた。生き物を切った感覚とは異なる感触に。
「ひ、氷雨副隊長!?」
「アンタ達。まだやれる?」
「えっ……はい、やれます!」
怪我人が居るものの、その怪我はあまり深くはなさそうだった。
それに「やれる」という言葉を聞いた。なら信じよう。
紅鶴ならばそうするのだから。
「ここは私がやるわ。アンタ達は体制を整えて、本来の仕事を全うしなさい!」
「……りょ、了解!」
返事をした後、男性らは怪我人を担いで一時後退するのだった。
それをじっと見る魔獣に石を投げつけ注意を無理やり引かせる。
刀を鞘の中にしまい、いつでも戦えるように準備を整えた。
「……すぅ〜」
これは氷雨にとってのいつもの手順だ。
初撃は居合い切りから始めるのだ。
(恐らくこの魔獣の特性は部分硬化。その硬度は私の斬撃すら弾く……隊長じゃなきゃ無理じゃない、それ)
居合いの形に映りながら頭の中では、冷静に頭を使っていた。
鬼族の優れた五感を極限まで引き出すことができれば、目の前の敵の気配を感じることができる。
だがそれは誰でもできることじゃない、昔からそのために訓練してきた氷雨にしかできないことだ。
自身を中心にした半径1メートル以内に侵入した全てに神速の一刀を与える、恐らく最速の技。
そして氷雨の適正属性である『氷属性』のおかげで、斬撃と同時に相手の足止めることのできる『氷結』が出来るのだ。
大半のものはそれで済むが。目の前の魔物だけは例外となるかもしれない。
「……」
部分硬化が自分の神速の一刀を超える速度で発動できるのならば勝ち目はない。
神速の一刀でも防がれらのだから、そのほかの普通の振りでは部分硬化を超えられない。
「……」
ゆっくりと近づいて来る魔獣の気配に、刀の柄を握るからが自然と強まった。
そして、時がやってきた。
半径1メートル内に魔獣が侵入した。
その瞬間、自動的に身体は抜刀していた。
神速の一刀が魔獣へと迫った。
「―――……っ」
気が付けば魔獣の背後に立っていた。
振り返ってみると魔獣の前足一本が綺麗に切断されていた。
「……行けるっ」
神速の一刀は通づる。
だがもう一度は、流石に魔獣が許してはくれない。
「まぁ、神速じゃなくても切ってあげればいいのよね」
刀をくるくると回しチャキッと構えた。
魔獣は未だ身動きは取れないものの、こちらをヒヤヒヤさせて来るような威圧感を放っていた。
「私のオリジナル剣技受けさせてあげる、光栄なことなんだから、噛み締めて逝きなさいッ‼︎」
神速以外の技が全て防がれるのならば、これ以上ない実験台だ。
長年考えては寝かせてきていたオリジナル流派『氷雨流剣術』の良い実験ができる。
この先の未来、後世にて最も使われる流派となる剣術が今ここで明かされるのだ。
氷雨の口角は自然と吊り上がってしまうのだった。
読んで頂きありがとうございます!!
面白いと思って頂けましたら、ブックマークと評価やレビューなど、どしどししてくれると物語の面白さ向上につながります!




