五話 決戦当日朝一番
―――翌日の早朝、里中に鳴り響く鐘の音で目を覚ました。
家には相変わらず鬼丸と若葉や律、椿と自分のみで、他のみんなは帰ってきてはいなかった。
そして律が言うにはこの鐘は『非常呼集』らしい。
つまり何かがあったのだ。
大慌てで寝ぼけている鬼丸と若葉と椿を連れ、集合場所に向かうのだった。
集合場所に着いた頃には既に何十人もの人が集まり待機していた。
その中には琥珀や氷雨、五十鈴達の姿も確認できる。
「葛葉様!」
「あ、五十鈴!」
その場へ足を踏み入れた瞬間、気配を察知したのか五十鈴が振り返って走り寄ってくる。
首がグキッと言ってそうな勢いで振り返ってきたのは少々恐ろしい。
「どこにいらしたんですか!」
「えっと……あの家に」
「っ、もうっ。勝手に病室から抜け出さないでください!」
五十鈴のそのごもっともな言葉に平謝りして周りを見た。
「なんかピリピリしてるね」
「当然ですわ、あの鐘が鳴ると言うことはそう言うことなのですのよ」
「……攻めてきたんだね?」
「えぇ、お姉様が確認した時には既に。……全方位を魔獣が囲んでいたと」
声を抑えながら竜胆は教えてくれた。
意外にも早い侵攻に眉を顰めてしまう。
昨日、意識がない状態でも感じていた。自分がどれほど暴れたかを。
そのおかげでだいぶ魔獣は駆逐されたはずなのに、昨日の今日でだ。しかもまだ日の上がりきっていない早朝に。
「……紅鶴さん達は?」
「あちらですのよ。これから作戦を伝達してくれますわ」
「……」
竜胆が目を向けた先には、見覚えのある台が設けられていた。
現代日本人の感覚で言えば朝礼台だ。
「作戦内容って、知ってるの?」
「……いいえ、私は。お姉様も伝えられてはいませんの」
「なるほど。……よっぽどのものかな?」
「……それはないですわよ、私達に取れる行動は限られてますわ」
竜胆はものすごく冷静だった。冷静に物を見ていた。
そしてしばらくして紅鶴が台の上に立った。
「……皆、よく集まった。これから、作戦を伝える!」
広場の隅々まで響き渡る声。
誰もが紅鶴を見つめていた。
「これから班分けを行う! 1から5班までがあの防衛壁を越え、敵陣に突貫。大将の首を討つ!」
その言葉に一瞬にして広場はざわつきが走る。
自分自身でさえ自然と固唾を呑み込んでいた。
「1班5人だ。既にこちらで人選は済ませている、これが終わったら名を呼ぶ、呼ばれた者はアタシの下に来い!」
ざわつきは収まり、誰もが紅鶴の言葉を聞く姿勢に移った。
「そして呼ばれなかった者達は、アタシと共にこの場に残り里の護衛に就く。突撃班よりも、我々の方が過酷な戦いになるはずだ、気を引き締めろ!」
紅鶴は広場に集まる全員の顔を、一人一人見て確かめながら言葉を吐いていく。
「……今日この日、我々は命を賭してこの地を守る。ここは、我々の土地だ。生まれ育ち悠久の時、この大地の恵みを授けてくれる、我らが母たる土地だ」
雰囲気は一変し作戦伝達ではなく、紅鶴による士気向上のための演説が始まった。
「そして今、その母たる大地を知性のない獣を引き連れた蛮族が侵さんとしている。……許されざる蛮行だ」
その言葉を契機に、防衛隊の人々が悔し涙や拳から血を流していた。
彼ら彼女らの心の中にある悔しさを紅鶴は今爆発させようとしている。
「幾多の後退を経て、残されたのはこの土地のみ。……だがそれも今日で終わりにする! 我々は反撃に出るっ‼︎ あの忌々しい獣達に、蛮族に我らが闘志をぶつける‼︎」
悔しさに俯いていた者も、悔し涙を流していた者も顔を上げ、涙を乱暴に拭い闘志を露わにする。
「我々が牙を抜かれた獣だと見縊っている侵略者達に思い知らせてやろう、我々は牙を抜かれたのではなく、牙を隠し時を待っていた猛獣なのだと‼︎」
周りを見れば誰も俯いていない。
真っ直ぐと紅鶴の姿を見つめていた。
紅鶴の演説は、何度もの後退を突きつけられ泣く泣く土地を魔獣達に明け渡して行った彼ら彼女らの無念を、その時の赫怒を呼び起こす。
今この場に鬼はいない。
今この場にいるのは鬼を超えた鬼、鬼神たちだ。
「我らの無念っ、今日を持って終わらす‼︎ 皆、鬨の声をあげよ‼︎ 我々に敗北はない! 掴み取るは勝利のみだ‼︎」
その言葉と共に紅鶴は天へと拳を突き上げた。
同時に演説を聞いていた全ての鬼族の人々は、紅鶴と共に種族一丸、一心同体となって雄叫びを上げるのだった。
『―――‼︎』
鬼族と魔王軍幹部と使役された魔獣による最後の戦い。
決戦の朝一番に天は揺れた―――。
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